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【小説】第11話『氷点下の挑戦(全14話)』

【注意】この小説はフィクションです。

登場人物は架空の人物であり、登場する場所や、小道具などは、実在したり、しなかったり、ユーモア小説としてお楽しみください。

(全14話)です。

明日、10話〜14話まで予定。

よろしく、お願いします。

(シナリオの欠点を見つける)


 ―2日後 PM10:00―

 金城は、机に肘をつき、髪を搔きながら、パソコンのキーボードを叩いては消し、叩いては消し、シナリオに難航している。

「あー、もう!」

 腕を組んだまま、背もたれに凭れ掛かり、大きなため息。

 この間、東京で、クライアントの平野が連れて来た、サブライターの夢川宇宙と会った。

 大阪へ戻った金城が、常日頃から10本は蓄えてるプロットを送ると、今朝メールで返信があった。先程、PM8:00にシナリオが帰って来た。

 


 シナリオでも小説でも同じで、外してはいけないプロットの柱というものがある。宇宙の送って来たシナリオはそれをいくつか外して、キラキラの日常シーンに挿げ替えていた。シナリオ、破綻。芝居を潰す行為だ。

 これが、平野によるダメ出しで、書き換えたのか、宇宙の感性によるものなのかはわからない。

 金城には、気に入らない物が、出来上がって来たのだ。

 金城は、妥協策として、宇宙の若い価値観や感性も取り入れつつ、大事な柱は戻して、玲子に返信しようとした時、電話が鳴り、彼の心臓が一瞬止まるかのように感じた。

 玲子からだ。

「もしもし」

 玲子の声は、いつになく引き締まっている。

「金城さん、宇宙さんのシナリオを読みましたか?」

「うん、読んだ。宇宙はエエ感性をしてるけど、素人や。外したらアカン柱の見分けがついてへん!」

 玲子が、クールに言った。

「金城さん、シナリオは宇宙さんのを完成原稿とします!」

 玲子の意外な一言に、金城は、驚きの声を上げた。

「なんでや、あんなもんオレの名前の入るシナリオとして世に出せるか!」

 玲子は、落ち着いた声で、金城に言い含める。

「金城さん、聞いてください。クライアントの平野さんは、何も理由がなく宇宙さんをサブライターに抜擢した訳ではないんです」

 金城は、不満げに尋ねた。

「どんな理由があんねん。訳をきこうか?」

「宇宙さんは、平野さんの親会社の社長さんの一族の娘さんです」

 金城は、頭を抱えた。一番懸念していたことが起こった。

「だからって、オレの原作を使うのは変われへんねんやろう。ほんだら、原作者の意向に沿うのが筋やろう」

 玲子は、頷いた。

「金城さんの仰るとおりです。ですが、現実社会は、それだけでないのも事実です」

「どういうことや?」

「クライアントは、それも含めての今回の企画です。宇宙さんのシナリオに手を入れるなら、金城さん、あなたにはメインライターを外れてもらいます」

「はっ、訳がわからへん。オレは、未来を輝かすためのシナリオを書いてんねや、宇宙をデビューさせるためやない。未来の良さを殺すようなことはでけへん!」

 玲子は、最後通告のように言った。

「上で決まった事です。金城さんの要望通りメインライターから外れても、名前は残させていただきます」

「はー、実際は宇宙が書いた欠点のあるシナリオを、もし、映画がコケたら、オレが責任とるんか!」

「そうなります」

「そんなん、納得できる作家おるか?」

「明日の朝、また、返事を聞きます。私は、金城さんが納得できないのであれば、私も会社を辞める覚悟で、この企画をなかったことにします。よく、考えて返事を下さい」

 電話が切れた。

 金城は、呆然自失で、耳から、すでに切れた電話を離せない。魂がどこかへ抜けだしてしまっている。『作品は作家にとって、我が子同然や、こんな、理不尽あるか……』

 翌朝、AM6:00。

 パソコンに向かう金城は、瞬きをしても目が乾き潤わない。眠気覚ましの苦いシベットコーヒーに顔を顰《しか》めながら、俯いて両手で頭を抱えている。

 宇宙の書いたシナリオをこのまま世に出せば、ストーリーが破綻して、仲間内から「終わった作家の烙印を押される」。親友の山田がみれば、「泣いて、見損なった!」と金城の横っ面をはたくだろう。金城は、この仕事を引き受けても、辞退しても作家生命が終わる。でも、断れば、未来が家族と離れて暮らすことになる。金城は昔気質《むかしかたぎ》な人間なので、約束したからには、絶対に守りたい。幸せな家族を離れ離れにする引き金など引きたくはない。

 ピロン!

 金城に非通知着信が入った。

 ”金城せん↑せえー、おはようございます。ファイトやで~!」

 絶望の淵に居た金城は、タイミングの良すぎる未来の応援に、思わず失笑した。

「そうやな、これくらいの逆境で諦めたらアカンわな。成功するまで、オレは絶対にあきらめない。何度だって立ち上がる!」

 金城は、覚悟を固めて、玄関のスーツに着替え、もう一度、東京出て、直接、宇宙を説得しようと、新大阪から新幹線へ飛び乗った。

 東京駅に着くと、金城は、玲子に電話した。

「今から、宇宙と直接話をする時間をつくってくれ」

 玲子は、驚いている。

「どういうことですか、金城さん?」

 金城は、毅然と、「オレは、今、東京に居る。宇宙を自分で説得する。平野抜きで、なんとか、つないでくれ」

 玲子は、金城の覚悟を聞き、「わかりました。平野さん抜きで、直接、宇宙さんにアポを取ります」

 12時。

 文芸夏冬の会議室に、金城と差し向いに、宇宙が座った。玲子が調停役で、真ん中に座る。

 キャリアの浅い宇宙は、老いて眉間に皺が入るだけだが、直接、怒られると思って怯えている。

 金城は、宇宙を見つめて言った。


「夢川宇宙先生、オレは、この企画。君と涼宮未来のために何としても成功させる責任がある。可能な限り、君の若い感性は尊重するけど、絶対に、外されへん柱は存在する。それは、オレの言う事を聞いて欲しい」

 と、テーブルに額をつけて、土下座でもするように、宇宙に頭を下げた。

「金城先生、実《じっつ》は、わたすも自信さながっだんです。んでも、広報の平野さんが、わたすさ書いたがいいって強引に進めだがら。私こそすまんでげす」

 金城は、宇宙の言葉に顔を上げて、いきなり手を握った。

「夢川先生、ありがとう。これから二人で協力して、最高のシナリオを仕上げよう」

 と、言って、金城は、カバンからビッシリと書きこまれたA4の紙を15枚並べて広げた。

「これが、プロット。ここに、夢川先生の若い感性と価値観を乗せて行く。教えてください!」

 そう言って、金城は、シャーペンと紙を取り出し、宇宙から、人気のライトノベルやアニメ、SNSのトレンドをシナリオに反映すべく、丁寧に聞き取り、真面目に頷き、感心しながらインタビューして行った。

 宇宙から、新鮮な話を聞くたびに、型にはまった金城の頭の扉が次々に開かれてゆくのを感じた。はじめは、眉間に皺を寄せて難しい顔で聞いていたのが、最後には、宇宙の話に共感し、笑っていた。

 はじめは、不安ながらに、二人のやり取りを見守っていた玲子も、大きく頷いた。

 つづく

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