犬と夢
※このnoteにはペットの死について詳細に記載しています。気分を害される方もいらっしゃるかもしれません。大丈夫な方はぜひお読みください。
8月3日
夢を見た。
実家の飼い犬プチを散歩させる夢だ。もう17歳だからそんなに歩けない。なぜか夢の中でプチは真っ青な点滴をしていた。だけど散歩に出て、でもすぐに疲れてしまって抱っこして帰った。家の手洗い場で足を拭こうとしたらプチの体はいつの間にか幼犬の時よりも小さくて、片手におさまるくらいになっていた。見た目もなぜかキッチンペーパーを丸めたような姿になっており、目はボールペンで書いたような点々が2つ、鼻はなぜかホッチキスになっていた。紙切れみたいになってしまったプチを見て、これじゃあ上手く呼吸できなくてかわいそうだと思って泣いた。
そこで夢は終わった。
もしかしてと思って母親にLINEしたら案の定、ちょうど1ヶ月前の7月3日に亡くなていたらしい。
高校を卒業して実家を出た時から「もしプチが死にそうになっても知らせないで。」と親に伝えていた。飼い犬の死に向き合いたくないと思っていた。不意に実家に帰った時に骨壺に入ってるぐらいの再会じゃないと自分には受け入れられなそうだと思っていた。まさかこんな形で知らされるとは。
「実は言ってなかったんだけどねぇ、1ヶ月前に死んだんよ。でも割と最後まで元気でねえ、ご飯も食べてたし家の中も歩いたよ。最近暑いけんあんまり元気はなかってね、夏バテかと思ったんやけど。死んだ日は、朝お母さんが仕事に行く前に一緒に朝ご飯を食べて、仕事から戻ってきたらだいぶぐったりしとってねぇ、そのまま呼吸が荒くなってその日のうちに逝ったよ。」
電話の先の母は1ヶ月前の愛犬の死をとうに消化した様子だった。
「ほんでねえ、近くにペット霊園があるやろ、あそこに電話して葬儀の話とか聞いてみたんやけど、その日が土曜日の夕方だったもんでもう今の時間は開いていないんですよーって言われてね、何か箱に入れて保冷剤で冷やしておいて明日来てくださいって言われたんよ。確かにほっとくと目の周りとか虫が集りはじめててね。うわーリアルやなって思ったんよ。ほいでも何に入れようかーってうまい具合に入る箱なんか無くて、どうしたもんじゃろかって思ってたらよ、あんた6月末に鰤しゃぶ送ってくれたやろ、あれがたまたましつらえたかのようにプチの体にジャストフィットでねえ!何ならちょっと高級な鰤しゃぶやったけん紫色の紙なんかも入ってて、それがまあ何ともいい感じに棺桶の布団みたいになってて、不思議なこともあるもんやねぇ。」
なんと私が父の誕生日プレゼントに送った鰤しゃぶの空き箱が愛犬の遺体安置に一役買っていた。
「ほんで日曜の午後に霊園で火葬してもらったんよ。ちゃんとペット用の小さい枕とかを職員さんが敷いてくれてね。お線香あげますかって聞かれたんやけど、あ、うちはキリスト教なんでお線香はあげないんですよって断ったんよ。そしたら職員さんも平謝りですいませんーいうてね。気を使ってくれたんやね。こっちも気にしないでくださいーって言ってね。1匹ずつ焼いてくれるっていうからお母さんもみてたんだけど、職員さんに火葬のボタン押してみますかって言われて。普通だったら悲しくてできないかもしれんけど、プチも高齢だったしそろそろかなってお母さんずっと思ってたからもうそんなに悲しみは無くて、「わかりました!やります!」ってやり方教えてもらって火葬のボタンを「ぷっちゃんいってらっしゃーい!!」って言いながら押したんよ。」
元気だな。
「焼き上がるまで職員さんがいろんな話をしてくれてねぇ、この間は土佐犬焼いたんですーとか、体重も人間並みにあるから焼くのに2時間かかりましたー。とか言っててねえ、はぁーそうですか。なんて言って。そしたら職員さんが恐る恐る、「あのーキリスト教ってことは・・・ワンちゃんにも洗礼名とかあるんですか?ヨハネとか・・・」って聞いてきてね。もーお母さん面白くて、あーそれは人間の場合には宗派によりますけどうちは違いますね。どの宗派も動物にもつけないんじゃないですかねぇって話してね。確かに知らん人からしたらそう思うかもしれんよね。同じようにキリスト教の人が来た時に配慮できるかもしれんて思って聞いてきたんやろうね。」
「そうこうしてるうちにプチも焼き上がって、若い頃から病気してた割に骨はしっかりそろっとったみたいよ。足の方から、お骨を骨壺に入れて行ったんやけど、骨の中になんか緑色の小さい破片みたいなのがあって、職員さんにこれは何ですかねーって聞いたら、「お薬とか飲んでいるワンちゃんならまれにお薬がこんな風に残ることはありますけどねぇ」って言われてねぇ。でも緑の薬なんてプチは飲んでないし、その時は何やろかーって思ったんやけど・・・
あれ、今考えたら個体識別のICチップやったんじゃなかろうかと思うんよね。」
正直爆笑した。爆笑した後涙が出た。
そういえば首根っこにICチップ埋めてたな。
ヨーグルトを盗み舐める顔、何かして欲しい時に吠える「ボフッ!」という小さい鳴き声、ソファーに人間が寝ていると上げてくれとアピールしてきた前足、体の上に乗せた時の温もり
全部思い出した
「面白いのが、お骨と一緒に家に帰ったのに玄関開けた瞬間ぷっちゃんただいま〜って言ってしまったんよ。習慣づいとるんよね。ここ数年は夜鳴きもあったけん夜中によく起こされたけど、プチがいない今でも2時間おきに目が覚めたりするよ。まあそれはお母さんが歳とって眠りが浅くなっただけかもしれんけどね。」
老犬の世話を一手に引き受けてくれていた母はあっけらかんとしていた。
私が10歳のころに飼いはじめたチワワのプチ。
自分で世話をするからとねだってかってもらったけど結局ほとんどの世話は母がしてくれていた。5歳くらいから病気がちになり、大学病院にお世話になったこともあった。父の仕事の都合で渡米した時も一緒に連れて行った。なぜかその後病気が治って元気になり、「チワワの原産ってメキシコだし、メキシコが近くになって元気出たんじゃない?」という謎説が出たりした。
チワワらしく臆病でわがままであまり頭の良い方ではなかったけど可愛らしい犬だった。
実家を出てからはプチとは年に1回会うか会わないかという感じだったので、次に会うときはお骨かもねーなんて別れの挨拶をしていた。前回実家に帰った時もそうした。別れの挨拶をしておいてよかった。
「あんたが欲しいならお骨持って行ったら?分骨してもいいし。」
「うーんでもずっと実家にいたからそのままでいいんじゃないかな。」
6月3日に17歳になり、7月3日に亡くなって、8月3日に夢で会いにきてくれた。
夢の内容はすごく悲しかったけど、それが悼むきっかけになった。
プチよ、天国で楽しく暮らしてくれ。また会おうね。
(写真は今年の冬に撮られたもので、母に抱っこされて散歩に行くプチです。)