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レヴィナス著 「ヒトラー主義哲学に関する若干の考察」 合田正人訳 ちくま学芸文庫
レヴィナスはこの論文の冒頭で、「ヒトラーの哲学は稚拙である」としている。そのうえで西洋に従来からある普遍概念およびマルクス主義について論じて、ヒトラー哲学については迂回というか、論文の後半でのべている。
それを要約すると、私見が混じるが、ヒトラーの哲学は、中身がない力の拡張であり、拡張自体が普遍的秩序であり、主人と奴隷からなる世界の統一をかたちづくる、すなわち人種差別が拡張、普遍的秩序形成と一体である。そうした拡張は戦争と従属を同時にもたらす、というものである。
レヴィナスがこの論文を世に出したのは1934年、ヒトラーがヒンデンブルク大統領の死去にともない独裁者になった年である。つまり、レヴィナスはその後のドイツの戦争を予見していたわけだ。