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心理学・3つの勢力と福祉サービス(アドラー心理学ゼミナール秋講座①)

10月19日から早稲田大学エクステンションセンター中野校で「アドラー心理学ゼミナール」の秋講座が始まりました。私は10年前から中野校でアドラー心理学を学び始め、最近はそこでの学びを自分の実践に重ねてnoteに記事を書いています。
講座は月に一度開かれます。11月の講座を直前にひかえ、10月に学んだことを実践と照らし合わせてふりかえります。

使えることがだいじ!

私は、障がいのある人たちが利用する社会福祉法人の理事長兼相談支援専門員をしています。いままで、このnoteでは「対人援助職にはアドラー心理学が必要だ」と書いてきました。それは「アドラー心理学が使える学問」だからです。また、私にとって「使える」とは実践に活かせる、それにより利用者(援助を必要とする)に有益にはたらくということです。

さらに、私が専門とする障害福祉分野では、働く人、支援者の育成が課題となっています。福祉サービスは慢性的な人材不足により、支援者は十分な研修が受けられないまま現場に出て行くことがあります。特に、小規模の事業所では支援者を研修に出すことする難しいことがあります。参考に、公益財団法人日本知的障害者福祉協会 調査・研究委員会の報告等をみると、有資格者が少ないことがあきらかです。それでも、支援者の質の担保や次世代への継承をしていかなければいけません。

そこで提案するのがアドラー心理学を理解し実践することです。アドラー心理学は、まず自分の信念を見直すことで実践に活かすことができます。信念を変えるのは難しいことです。しかし、自分の決心一つでより良い支援を実践することができます。それがアドラー心理学の魅力の一つです。

心理学、140年の歴史を学ぶ

アドラー心理学ゼミナール、秋講座第1回目の主たるテーマは「140年の心理学は人間をどう捉えてきた」でした。ここでは、心理学全体の中でアドラー心理学はどのような位置づけにあるのか、そこを学ぶことができました。

私は、対人援助職はアドラー心理学を学ぶ必要がある、と言い続けています。しかし、アドラー心理学だけで援助が必要な人すべての課題が解決できるわけではありません。多面的な視点が必要です。また、他の心理学を学ぶことで、アドラー心理学の有用性を再確認することもできます。

今回の講義では、心理学の第1勢力としてフロイトやユングの精神分析学第2勢力としてスキナーの行動分析学第3勢力としてマズローやロジャーズの人間性心理学あり、その人間性心理学の源流としてアドラー心理学があることを学びました。

3つの勢力と福祉サービスがどのような関係にあったのか確認します。

第1勢力:精神分析学と福祉

対人援助職においては「ケースワーク」という言葉が使われます。ケースワークとは困難な課題や問題をもった対象者(クライエント)が自立して生活できるように支援、援助していくことで、個別援助技術と翻訳されます。このケースワークを理論化・体系化したのがイギリスのメアリー・リッチモンドです。またメアリー・リッチモンドのケースワークは、フロイトの精神分析の影響を受けており「フロイト派」とも呼ばれ、行動の原因を知ることに重きが置かれた理論(原因論)になっています。

しかし、実際の支援場面では行動の原因を知るだけでは解決できない課題が多くあります。さらに支援者が利用者の行動の原因を追究することで、利用者との人間関係が悪化することがあります。たとえば、利用者が支援者から見て不適切な行動をとった場合、支援者は「なんでそういうことするの」と、原因を問い詰めます。しかし、利用者は支援者が納得するような答えを口にするのは困難です。結局、利用者は追い詰められて注意されるそれだけで、理不尽な思いをします。発展的な解決にはいたりません。

それに対して、アドラー心理学は目的論の立場をとります。支援者から見てて不適切だと思える利用者の行為も利用者にとっては適切な行為であり、目的のある行為です。その目的を知ることで、同じことの繰り返しを防ぐという効果が期待できます。

第2勢力:行動分析学と福祉

障害福祉分野、特に強度行動障害を持つ人への支援技術として行動分析を源流とする応用行動分析学の手法が用いられ成果をあげています。しかし、高度な技術や準備、そこに取り組む覚悟が必要です。

たとえば、専門の支援者、環境(建物の構造、広さ)が整ていれば、応用行動分析学の手法を活かすことは可能です。しかし、小さな事業所、特に一般家庭に近いグループホームには限界があります。また、そこでは複数の支援者(主に非正規雇用)が交代で勤務するため、応用行動分析に基づく支援を統一するのことが難しいです。さらに、応用行動分析学では良い行動を強化するために、本人にとって価値あるもの、トークン(褒美のような物)を使うことがあります。それが、小規模のグループホーム等では、対象外の利用者にとって「ひいき」ととらえられることがあります。たとえば「よくできたね」という言葉かけさえ「なんであの人ばかり褒められて…」という嫉妬に変わります。

それに対して、アドラー心理学がすすめるのは感謝の言葉です。「ありがとう」その言葉はあらゆる場面で、誰にでも何度でも使うことができる言葉です。

第3勢力:人間性心理学と福祉

いまの福祉サービスの理念に最も近いのが人間性心理学ではないでしょうか。現代の福祉サービスにおける大原則は「自己決定」とそれに向けた「意思決定支援」です。人間性心理学に共通するところは、人は主体的に決断することができる、自分の人生は自分で選び決めることができる、ということです。これは人間性心理学の源流となるアドラー心理学の基本前提の一つに「個人の主体性」というものが定義されていることでも明らかです。

この人間性心理学の一つとして、カール・ロジャースが提唱する「傾聴」があります。この傾聴は、対人援助職では絶対に必要とされる技術です。しかし、この傾聴も偏ると有効な技法ではなくなります

支援場面では、いろいろな話を聴きます。その話の中には、支援者に聴いてもらうために作られた悩み事があり、悩み事が手土産になっていることがあります。そこで、利用者が来て話を聴く、それだけではなく聴かれる前に聴きに行く、手土産がなくても話を聴きます、という姿勢を示していくことが必要です。

最後に

3つの勢力をいまの福祉に関連付けて考えてみました。私の記述は、私が支援する対象者中心の話です。そこではアドラー心理学が有効であるということです。しかし、対象となる利用者、またその環境に応じていろいろな技法を使い分けていかなければいけません。その中で、私があえて「アドラー心理学がだいじ」と声にする理由は、アドラー心理学が精神分析や行動分析に比べて知られていないということ、また専門職資格取得における学習でも取り上げられないからです。対人援助職にたずさわる人に、興味を持ってもらえると嬉しいです。


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