SaaS+AIの未来予想
こんにちは。IVRy(アイブリー)代表の奥西です。
3年連続となりますが、今年もForbes日本の起業家ランキングに選んでいただけたみたいで、師走を感じます。そして、IVRyが日本の顔になれるようにもっと頑張ります。
2024年も残すところ、あと1ヶ月。そして、IVRyが2021年からはじめてきた伝統芸能のアドベントカレンダー(ブログリレー)の時期がやってきました。
振り返ると、2021年は1人何記事も書かないとアドベントカレンダー達成できないから5記事書いていて、2022年は全員でやっと埋まるレベル。
そして、2023年は2つのアドベントカレンダーを運営できるようになり、今年は2つのアドベントカレンダーだと枠が埋まっていて、書きたくても書けない人が現れるぐらいになりました!(感慨深い)
参考: 2021年、2022年、2023年白組、紅組
追記①:12月16日(月)の12時からIVRyの1年を振り返るウェビナーをやりますので、ご興味ある方はぜひご参加ください!↓
追記②:12月10日(火)の19時からはEP Salesのウェビナーも!↓
Introduction
2024年は「AI活用」の事例がたくさん出始め、社会で当たり前に使われる前夜を予感させる1年だったと思いますし、IVRyは対話型AI SaaSとして、その1年のド本流に入れたんじゃないか?と思っています。
例えば、今年のIVRyだと、リクルートさんとの協業で飲食店の電話予約をAIで自動化したり、クラウドAI FAXをリリースしたり、アソビューさんのコールセンターで通話データのAI解析をしたり、対話でのAI活用や非構造データ抽出・分析でのAI活用など、複数のAIプロダクトを社会実装しています。
一方で、AIによってSaaSは終焉するのか?という話であったり、シート課金がなくなるから難しいのではないか?みたいな話であったり、既存のビジネスモデルに対するディスカッションも盛んに行われ始めたのかな?と思っており、そんなド本流にいたIVRyから見る「SaaS+AIのこれから」について、私見を書いていければと思います。
SaaSとAIの関係性を整理する
色々なことが点として議論されていると思っていて、あらためてSaaSとAIという言葉を考えてみると、SaaSという言葉にはSubscripiton Modelというビジネスモデルのニュアンスが含まれていることと、Software Productではあるが、AIは元々含まれていないようなニュアンスで語られていることが多いと感じます。
では、"SaaS = Subscription Model + Software(not including AI)"だとすると、実際はAIの技術を活用しているSaaS自体はたくさんあった(例えば、IVRyだとText to SpeechはDeep Learningの技術を使っているのでAIではある)ので、少し解像度をあげて議論ポイントを明確にすると、実際は「"LLMという技術"によるSoftware技術が進化した未来におけるSaaSビジネスのあり方」ということが本当は正しそうだなと感じます。
なので、やはりSoftwareという言葉に対して、AIという概念はincludeされていると思うので、AIによるSaaS is Deadは、「従来のSoftware開発の考え方 is Dead」であって、「AIを簡単に開発できるSoftware開発の考え方にシフトしようよ」と捉えたほうが芯を食っているんじゃないかな?と思いました。
※まあそんなことわかってるけど、バズのための言葉なんだと思ってはいますが
また、Subscription Modelについても、SalesforceがAgentforceをはじめたり、zendeskが従量課金をはじめたりしており、固定金額ではないプライシング自体が増えていくことが考えられるので、SaaSというカテゴリの固定金額のニュアンスがどんどん減少していくのではないか?と思っています。
また、ALL STAR SAAS CONFERENCE 2024でSaaStrのCEOのJasonさんもおっしゃっていたが、そもそも固定金額のプランにこだわってないSaaSも本当はたくさんあるし、時価総額もついているし伸びているので、本質的にはSaaSというビジネスにプライシングモデルの話は関係ないのでは?という話だったねとなりそうな気がしています。
※本来、サービスの価値に対して、ユーザ価値を考えてビジネスモデルを構築するのが原理・原則だと思うので、原理・原則に習っていけば良いという話な気がします。
