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経済で読み解く日本史③<江戸時代>

今回は、上念司『経済で読み解く日本史<江戸時代>』(飛鳥新書 2019)を独断と偏見でまとめます。

江戸時代の本当の姿

私たちがイメージする江戸時代と言えば、思い年貢に苦しむ農民の存在、賄賂政治の横行、越後屋などの悪徳商人、貧困に苦しむ武士が存在していた。
このような「貧農史観」だと思います。

しかしながら、江戸時代は、先進的な貨幣制度の導入による爆発的な経済成長や人口の増加、「徳川の平和」が200年以上も続いた時代でもありました。
さらには、商人や町人が自由に商業を営んでいたことで空前の消費ブームとなり、経済の主体は民需が担うようになりました。

このように従来の教科書とは評価が180度異なる江戸時代を分かりやすく解説するのが、著者の上念司氏です。

本書では、大きく分けて、三つの論点について論じています。

第一に、江戸時代の財政から見た経済成長とマクロ政策。
第二に、資本主義を実践していた「大名」と「庶民」の関係。
第三に、なぜ江戸時代は倒産したのか?です。

江戸時代は、信長、秀吉の遺産である「経済のインフラ」
(①物流の自由②決算手段の確保③商取引のルール整備)
を活用し、百姓(非農業民、町人、商品など)が自由に消費をした時代でありました。このため、民間からのイノベーションが生まれ、経済が著しく成長していきました。また大名の散財が庶民の所得になり、庶民の生活が向上した時代でもありました。

年々、人々の生産性は向上していきます。モノの生産が増えているのに、お金の量が足りなければデフレを招きます。
(つまり年々、生産性が上がり、モノが増加する世の中で、貨幣量が制限される金本位制度はデフレ招いてしまいます)

そのため、需要が供給を少し上回る(マイルドなインフレ)が実現できるまでお金の量を増やし、良性なインフレを実現させる経済政策が大切です。

江戸時代にこのような「経済の掟」、「モノとお金のバランス」を理解していた荻原重秀、大岡忠相、田沼意次、水野忠邦などの幕臣たちは、上記の理由で比較的安定した経済成長を促進することができ、安定した時代を構築することが出来ました。

荻原重秀は以下のような言葉を残しています。
「たとえ瓦礫のごときものなりとも、これに官符の捺印を施し民間につうようせよしめれば、すなわち通貨となるは当然なり」
このことから重秀は、管理通貨制度の本質を捉えていたことが分かります。

しかしながら、幕府内の権力闘争によって短期間のうちに経済政策が転換されることも多々ありました。
新井白石、松平定信の時には、根拠のない緊縮財政を実施され、デフレを招いたこともありました。


ところで、江戸幕府と各藩は、のちに財政難に陥ってしまいます。
これが江戸幕府の崩壊を招いた遠因でもありました。

なぜ幕府と藩が財政難に陥ってしまったのでしょうか。その理由は、大きく三つに分けることができます。

まず一つ目に、徳川幕府は全国的な徴税権を持っていなかったことが挙げられます。
徳川家の領地は全国3000万石のうち400万石しかなく、年貢だけに頼っていたら、中央政府としての支出がかさみ、いずれ財政難に陥るのは明白でした。
また、徳川家が中央政府並みの権力やパワーを持っていなかった点も留意が必要です。
前代の豊臣秀吉が中央集権的な政策を進め、諸侯の不満が高まっていました。そのため、諸侯の協力を得るためには、ある程度の妥協と緩和な政策が必要でした。
つまりこの時代、幕府に、強力な権限があったわけではなく、あくまでも「大名の連合政権」のような存在だったことで、中央政府の支出がかさんみ、財政難に陥ってしまったと言えます。

二つ目に、米価が高騰するという市場リスクに対応できなかったことが挙げられます。この時代の幕藩体制は、言ってしまえば、「米本位制」である「石高制」でした。石高制とは米を年貢として徴収し、それを売却して現金を得るため、米の価格があらゆる商品の中心でした。しかしニーズの多様化による米価格の下落により、石高制は限界を迎えることになりました。

三つ目に、幕藩体制の経済システムが「デフレ・レジーム」だったからです。
諸藩は領内に金山、銀山を保有していない限り、自藩への金銭の流入は、他藩や政府からの輸出代金でしかありませんでした。

そのため、各藩はデフレを避けるために、常に江戸や大阪などの大都市にモノを売り、金銀銭を獲得しなければいけませんでした。
しかし、緊縮政策後に、大都市の景気が悪く、人々が消費を控えてしまうと、各藩にも不景気の影響が出てきます。
それによって、各藩が財政赤字に苦しむという構図が出来てしまいました。


上で見たように、
江戸という時代は、「経済インフラ」によって民需が拡大し、新たなイノベーション、多様な商品、文化、初期の資本主義が生まれ、庶民の暮らしが豊になった時代でありました。
また貨幣制度、物流システム、市場経済、保険、金融など当時のヨーロッパにも引けを取らない時代でありました。

しかし、政治の権力闘争、根拠のない財政政策や政治的足枷によって、三歩進んで二歩下がるような政治が繰り返されていました。
そんな中、世界に目を向けると、ヨーロッパ列強が世界を植民地化しており、世界の流れに完全に置いてけぼりにされてしまった、そんな時代でもありました。

まとめ

今回は、上念司『経済で読み解く日本史<江戸時代>』(飛鳥新書 2019)を独断と偏見でまとめました。

教科書を読んでいるだけでは分からない、経済の流れ、庶民の生活、江戸時代の姿を知る事が出来て非常に勉強になりました。

皆さんも興味があれば、ぜひ読んでみてください。


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