理事長で良かった…
対人援助の職に就く者たちは管理職になることを嫌います。いつまでも現場の直接支援者でありたいと思います。パソコンに向かっているより利用者と向き合っていた方が楽しいです。私もそうでした。しかし、今では管理者・理事長という立ち位置にも慣れ「担当」と言われるケースを持っているときとは違う喜びを感じています。
私は、障がいのある人が利用する事業所を経営しています。今の社会福祉法人を作って15年が経ちました。主な仕事は、理事長業務としての法人運営です。やはり一日の大半をパソコンの前ですごしています。しかし、どこを向くかは自分で決めることができます。また、一つの事業所に留まることがないため、より多くの利用者にお会いできる楽しみがあります。
日中活動での喜び
日中活動の支援者は、日課として利用者にさまざまな活動を提案して実践しなければいけません。一人ひとり求める活動が違うので大変です。活動が滞れば、利用者から怒られることもあります。
その点、理事長の私は恵まれています。事務室に座っているだけで、利用者が話をしに来てくれます。また、私がトイレに行くときに作業室を通り抜けると、利用者が話かけてくれます。何もしなくても相手にしてもらえます。たいへん嬉しいです。理事長で良かった、と思う瞬間です。
グループホームでの喜び
今日は、グループホームの日勤でした。私の車が駐車場に入る音を聞きつけて、利用者が玄関の扉を開けて向かいに出てきてくれました。中に入るとスリッパを出し、私の靴を片づけてくれます。つらいのは、スリッパに履き替える前に手を引かれて連れて行かれることぐらいです。
私が、リビングでカバンを下ろしていると「髙橋さんさぁ…聞いてよ」と別の利用者が話しかけてきました。また、反対側から別の利用者が「お小遣いのことだけどさぁ…」と、前置きなく話かけてきました。2人にはさまれていると、さっき手を引いてくれた利用者が、自分の部屋から最近買ったDVDを持って来て見せてくれました。聖徳太子の耳がうらやましいです。私は、たまにしか来ない分、希少価値が高いようです。やっぱり理事長で良かった、と思う瞬間です。
理事長で良かった
日中活動やグループホームを訪問した際、利用者が喜んでくれる姿を見れるというのは幸せなことです。一つの事業所に常駐している支援者より、より多くの利用者の喜ぶ顔に出会うことができます。これこそが理事長の喜びです。
私でも役に立っているんだ…
アドラー心理学を基礎とする、子育てにおける親の育成プログラム、パセージというのがあります。そこでの学びは、子育てに限らずあらゆる対人場面に有効です。そのパセージの冒頭に心理面の目標というのがあり、こう書かれています。
心理面の目標
1)私は能力がある
2)人々は私の仲間だ
※野田俊作「パッセージ」
支援者がかかわりを持ったとき、相手がこのように感じられるようにかかわることがだいじです。また反対に、私がこの心理面の目標を意識していることで、利用者が私にかかわってくれたとき、私も同じように、自分には能力がある、人々は仲間だと感じることができます。
スリッパを出してくれたり、お茶を出してくれたり、手を引いてくれたり、話かけてくれたり、利用者の皆さんに感謝でいっぱいです。私でも役に立っているんだ、そう思えます。利用者のみなさんのおかげで、来て良かった、迎えてくれてありがとう、いつもそんな気持ちになります。