なので、あらためてSaaSというビジネスモデルは、「翌月継続率が99%周辺となり、粗利率が70-75%を超えるビジネス」であれば、本質的には同じ話となるのかな?と思いつつ、これが実際に資本市場にどう評価されるのか?は、来年以降に海外を中心に、資本市場の反応が出てくると思うので、そこを見ながら調整すれば良いと思っています。
そもそも、サービスやビジネスを作る我々としては、原理・原則に則ってユーザにとって正しく価値を提供することをベースにやっていくべきですし、もう少し企業目線で言うと、より筋肉質で生産的に営業利益を出し、次の良いサービスを提供し、いかに社会価値を作り続けられるようにするのか?という話なので、そこに合わせてビジネスモデルをFITさせていけば良いのかな?と思います。
ということで、まとめるとSaaS vs AIという構図というよりは、AI技術によるSaaSの拡張や変化と捉えるほうが正しい気がしています。
AIによる価値の変化
AI(≒LLM)でできることは、まだまだ進化の過程で、過渡期だと思っています。来年以降まだまだ進化していくような気がするので、技術の進化を常に予測し、技術進化によって、自分たちの動きをインタラクティブに変化させていく必要があると思っています。
一方で、現時点のAIでも従来解くことができなかったたくさんの課題を解くことができたり、無価値だと思っていたデータに価値が宿ったりしていると感じています。
例えば、従来開発するためには多大な時間がかかっていたモデルを簡単に時間をかけることなく作ることができたり、モデル自体をスケールさせること自体が簡易になったことだけでも、既存のAI Software開発の考え方に対して、圧倒的に価値があると感じています。
そのような技術を組み合わせ、コンパウンドAIシステムとして、ワークフローや対話システムを作ることに加え、データ利活用の観点でも非構造データが活用できるようになってきました。
これによって、データパイプラインを効率的に作ることが可能となったり、従来なかなか活用できなかった非構造データ(社内ドキュメントデータや通話データやウェブ会議のデータ、社内チャットのデータ等)を活用しやすくなっていることも大きなポイントで、Deaeth of a Salesforceの記事にもあったように、「データ管理システムに合わせて社内オペレーションを変える考え方」から、「自然な働き方に合わせてデータを収集するソフトウェアの導入」へとSaaS導入の考え方が変わっていくことが考えられます。
一方で、AnthropicがLLMは「測定の域を超えている」という発言があるように、もはやLLMは賢くなってきてるにも関わらず、なかなかモデルの評価ができてない(しづらい)ため、評価されていないといった話もあり、「モデル評価をどう行うのか?」「どう担保するのか?」がやはり特に大事になることと、その精度を担保できるAIエンジニアがとっても大事になると考えています。
そういった人材がいる会社は、現時点でも社会で使われ続けるプロダクトを届けられてると思いますし、特にSaaSのビジネスモデルの特性上、翌月継続率を高めようとすると、プロダクトやAIが業務に組み込まれること(Must haveになること)が大事となるので、より重要性が高いと考えています。
LLM-as-a-Judgeのような手法もどんどん進化していたり、今後はもっと様々な考え方が生まれてくると思います。
まだまだAIをSaaSに載せて社会実装するインパクトの可能性は右肩上がりに大きくなっていき、数十年に一度レベルの産業をひっくり返すようなサービスやプロダクトが出てくると思います。
SaaS + AIを作る我々が大事にすべきこと
今まで長々と書いてきた通り、AIには無限の可能性が存在しているので、基本的にはサービスやビジネスの原理・原則に立ち返って、既存の常識にとらわれず顧客価値の最大化を考えれば良いと思っています。
個人的に事業開発のときに絶対に思考としていつも利用しているのですが、古代のFrameworkである4P Frameworkから見た時に、AI時代に事業価値をどう考えるべきなのか?が大事だと思っています。
Product
SaaS+AIで最も価値を作りやすいポイントで、雑務のアシスタントから始まり、ワークフローの自動化やデータ活用など、様々な場所での価値提供がしやすいと思います。
