いのなかのかわず その2/福祉の世界
私は、障害福祉サービスという分野で働いています。この仕事に関わり始めて35年がすぎました。
数年前、「研究」の勉強をしました。そのときにあらためて、自分が、「いのなかのかわず」だということを知りました。私は、いのなかのかわずであり続けるために、より深い所深い所を目指して潜っていました。その結果、私の周りには、その井戸の中だけでしか通用しないルールや、私がその井戸の中で生活するにふさわしいルールをたくさん作ってきたということを知りました。
昨日に続けて「いのなかのかわず」という題でnoteを書きます。昨日は、だいたいの概略を書きました。今日は、私が生息する福祉の世界独特のルールを書きます。
日中活動の日課
まず、日課です。ここに紹介するのは、障がいのある人が日中に活動する日中活動事業所と呼ばれる所の一般的な日課です。
09:30 出勤(出所)
10:00 朝の会~午前の活動
12:00 昼食,休憩,清掃
13:00 午後の活動~帰りの会
16:00 退勤(退所)
この流れは、私がこの職に就いたころから同じです。ときどきこれでいいのかなぁ、と疑問に思い、少しづつ変えています。しかし、日課を変えようとすると、支援者は良い顔をしません。
集団を重んじるがゆえ…
支援は、本来、個別性が重視されなければいけません。しかし、実際の場面では、集団で同じように行動するのが正しいことになり、そのように行動できるように支援されます。利用者を見ていると、集団で行動する、他人と同じようにしなければいけないところに窮屈さを感じている人がいます。もっと多様な生活スタイルが作れるようにしなければいけません。ただし、そのためには人手が必要です。今は、支援者の数が少くなく限られた人数で支援をしなければいけないため、集団行動や集団規範が重要視されます。
次に独特な習慣やあたりまえについて実例を紹介します。
みんなそろって「いただきます」「ごちそうさま」
以前は、昼食が始まる前は全員がそろって、声を合わせて「きをつけ! 礼! いただきます」という習慣がありました。長年かけて、この習慣をやめました。
まず、全員が席に着くまで待っていると、給食が冷めます。さらに最初から席について待っている人は、待ちきれず、フライングをして支援者から注意を受けます。理不尽です。
利用者は、長年この方法で食事をしてきました。その結果、外出先のレストランでも、同じように号令をかけなければ食べられない利用者がでてきてしまいました。
以前、福祉サービスは「指導」でした。そのなごりで、この習慣が残っているのでしょう。
大っぴらにトイレに誘導
外活動の前、利用者が帰る前、支援者は大きな声でこう言います。
「○○さん、トイレ行った?」
「○○さん、トイレ行ってくださーい」
一般的にトイレは、さりげなく断ってから行きます。堂々と「髙橋、トイレ行きまーす」と宣言をしません。
支援者からすれば、外出中にトラブルがあってはいけないという思いがあります。しかし、配慮にかけています。支援者にとって、当然だと思っているトイレ誘導も、支援者の都合でやりやすいように支援がされています。支援者が、ちょっと動いて利用者のそばにより、耳元でそっと「トイレは?」と確認すれば済むことです。
都合のいい支援からぬけだそう
私たちは、「支援」というお題目のもと、まかり通っているおかしなことがたくさんあります。以前の私もそうでした。また、いまでも自分勝手な支援をしていると思います。利用者は、なかなか教えてくれません。自分から、意識しないと気づきません。
私は、福祉の世界にどっぷりつかり、その深いところを目指していました。もう、30年以上潜っています。やっと今、少し外の空気を吸い始めたところです。