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vieのような花火/「野蛮人のように」

俺知らねえ。俺自分の誕生日知らねえ。
でもよっ、女ってのは誕生日聞きたがんだろう。だから俺その度作ってさ。12月1日とか、4月15日とか。でもよ、どれもしっくり来なくて、気持ち悪くてよぉ!

映画「野蛮人のように」より。記憶だけで書き起こしたセリフなのでちがうかも

ロアビル前で花吹雪やっちゃう「THE・少女漫画」

 監督脚本は川島透。つまりそういうことで、安定のハードボイルドである。10代半ばで鮮烈にデビューした天才作家(薬師丸ひろ子)は海辺のコテージを自宅兼仕事場にしていて、ジープを駆って六本木あたりに繰り出し、気分転換したりもする。酔って夜の街を歩いていて、チンピラ(柴田恭兵)にぶつかる。「何様だよ」と言われ激高して引っ叩き、殴り返される。そこに、その最悪の出会いを俯瞰しての花吹雪。やりたかったことを全部やっちゃう我がまま度がたまらない映画。主題歌は「ステキな恋の忘れ方」。

 少女を買っていたヤクザの親分がホテルで殺される。すわ抗争かと、犯人捜しが始まる。「現場には女がいた」という証言から、偶然その証言と一致するファッションに身を包んでいた作家が追われるはめになる。それを行き掛かり上助けることになるのがチンピラ。事情が分からないままの逃避行中、チンピラは刺される。刺されたチンピラをジープに乗せ、作家はコテージに逃げるが、追手はその二人を諦めてはいなかった。

「何が可笑しいんだよ」「まだ、一緒にいるから」「そうだな」
「でも、こんな予感がしたわ」

映画「野蛮人のように」より。記憶だけで書き起こしたセリフなのでちがうかも② 

 ジョニー大倉が地下鉄駅員役でカメオ出演。寺田農が内容とは一切関係ない場面で、どうやら美人局に遭ったらしいサラリーマン役で数分出演しているが、尾藤イサオと共に味があってたまらない。不気味な三木のり平と常に脂汗をかいているような清水綋治が後部座席に並ぶ車には同乗したくない。ブルース・ブラザースがずっと追いかけてくるのも地味に嫌。


 この映画は角川から独立した薬師丸ひろ子の第一作目。移籍前は歌唱印税なしの月給制(150万/月)だったとWikiにあって「知りたくなかった」という思いでいっぱい。囲い込みにもほどがあるだろう。もちろん月に150万円のみでいいから「薬師丸ひろ子になりたい」女の子は当時もたくさんいたはずだけど、だから良いというものではない。文化を守るって何だろうなと思う。そういう意味では、この映画は独立した後の出演なので安心して観ていられる。忘れられたような映画ではあるのだけど、悪くないし、好きだ。


 顔見知りのファッションモデルから撮影に使用した帽子をもらった、それだけのことが運命を変えてしまったのかもしれない。作家有栖川珠子はアリスさながら悪意と蛮行の世界(不思議の国)に踏み入り、翻弄される。その描写は一貫して幻想的で、珠子には暴力さえ現実と思われない。地下鉄であわや死ぬところだった場面でも、珠子が目を奪われているのは死ではない。
 「人生(vie)のような花火……」と珠子はつぶやく。

 しかし悪夢さえ覚めないほうが良い場合もある。コテージは襲撃される。銃弾の雨に子どもの頃の写真が入った額が落ちる。陶製の白うさぎが弾け散る。これは現実で、闘わなければならない。ヒールの靴を脱いで裸足になり、モンロードレスのままコルトガバメントのマガジンに弾を込め始めるシーンは何度観ても飽きない。


 このコテージがある美しい浜はどこだろう、と思った方に。湘南と思う方もおられるだろうが、ロケ地は茨城県の波崎海岸である。そしてこの記事は千葉茨城辺りを愛してやまない私によって、単にそれを自慢したいがために書かれたのである。いいですか湘南じゃないんです波崎海岸なんですよ!

 美しい海浜と、惜しみない花火と、バイオレンスが好きな方はぜひ。



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