また、コンパウンドSaaS戦略の基本である、1st ProductによるClient Action Logのデータ化ができていると、そのデータを活用することによって、盤面の広がりができるため、特に初手のプロダクトが大事だなと思っています。
また、LLMやCopilotによって、社内のシステム部門がプロダクトを簡単に作れるので、SaaSを導入しなくても良くなっていくみたいな話もたまにありますが、ここもSaaSの本来のProduct価値であるSLA/SLOが活かせるところで、自社システム部がマネージしなくて良くなることが圧倒的な価値であり、SaaSなら自社で運営するよりコストが安く、クオリティが高く提供できることがビジネスモデル上の優位性だと思っています。
※例えば、Google Driveとかって自社で作ろうと思ったら作れるかもしれないけど、誰も作らなくないですか?そういうことです。
余談ですけど、特にNice to haveなProduct(アシスタント的価値)であったり、利用頻度が少ないProduct(年数回しか触らないとか月数回しか触らないとか)は代替されやすいかもしれないなと感じています。
なので、事業やプロダクト開発する際には、より利用頻度やMust haveになるものなのか?にこだわったほうが良いのと、(レベルにはよるんですが)SLA/SLOが高い業務を自動化するプロダクトこそ、SaaSとしてのProduct価値が大きくなるんじゃないかな?と思っています。
Price
AIによって、プライシングは変わるとか言われていますが、個人的には従来通り、①固定金額(Subscription)②シート課金(ユーザ課金)と、新規に③従量課金(タスク課金)が生まれ、3つの構成要素を活用して顧客価値に向き合っていくサービスが増えると思っています。
①固定金額(Subscription)
従来と同様に、最低の固定金額課金はAIの時代でも存在すると思います(いずれにせよインフラやアプリケーションを利用するだろうし)
特徴としては、固定金額に従量やシート数のincludeが入っていくんじゃないかな?と思っており、少しシミュレーションの複雑度があがっていくような気がしますが、よりシンプルに購入しやすいプランを設計することが、特にBtoBでは顧客価値にもつながると思っています
※検討工数や決裁工数を減らしてあげることも価値だと思っています
②シート課金(ユーザ課金)
あらためて、SaaSの本質に立ち返ると、「利用するユーザが増えるから課金される」というよりは、価値としては「簡単に権限管理ができ、権限による業務の違いをマネジメントできること」がスプレッドシート等のツールとの大きな違いだと考えています(でなければ、スーパーエクセルで良いので)
としたときに、権限管理をしたい業務においては、シート課金は残りそう(ex: slack, notion etc)で、かつ、エンタープライズ企業向けには監査ログを取る必要があるというセキュリティ要件も乗っかってくるので、シート課金自体は残りそうだし、そこに価値を感じるユーザは少なくないんじゃないか?と考えています。
③従量課金(タスク課金)
特にSaaS + AIだと多く語られているのが、Outcome as a Serviceなどと言われているように、タスク課金でAIが処理した数に対してxx円という課金方法で、これはとても流行すると思います。
※前述しましたが、実際にSalesforceやZendeskでは既に導入されている考え方
これによって、SaaSは従業員数の角度で伸ばさないといけないと思われていた考え方から、トランザクション量が多い業務に対して伸びていくことが可能となる(ex: 受発注、決済、問い合わせetc)と思います。
また、顧客にとっても安価に導入をして、顧客の成長とともにSaaS事業者の収益も増えるwin-winなモデルが作りやすくなったなぁとも思っています。
Place
インターネットビジネスにおいて、Placeの差分を作るのが難しい(インターネットという性質上、場所と時間に依存することがほとんどなくなった)のですが、顧客サポートをAIで24時間365日できるようになったり、それによって時差を気にせず事業展開がしやすくなり、提供範囲を増やしやすい構造になるかもしれないなと感じています。
また、どのワークフローの場所を初手に抑えるか?も大事だと思っていて、顧客にとって業務の自然な流れで気軽に使い始め、ExpansionでARPUを最大化していくマルチプロダクト戦略がホリゾンタルでもハマっていく未来があるかもしれないなと感じています。
