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父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。
今回は、ヤニス・バルファキス『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』関美和訳(ダイヤモンド社 2019)を独断と偏見でまとめます。
資本主義の歴史と功罪
「なぜ格差が存在するのか?」
娘からのこの問いに、アテネ大学経済学教授で、ギリシャの財務大臣を務めた経験を持つバルファキス氏が答えを提示します。
著者は、この本の中で、経済がどのように生まれたのか、金融の役割、資本主義の歴史と功罪についてわかりやすく説明します。
今回は、経済の誕生と資本主義の歴史について簡潔にまとめます。
私たちが今日「経済」と呼んでいるものは、農耕の発明によって誕生しました。
大昔、周囲の獲物を狩り尽くし、人口が爆発的に増えると、人々は食料不足になりました。生き延びるためには、土地を耕し、農作物を生産する必要があります。
そこで生まれたのが、「余剰」です。
農業が発達し、自分たちが食べる分と来年のために植える分以外の余った部分が余剰になり、その余剰を記録しておくために、文字が生まれました。
メソポタミア文明では、農民共有の倉庫に余剰を貯蓄し、倉庫の番人が、人々の余剰分を記録したとされています。
これが通貨(債務と債権)を生み出すきっかけになりました。
そして、大量の余剰を持っているものがその土地を支配するようになります。支配者は自らの支配を正当化するために、宗教や神話を創造し、軍や官僚制度を整えました。
つまり、余剰がきっかけとなり、文字、債務、通貨、国家、宗教、軍隊が生み出されたと言えます。
それから数千年の時がたち、人類は新たなフェーズに入ります。
それが200~300年前に起こった封建制から資本主義への移行です。
これにより、市場社会が始まり、突如として、すべてが「商品」になりました。
(本文中の表現を借りると、これが「交換価値」が「経験価値」を上回るタイミングです。)
第一に、生産手段であった道具、機械、原材料、建物など、
第二に、土地や空間、(農場、工場、事務所、鉱山など)
第三に、労働者、これらすべてが「資本財」つまり「商品化」されました。
ちょうどこの頃、ヨーロッパでは、グローバル貿易が盛んになりました。
国王は重商主義を進めるため、「囲い込み」を実施し、農奴のほとんどが土地を追われ、労働市場に参加を余儀なくされました。
市場社会の到来と囲い込みによって、これまで土地を耕していた農奴たちは、工場労働者になりました。
その後、元農奴たちによる工場での生産活動が原動力となり、重工業やグローバル貿易、植民地支配による富の搾取が行われました。
これが産業革命、資本主義と深く結びつきます。
大規模な事業、重工業、技術革新、貿易船の渡航には資本が必要です。
つまり事業を生み出すためには、まず莫大な投資、借金が必要になります。
そのため下のような流れで資本主義が発展していきました。
資金調達(借金)→工場の設置、貿易船への投資など→生産性の向上や他国への侵略、富の略奪→富の回収
このように資本主義と産業革命が深く結びついて、国家が発展していきました。一方で資本家と労働者、植民地地域の人々とで間で凄まじい格差が広がりました。
これが16~20世紀までに資本主義により国家が発展した経緯です。
まとめ
今回は、ヤニス・バルファキス『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』関美和訳(ダイヤモンド社 2019)を独断と偏見でまとめました。
著者は、経済の歴史、資本主義の歴史、貨幣の歴史、金融の役割を明かし、本書の終盤で、現代の経済、AIやロボットの可能性、市場社会の行き過ぎについて言及しています。
また今回は紹介しきれませんでしたが、
資本主義の根源である投資や借金が金融危機や市場の失敗を招く恐れがあるとも言います。
さらに、真の民主主義が実現されるには、市民一人ひとりが、経済について自分の言葉で語れるようにするのが大前提であると言い、国民一人ひとりが世の中に関心を持つことを促しています。
経済の話というよりも、人類史のような内容の本ですが、非常に面白いのでぜひ読んでみてください。