いつか行く道、とか言ってみても
3連休は実家に帰省する予定だった。ところが前日くらいから喉に違和感があり、何となく調子が悪い。鼻水も出始めた。帰省して生活リズムが狂うとさらに悪化しないとも限らないし、何より87歳の母に変なものをうつしたら大変だ。
なので、土曜日の朝、母に電話してキャンセルを願い出た。いつも私が帰るのをとても楽しみにしているので申し訳ないとは思ったが、仕方ない。ごめんねと謝ると、母はたいへん物わかりよく、そんなことなら無理して帰って来なくていいよ、大事にしなさいよと言って電話を切った。
ああよかった。小さな子みたいに泣き声になられたらどうしようかと思った。
時間ができたので、その日は昼前からずっと原稿を書いていた。熱があるわけではないからパソコン仕事なら問題なくできた。
夕方、一段落して別室に置いてあったスマホを見ると、母からの着信履歴がたくさん残ってる。留守電にも4件のメッセージ。何かあったかと慌てて留守電を聞いてみると、
「あんた、今日4時ぐらいに来るって言ってたよね?どうしたの?」
ガーン。
母の物忘れは今に始まったことではないし、まだ正式に認知症と診断されたわけでもない。でも、最近の記憶障害は「歳相応」を超えるレベルへと確実に移行しつつある気がする。
調べると、80代後半の女性の認知症有病率は44%だとか。ほぼ2人に1人ってことだ。70代後半は14%、80代前半は24%だから、ここで一気に上がる感じ。平均寿命が70代だった頃は目立たなかっただけで、人間85年以上も生きてれば誰でも(自分自身もいずれ)認知機能が衰えるんだと腹をくくるしかない。
と頭ではわかっていても、自分の親だとどうしても感情が先に立ち、折り返しの電話で「なんで忘れちゃうのよ?今日は行かれないって言ったでしょ!」と怒鳴ってしまう。本人のせいじゃないのは百も承知なんだけどね……
これがもしもアカの他人だったら、もうちょっと客観的に判断し、冷静な対応がとれるんじゃないかと思うのだ。
考えてみれば世の中これだけ認知症患者がいるわりに、医療介護専門職以外の一般人が、家族以外の認知症の人と直に接する機会は普段どれだけあるだろう?わたし自身、母以外の症例は本で読んだりテレビで見たりするくらいで、現実にはまったく触れたことがない。
知らないからこそ戸惑うし、怖いのだ。自分の親がおかしくなってガーンときて初めて勉強するんじゃなく、それ以前から日常的にいろんな認知機能の衰えた人と接する機会があって「認知症ってこんなもん」と知っていれば、いざというときのショックも多少軽減されるのではなかろうか。
ダイバーシティとかインクルージョンとかいうのは、外国人、障がい者、性的マイノリティの人たちとの共生という意味で語られることが多いようだけど、認知症の人々との共生も同じくらい(あるいはもっと)身近で喫緊のアジェンダなんじゃないかと思う。
政府の予想では、わたしが母の歳になる2050年、日本の人口9500万人に対して認知症の人は800万人。率にして約8パーセント。子どもも含めた全体の12人に1人。当たり前に共生する以外に選択の余地なさそうじゃないですか。
ということで、遅まきながらまずは認知症サポーター講習の受講を予約してみた。そのお話はまた後日。
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