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【アドラー心理学ゼミナール3】感情/支援が支配におちいるとき

早稲田大学エクステンションセンター中野校で開講されている「アドラー心理学ゼミナール」での学びを自分の実践に重ね、また対人援助職はアドラー心理学を学んだ方がいい、そんな視点で記事を書いています。今回はその3回目(06/15開講分)、「感情」についてです。

前回までのふりかえり

第1回目は、アドラー心理学の5つの基本前提を学び、そこから対人援助職に就く者はアドラー心理学を学ばなければいけないと書きました。また第2回目ではアドラー心理学の技法の一つ「ライフスタイル」を学び、このライフスタイルの応用が人を理解することにつながるということを書きました。よろしければ記事をお読みください。
【アドラー心理学ゼミナール1】5つの基本前提
【アドラー心理学ゼミナール2】ライフスタイルをどのように使うか

3回目のテーマは「感情」です。感情のしくみ、目的、種類、対処方法などについて学びました。また、講義の中ではアンガーマネジメントにもふれました。この怒り感情を代表とするネガティブ感情との向き合い方は難しく常に課題です。私は、ネガティブ感情との向き合い方について悩んでいるときにアドラー心理学に出会いました。

私は、障がいのある人が利用する社会福祉法人の経営者です。小さな小さな(10人ぐらいもしくはそれ以下)事業所が複数あります。また、理事長をしながら相談支援業務にも携わっています。もともとは小さな事業所の支援者でした。そこで障がいのある方が軽作業をする支援をしていました。その後、今の社会福祉法人を作りました。それが20年前です。また今から10年前、ある事件の関係者になりました。

支援者がマイナス感情を持つとき

「支援」という仕事は、対人援助職と呼ばれます。この対人援助職は感情との向き合い方が肝になります。また、支援の鉄則は、支援を受ける人の価値を尊重することです。しかしその価値は支援者の価値と大きくズレることがあります。そのとき支援者は、自分の価値が正しい、支援者の思う通りにした方が良い結果になると思い込んでしまうことがあります。これはまちがいです。

支援者が、支援を受ける人の価値を軽んじ、支援者の価値を押し通すと支援を受ける人は抵抗します。そのとき支援者は、その抵抗をわがままだと判断し、その抵抗に対してマイナス感情をぶつけることがあります。怒って支援を押し付けるということです。これは人権侵害です。

10年前、法人内の事業所である事件が起きました。事件後、私はその事業所にはりついていました。そのときその事業所で居心地の悪さを感じました。そこでは、支援者が常に利用者を注意していたました。支援者の思い通りに利用者をコントロールしていました。居心地が悪い、しかしこの土台を作ったのは私です。利用者に申し訳なく思いました。そこで私は、いままでのやり方を根本から崩した「支援姿勢」を打ち出しました。ところが、その支援姿勢に多くの反発が返って来ました。

支援姿勢への反発

私が表明した支援姿勢は3つです。

①怒らない、声を荒げない、注意しない工夫をしよう
②伝える工夫をしよう
③ルールにとらわれないようにしよう

しかし、この支援姿勢に支援者、さらには利用者の家族から反発の声があがりました。皆さんがとくに反発したのは①の「注意しない」というところです。皆さん、口々に…

「注意しなくてどうするんですか」
「注意しないで好きにさせていいんですか」
「注意してくれなかったら困ります」
「注意しないで何かあったらどうするんですか」

そんなことを言っていました。しかし、私が言いたかったことは、注意する前に注意しなくてもすむように手を打とうということです。しかし「注意しない」というところだけを取られてしまいました。どうやら皆さん人を注意するのが好き、人を注意したいようです。

そのときは相当落ち込みました。周りがすべて敵のようでした。またある人からはアンガーマネジメントを学びなさいと言われました。これはすごくいい、いま注目されているから、と勧められて受講しました。しかし、しっくりきませんでした。私は、世間の注目を受け入れられずさらに落ち込みました。その後に出会ったのがアドラー心理学です。

アドラー心理学で変わった私

アドラー心理学に出会う前の私は、何かハプニングが起きると「なんでそんなことするの」と利用者を問い詰めていました。これは原因論です。それに対してアドラー心理学は目的論です。何がしたかったのか考えます。支援者にとっては不適切だと思われる利用者の行動にも目的があり、それは利用者本人にとっては良くなろうとする行動であるということです。この視点は衝撃でした。それ以前も「利用者の意思を尊重しましょう」と、法人の従業者(支援者)に言ってきました。しかし、それは中身の無い言葉でした。

また、マイナス感情を持ってもいい、しかしそれを使ってはいけない、ということも腑に落ちました。利用者に何かを伝える際、支援者がマイナス感情を表出させれば利用者は遠ざかります。遠ざかれば伝わるものも伝わらなくなります。さらに、支援者が守らせようとしていることは支援者が勝手に決めたルールであり、それは支援者の仮想的な目標にしかすぎないということにも気づきました。アドラー心理学は、私が打ち出した「支援姿勢」を理論的に説明してくれました。私は、アドラー心理学で自分を見直すことができる、自分の法人の目指すところを明確に説明できる、そんなふうに感じました。それから10年が過ぎました。変わったこともあれば変われないことも残っています。

支援が支配におちいるとき

最近では、支援者が利用者に対して声を荒げることは無くなりました。しかし、変われない部分が残っています。障がいのある利用者の中には高頻度で暴れたり、興奮状態になってしまう人がいます。かかわり方が難しい利用者です。しかし、そんな利用者が特定の支援者の前ではおとなしくなることがあります。

人が落ち着いているというのは良いことです。しかし、その落ち着きには2種類の落ち着きがあります。心からくつろいでいる落ち着きと、委縮してじっとしている見た目だけの落ち着きです。その違いに気づかず、かかわりの難しい利用者が静かになっているとそれが良い支援だと思われることがあります。さらにその支援者が優秀な支援者だと思われます。反対に利用者を静かにさせることができない支援者は未熟な支援者だと思われてしまいます。本当は、ある支援者の前では感情が抑えられ、ある支援者の前では抑圧された感情があふれ出ただけなのかましれません。

その結果、利用者を静かにできる支援者を手本とし、利用者を静かにさせるだけの支援者が増えていきます。こうして支援者が支配者に変わっていきます。それを食い止めるためにも対人援助職はアドラー心理学を学ぶ必要があると思います。



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