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常に「場」を見る
ご年配の男性が読書をしていました。そこに通りがかりの支援者が声をかけました。
「〇〇さん、なに、読んでらっしゃるのですか?」
しばらくして交代で出勤した支援者がその男性に声をかけました。
「〇〇さん、本、読んでらっしゃるんですか?」
また別の支援者が通りかかってその男性に声をかけました。
「〇〇さん、その本、おもしろいですか?」
私の知人が高齢のデイサービスでアルバイトを始めました。その知人から聞いた話です。私の知人は、「読書に夢中になっているとき、しょっちゅう声をかけられたらわずらわしいと思うんだけどなぁ…」そんなことを言っていました。
利用者に声をかけるのは基本です
私は、障がいのある人が利用する事業所を経営しています。支援場面では、利用者に積極的に声をかけてコミュニケーションをとることは大事です。支援者には、自分からおしゃべりをしてくる人や、話しやすい人ばかりではなく、いろいろな人に声をかけてください、とお願いをしています。
その点からいえば、冒頭のやりとりは正しい対応です。しかし、知人の視点も大事です。私たち福祉従事者は、支援をすることに真摯に向かいすぎて、ご本人が見えなくなるときがあります。さらに、マニュアルに従うようなカタチだけの声かけもあります。
また、今回のようなやり取りが続くと、ねじれた本人像が作られてしまうことがあります。それは危険な先入観です。
ねじれた本人像
本に夢中になっているとき、代わる代わる声をかけられると、声をかけられた人はわずらわしいです。受け答えも不愛想になります。それが普通です。しかし、そのやりとりから支援者は、あの方は一人でいるのが好き、あまり声をかけないほうが良い、そんな判断をします。その結果、その利用者は孤立してしまいます。
私の法人のグループホームでのことです。私の法人のグループホームは知的な障がいを持つ人たちが暮らしています。騒がしいことが苦手な入居者がいます。リビングで他の入居者がキャーキャー楽しんでいると、スッーと自分の部屋に逃げていきます。
それを見ていた支援者は、その人は一人でいる方が好きなんだ、と思うようになりました。やがて平常時でも、その入居者に対して「お部屋に行きましょう」と声をかけるようになりました。その入居者は、いつも一人ですごすことになりました。また、その入居者の資料には「部屋で一人ですごすのが好き」と書かれました。本当は、騒がしいのが苦手なだけです。
背中を見せない
私は、この仕事をするうえで絶対に守らなければいけないと思っていることがあります。それは「利用者に背中を見せない」ということです。常に「場」を見ているということです。「場」を見ていれば、本を読んでいる人が目を本からそらしたタイミングがわかります。入居者が騒がしいと思い耳をおさえたり、顔を曇らせたりする瞬間をキャッチできます。
利用者に声をかけることはだいじです。そのタイミングをつかむこともだいじです。今回は、アルバイトを始めたばかりの知人からたいじな気づきをもらいました。