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食べ物を一口大にする/お箸があるじゃないか!
利用者の嚥下能力の低下に伴い、食べ物の大きさを小さくしなければいけないことがあります。ただし、小さくするときも配慮しなければいけないことがあります。
事業所で提供するご飯
私は、障がいのある人が利用する社会福祉法人を経営しています。法人が経営する事業所では、食事の提供があります。その際、利用者によっては食べ物の大きさを小さくしなければいけません。
生活を支援するグループホームでは、朝ご飯と夕ご飯の提供があります。ご飯は、グループホームの近所に住む人が有償ボランティアで作ってくれます。日中活動では、お昼ごはんの提供があります。日中活動は、一度に提供する食数が多いため調理専門のパート職員が作ってくれます。こちらも地域の主婦の人たちです。グループホームも日中も地域の皆さんで支えられています。
調理ばさみでジョキジョキ
以前の日中活動でのことです。調理パートさんが作ってくれたご飯がお盆で運ばれてきました。そのあとは利用者と支援者が協力して配膳をします。それぞれの席に食事が置かれたあとのできごとです。一人の支援者が、調理ばさみを持ってきて何人かのおかずをジョキジョキ切り始めました。食事が運ばれたあと、本人の目の前でのできごとです。私は、あわててジョキジョキする手を止めました。
私が支援者に話を聞くと、小さくしないと丸のみをして危ないから、調理室で切ってもらうと運んだときに間違えたら困る、それに調理する人が大変だからと言います。その支援者は、私が説明するまで、私に止められた理由がわかりませんでした。また、私が説明したあとも不服そうな顔をしていました。
見た目もだいじです
食べ物を小さくしなければ飲み込んで危険、それはその通りです。しかし、本人の目の前ではさみでジョキジョキはうれしくないです。大切にされている感がありません。この「大切にされている感」というものを忘れてはいけません。流れ作業でジョキジョキすれば、お皿の中の食べ物はぐちゃぐちゃになります。見た目が良くありません。
今は、調理員さんが小さく切ってから盛り付けてくれます。見た目は一緒です。説明をすれば、調理員さんはきれいにていねいに仕上げてくれます。食事は、楽しく、美味しく食べられるような工夫が必要です。
お箸があるじゃないか
先日、日中活動で給食を食べていたときのことです。その日は、チキンの照り焼きでした。ある利用者が、噛み切れないから小さくして欲しいと言いました。横にいた女性支援者がその利用者のお皿を受け取りました。それを見ていた別の若い支援者が、さっと立ち上がり「はさみ持って来ますね」と調理室に行こうとしました。若い支援者は、全体を見ながら食事をしていたのでちょっとした変化に気づくことができました。これは支援者としてだいじなスキルです。
しかし、利用者の横にいた女性支援者が言いました。「ありがとう、でも大丈夫、お箸で切れるから。」
そう、お箸で小さくちぎればいいんです。
雰囲気もだいじ
「食べ物を一口大にする」=「調理ばさみ」
一つ楽な物を見つけると、他の選択肢がなくなってしまいます。しかし、テーブルの上に並んだ食べ物は、調理ばさみがなくてもお箸で簡単に小さくできます。その方が、食事場面に違和感がありません。支援をするときは、支援者の効率だけではなく、その場の雰囲気もだいじにしなければいけません。
もし、私がその対応をしていたら、私はお皿を持って調理室に行き、そこで切ってもらうとしたのではないかと思います。箸でちぎればいい、支援者からだいじなことを教えてもらいました。