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冷笑家の日常[第二話:バリカタな夜]

姉のスミレは大学生。高校生までは自他共に認めるギャルだった。しかし、大学へ入学すると髪を黒くしてメイクも派手にしなくなった。
弟のリクオの同級生は「お前の姉ちゃん変わったよな、清楚系って感じ?」と聞くと、
弟のリクオは「あいつが清楚系だって?ハハッ」と返した。しかし、本人には口が裂けても言えない。

ある日、スミレは大学のキャンパスで昼休憩中ラインで友達と今日遊ぶ約束をしていた。

「どこに集合にする?」とスミレが聞くと
「渋谷にしよう」と友達が答える

「いやだ、待ってる間すごいナンパされるから」と返すと
「大丈夫、魔法の言葉知ってるから使っていいよ」と返ってきた

「何?魔法の言葉って?」と聞くと
「私、性病なのって嘘をつけば皆どっか行くよ」と答えが返ってきた

「あんたは嘘じゃないじゃん」とニヤけながら送ると
「うるせーな、黙れよ」と返信が来てニヤつきは笑いに変わった。

結局友達に言いくるめられ渋谷で遊ぶことに。友達は毎回待ち合わせに5〜10分遅れる人だが、だからと言って遅れるのは嫌でスミレは集合時間通りについた。

時刻は18時。繁華街がネオンを放ち本領を発揮し出す時間に人は溢れかえっていた。嫌な予感がしていたスミレはなるべく誰からも話しかけられないようにスマホの画面をジッと見ていた。

しかし、嫌な予感は当たり声の雰囲気から若そうな青年に話しかけられる
「ねえ、これから暇?誰か待ってるの?」
ほら、やっぱり渋谷で待ち合わせなんかしなければ良かったと思いながら
「友達待ってるんで」
と出来る限り冷たく、目も合わせずこたえた。
「じゃあ、その友達と一緒に3人で飲みに行こうよ」
強引すぎる彼の発言に呆れながら、こうなればあの言葉を使ってみるかとスミレは思った
「ねえ、お兄さん何目的?いやらしいこと考えているなら残念。私性病なんだよね」
友達に教えてもらったキラーワードを発すると彼からの答えは予想外のものだった。

「あ、そうなんだ!奇遇だね、僕も性病なんだ」
意外すぎる彼からの言葉に、
「え?」ついスマホから目を離し彼の顔を初めてみた。

ナンパしてきた青年はとても爽やかで清潔感があり、スミレのタイプだった。
彼の意外な発言と彼の整った顔と一気にスミレの頭の中に流れ込んできた情報の多さに彼女は言葉を失った。

何秒黙って彼の顔を見ていたかは分からない。繁華街の本気の雑音も耳に届かない状況を現実に引き戻したのは友達の声だった。
「ごめんごめん!待った?え!誰?このイケメン!」

結局3人で飲みに行くことになった。しかし、彼の顔がタイプだからか、それとも一回彼のことを振ったプライドからか心の底から楽しむことはできなかった。特別お酒に強いわけではないが酔っている感覚が不思議とないまま時間が経っていった。
そんなこと関係なしに楽しむ友人を初めて羨ましく感じていると、いつの間にかもう終電も迫る時間。帰ろうとする自分に対し飲み足りないと彼の袖を引っ張る友人。

結局彼と友達は2人でまだ飲む事に。2人はスミレが改札の中に入るまで見送った。改札の中に入った瞬間に酔いが回ってきた気がした。頭が回るような感覚と共に悔しさと羨ましさの感情がハッキリと芽生えてきた。

悶々としながら電車に揺られていたが、最寄駅に着く頃には
「いや、でも待てよ、、、2人とも性病だから、、、まぁ、、、お似合いか、、、」
という気持ちに変わっていた。

少しスッキリとした彼女はお腹が空いていることに気付いた。家まで帰る道中、とんこつラーメンのお店に入った。いつもは麺固めを頼むのだが今日はバリカタを頼んだ。麺の中に少し残っている芯を今日の出来事を断ち切るかのように思い切り噛んで飲み込んだ。

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