そして、PLG vs SLGに近い話ですが、歴史的にはBtoBの世界だと、ビジネス上は最終的にだいたいSLGが勝利していることが多い気がしますが、AIによるプロダクトバリューやカスタマサポートなどにより、PLGが改めて流行る時代が来たらおもしろいなと思ったりしています。
個人的には、PLGが好きなので、PLGを中心にSLGも重ねるモデルが良いとは思っているので、SLG勝負は大きい市場であればあるほど、既存の顧客ネットワークを持つ巨人が勝つゲームから抜けられないので、ジャイアントキリングを起こすプレイヤーが出てきてほしいし、IVRyはそこを目指したいと思っています。
Promotion
やはりスタートアップは巨人の資本力に比べ、アセットが極端に少ないので、ゲリラ戦や効率戦で勝つしかないと考えています。
その時には、いかに獲得効率を最小化させるか?であったり、Organicチャネルの開発やポジティブな口コミがうまく広がる工夫がとても大事だと思います。
そのためにも、Brand Marketing, Product Marketing, ネットワーク効果などの基本的な手法に立ち返り、AIというHowを活かした、ユニークなPromotion活動ができるか?が肝となると考えています。
※流行りでいくと、ホワイトペーパーやバナーや記事を自動生成する的なものとかですかね(ここにMoatはできなさそうですが)
例えば、IVRyのプロダクトマーケの例だと、電話番号検索サイトや迷惑電話検出アプリなんかを作ってみたりしています。
と、こんな感じでダラダラといろんなことを書きましたが、もっと言うと既存の技術との組み合わせがとても大事だと考えています。
例えば、RPAするAIを作れたとしても仮想環境をインフラでスケールさせる技術が必要ですし、AI対話をするプロダクトを作れてもレスポンスの速度が5秒かかると体験としては破綻しているので、どう早くレスポンスできるか?が大事になりますし、トランザクションがスパイクした時にどうスケールできるのか?をLLMのAPIが落ちたり重たかったときに、マルチリージョン/マルチLLM APIを対応して可用性を実現できるのか?等の基礎的なプロダクト開発能力が大事になってきます。
また、新しい技術習得も大切で、対話UXをデザインしたことのあるデザイナはまだまだ世の中に少ないですし、そのナレッジもGUIのUI/UXのように、ウェブ上にたくさん記事が存在しているわけではないので、自分たちが顧客体験や対話UX上のログデータと向き合って、新しい行動経済学を明らかにしていく必要があります。
このように考えてみても、やはりSaaS vs AIではなく、AIによるSaaSの拡張が今後起きる未来だと思うので、元々のSaaSやSoftwareを開発したり、Production Levelで運営するノウハウ(SecurityやNetwork, UI/UX etc)のケイパビリティは引き続き問われるし、むしろ高いレベルの基礎・応用能力がないとなかなか戦えなくなってくると考えていて、むしろ既存のちゃんとしたSaaS企業は全部強いんじゃないか?と思うほどです。
一方で、既存のSaaSの考え方に囚われすぎたり、従来の働き方に囚われすぎると、今の技術を使えばもっと大きな課題設定で解けるHowがあったりすると思うので、常にAIの技術へのタッチポイントを増やし、従来の常識に縛られない課題設定と、社内外で常にAI活用の隙を探し、自分たちの自然な発想を変えていく動きが大事だと思っています。
最後に
IVRyでは、ここまで書いたことを考えたり、実はもっと深いことや戦略を考えたり、ディスカッションしたりして、自分たち自身のアップデートを常に行いながら、これから来る未来を想像し、新しい価値を1秒でも早く社会に届けられるように日々楽しく働いています。
IVRyの中にある様々なAIプロダクトや今後リリースしていくAIプロジェクトが10個ぐらい存在しており、全く人手が足りていないのと刺激的でおもしろい課題が山のように転がっています。
プロダクトや事業が複数あるということは、マーケティング・セールス・CS活動もとても複雑になりやすく、これらをきれいにしたり、うまく組み合わせてお客様に最適な提案をしたり、ビジネス活動においてもたくさんの活躍の場が転がっています。
数十年に1度のテクノロジーのイノベーションが目の前で起こり、そして、目の前のお客様の働き方が変わり、そして、その先にいるエンドユーザが便利になる。
そんなとてもおもしろいフェーズで成長機会が余りあって困るぐらいあると思っているので、ぜひカジュアルにご応募ください!