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【小説】第13話『氷点下の挑戦(全14話)』

【注意】この小説はフィクションです。

登場人物は架空の人物であり、登場する場所や、小道具などは、実在したり、しなかったり、ユーモア小説としてお楽しみください。

(全14話)です。

明日、10話〜14話まで予定。

よろしく、お願いします。

(ライトな文化に衝撃を受ける金城)

 金城は、未来のために小説を書く、シナリオを書くのは、これまで、意固地《いこじ》に凝《こ》り固まっていた自分の生き方を変えることだった。

 それまで、自分の礎《いしずえ》となる道徳に則るカントと、個で超人を目指すニーチェの哲学の狭間で苦しんだ自分の生き方を、未来から、どちらでもない第3の哲学の存在を認識した。

「なーんだ、どっちでもええやん。ようは、バランス。それは宇宙をありのままに受け入れること」

 金城は、これまで身に付けた文章作法や孤立しがちな人間関係を見直し、愛を宇宙からの贈り物として、理屈はわからんが未知のパワーを感じる。彼は、自分が変わることで、周囲の人の心も変わると実感した。

 それまで、創作物は、一人の脳裏で生みだす物と思い込んでいたものを、若い感性の夢川宇宙とも擦り合わせをして、ドンドン取り入れた。むしろ、宇宙をメインにシナリオを書かせ、綻びがあれば自分が、補修・補強するつもりで進めた。

 未来と、宇宙は同世代。自分は20歳以上齢の離れたお父さん。もはや、彼氏ではない。一種の新しいパパ活。一言でいえば、

 ”メンター・パパ”だ。

「この境地に入たら、もう、オレの結婚はないなあ」

 と、金城は、自分に呆れながら、宇宙《そら》の寄越したシナリオに手を入れるのだった。


(映画『銀河の約束』のワンシーン)


 映画『銀河の約束』の公開日、金城は不安と期待が入り混じった気持ちで一杯だった。試写会の反応は上々だったが、一般公開での評価がどうなるか未知数だった。公開初日、劇場は満席で、金城は、映画に一喜一憂する観客にホッと胸を撫でおろした。映画が終わると拍手喝采が巻き起こり、金城は涙を堪えながら、未来と宇宙の成功を確信した。

「これで、彼女たちの努力が報われた」と、心の中で呟いた。

 映画は、Z世代を中心に話題を呼び大ヒットした。あんなにシナリオに不満を持って口出ししていた平野も「オレがプロデュースしたんだ」と息巻いた。

 金城は、手のひらを返す鼻持ちならない平野に対して、かっての自分なら文句の1つも言ってやりたいところだろう。しかし、今の金城は違った。未来と宇宙の成功を見届けたことで、心の中に平和が訪れていた。平野に対しても自然と感謝の気持ちが湧き、試写会で彼を見つけると、自分から近づいて両手で握手を求めた。

(我ながら、オレは小っこい人間やったな。長年のスランプの原因は、たった1度の大ヒットで、自己の中に空虚な虚像を作って、それを大事に守ろうと、新しい価値観を否定して虚栄を張っていたことだった……)

 そう、思ってみると、自分で自分が笑えてくる。この日、金城は、20年来着つづけた一張羅《いっちょうら》を捨てて、前日に、ショッピングモールに入った白Tシャツとジーンズ、ラフなファストファッションでやって来た。

 同じ試写会に来ていた未来の母親とも、会釈だけで済ませたが、娘の成功を誰よりも願い応援してきた道のりを、映画の中の未来に重ねて、涙をためていた。金城は、未来の母親に近づき、深く感謝の言葉を伝えた。「お母さんのおかげで、未来はここまで来れました。ありがとうございます」未来の母親は、涙ぐみながら微笑み、「こちらこそ金城さんのおかげです」と答えた。二人は、しばらくの間、言葉も交わさずにその場に立ち尽くし、互いの感謝と喜びを共有した。

 金城は、これで、しっかりと未来の半生をシナリオに投影できた。若い感性をもつ娘を、おっさんのオレが限界突破して良く書けた。と、胸を撫でおろした。

 金城は、映画の成功で、未来との関係もこれで終わりだと思うと寂しいような気がしたが、これまで燻《くすぶ》っていた自分と決別できたようで清らかな心持ちだ。未来との別れが近づく中、金城は彼女の成長を誇りに思い、彼女のこの先のさらなる成功を願った。

「これで、いいんだ。これで、こそメンター・パパだ」

 と、心の中で呟きながら、新たな小説の執筆に向けて一歩を踏み出す決意を固めた。彼は、これからも若い才能を支援しつづけることを心に誓った。

 映画の大ヒットと『Tropical Breeze』が歌った『銀河の約束』は売れに売れた。

 未来は、今頃、寝る間もないくらい忙しく、連日、ステージに、テレビ、ネットで見ない日はない。それ以来、謎の非通知通話は掛かって来なくなったが、金城は、まあ、そういうもんだろうと割り切っている。

(そもそも、未来からの連絡は非通知通話なのだ。また、かかってくると期待する方がおかしい)

 金城が、1つのプロジェクトを終わらせ、また、次の小説の準備に入ると、忘れていたように玲子から、どっさりと重い封筒が届いた。

 映画のヒットにともない、小説も売れ、1発屋として忘れられていた金城星司という存在が、Z世代に見つかって、ファンレターが文芸夏冬に届けられたようだ。

「金城さん、すごい、反響です。重版・重版・重版出来! ミリオンセラーも夢じゃありません」

 と、玲子は、あまりの反響の多さに、興奮して連絡してきたが、金城にしてみれば、今回の大ヒットは、未来の”かわいいヒミツ”にある。自分の手柄ではない。金城は、逆に、今回の映画化のシナリオで、若い感性を手助けしてくれた宇宙にもスポットライトが当てられるべきだと、玲子に提案する。

「玲子、今度の新作は、映画のヒットの効果もあり注目がある。どうや、夢川宇宙と、また、共著させてくれへんか」

 と、宇宙の売り出しにお人好しにも貢献しようと言う。

 映画のヒットもある。また、金城と宇宙のコンビが生みだすアンサンブルを玲子も喜んで受け入れた。

 玲子も、無条件で金城のセンスを認めたわけではない。今回のヒットには、未来の半生と、宇宙の感性、そして、スポンサーの「氷点下三ツ矢サイダー」との偶然のインターミックス(異なることが混ざり合うこと)が成功の根本だ。金城からのこの提案には大賛成だ。

 玲子は、金城のこの提案に、さらに、うれしい一言を添える。

「金城さん、宇宙さんとの共著《きょうちょ》には、作る前から、アニメ化、ドラマ化のオファーが来ています」と、力強く言い切った。

 つづく

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