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人材派遣利用マニュアル ~人材派遣利用のルール~ ⑥派遣労働者の特定目的行為の禁止

人材派遣利用マニュアル ~人材派遣利用のルール~編を解説しています。

人材派遣を利用する際に知っておくと良いルールの紹介です。

今日は、第六弾!「派遣労働者の特定目的行為の禁止」いってみましょー!

「ひたすら具体的」で「生々しく」人材派遣利用の教科書を作るという狙いなので、僕の独断で、派遣先企業が知っておくべきことについて超実践的に解説していきます。

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派遣労働者の特定目的行為とは?

派遣法(26条6項)では、

労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は、労働者派遣契約の締結に際し、派遣労働者を特定することを目的とする行為(特定目的行為)をしないように努めなければならない

と定められています。

※努めなければならない=努力義務規定(努力義務とは?


ここで言う、派遣労働者を特定することを目的とする行為(特定目的行為)とは何のことでしょうか?

既に人材派遣利用の実務に携わっている方は聞いたことがあるかもしれませんが、まずは言葉の定義から解説します。


↓厚生労働省の「特定目的行為の禁止について」という資料には

以下のように記載があります。

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言い換えると、派遣労働者を受け入れるにあたって、〇〇さんを派遣してもらうと個人が特定できている状況を目的とする行為をしてはいけないというものです。

面接をして選考したり、履歴書を提出させたり、年齢や性別を不必要に限定することなどは禁止です。



派遣先による面接は違法

ここで、現在派遣利用している現場の方や、窓口担当になったばかりの方などから、「えっ?うちの会社、面接してるよ?」という声が聞こえることがあります。


それについては、面接ではない(という)ことになっています。

面接だと思っているその行為は、派遣会社の営業は「職場見学」や「事前打ち合わせ」などと言った呼び方をしているのではないでしょうか?


派遣契約の前に、事前に面談や打ち合わせをしているその行為は、面接ではないのです。これは、後ほど解説します。



特定目的行為が禁止の理由

なぜ、特定目的行為が禁止されているのでしょうか。

以前↓のnoteでお話ししたように、

3年同じ組織単位に派遣されることが見込まれると、直接雇用にしてほしいと派遣会社から依頼がある可能性があります。

将来的に直接雇用する可能性があるなら、事前に人物像や、スキル、周りとうまくできそうかなどの選考としての面接ができてもいいような気がしませんか?(僕は面接ができてもいいような気がします。特に無期雇用派遣で。)

実際、海外の人材派遣では、事前の面接が禁止されていない国も多いですし、


では、日本の派遣法では、なぜ、特定目的行為が禁止されているのか?

それは、

派遣先企業にどの労働者を派遣するかを決定する役割が雇用主である人材派遣会社にあるため

です。(結構シンプル!)


↓よく見る図を派遣協会のHPより拝借しました。

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人材派遣というのはそれぞれ、派遣契約が派遣先と派遣元で、労働契約が派遣元と派遣社員で取り交わされているのですが、派遣先と派遣社員との間には契約関係がないのですね。

ですので、単純に雇用主である派遣会社が面接などの選考をするということになっているのです。派遣先が選考に関わることを、二重の雇用関係にあるとみなす考えがベースになっています。

また、派遣労働者の保護のために職業能力以外の観点で選別が行われ、就業機会が狭められてしまうことを防ぐという目的もあると考えられます。


違うと言えば違うのですが、

引越し屋さんに引越しを依頼した時に営業パーソンとは違う人が当日やってきますよね。できれば、小綺麗な人に来て欲しいな(失礼!)などと考えたりすると思いますが、顧客であるあなたが、履歴書提出させたり、引越し屋さんの雇用に干渉することはないと思います。(実際の引っ越しがスムーズにいかなければクレームを入れることはあるでしょうが)

それに近いイメージを持っていただいても、雇用主ではないから面接や選考ができないという意味では、間違いではないと思います。


また、派遣先が先行することにより、派遣会社と派遣労働者の主従関係を強め、本来労働者に帰属すべき賃金をピンハネるといういわゆる中間搾取の弊害が生じるおそれがあるということもポイントです。(借金の方に働かせてピンハネるみたいな)




以前、↓noteで解説しましたが、

派遣法は職業安定法44条の労働力供給事業の禁止の例外法です。

そもそも、雇用の形としては好ましい物とは言い切れない中で、労働者の権利を守るべく整備されている法律で制限されているため、基本的にめんどくさいし、違反すると一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処せられます。

どうしても、特定目的行為を行いたい場合は、直接雇用であれば、ルールを守っている限り、誰にも文句言われないので、その場合は直接雇用で採用することをおススメします。(6カ月以内に直接雇用になる前提の紹介予定派遣も面接や選考がOKです)



【注意点!】
ここでは、二重の雇用関係にあるとみなされると、派遣の三角の関係(↑図)が成立しなくなり、労働者供給事業とみなされ、職業安定法44条違反となり、場合によっては罰則があるという話をしました。

ここで、ややこしいのは、特定目的行為自体は、冒頭にお伝えしたように、「しないように努めなければならない」という努力義務規定であることです。したがって、特定目的行為自体には罰則はなく、民事的に損害賠償請求を受けたり、行政指導を受けたりする可能性があるという状況です。

特定目的行為=罰則はないが、行政指導はある(勧告や公表も現場担当としては嫌ですよね)
労働者供給事業とみなされる=職業安定法44条違反


という違いを知っておいていただけると、良いです。
この努力義務規定であるということも、現実には面接もどきが横行している大きなポイントでもあると思います。


1986年からずっと禁止

実務上、面接的な行為が多すぎて、派遣先企業から、「面接っていつから禁止なの?」と聞かれることもあるので、いつから禁止されているかも、お話ししておきます。

結論、特定目的行為は派遣法ができた1986年から、ずっと禁止です。

もし、全力で面接としてきていれば、ずっと違法行為を行っています。お気を付けください。

当然、コンプライアンスを(普通に)意識する企業様であれば、見直しをされる方が良いのではないかと思います。



職場見学とはどういう位置づけなのか

では、現在、面接のごとく行われている「職場見学」という行為は、一体何のことで、どういう位置づけなのでしょうか。


そのヒントになるのは、「派遣会社は1枠に1名しか連れてこない」ということです。

故意に選考を行っている派遣先は、ほぼ、複数の派遣会社に声をかけていると思います。

これは、もちろん、派遣会社が候補の派遣スタッフが確保できない場合のリスクヘッジが1つの理由です。

が、「派遣会社は1枠に1名しか連れてこない」ということが理由になっている派遣先もあります。


派遣先による面接や選考が禁止されている以上、原則、派遣会社は責任を持って人選をし、1名の枠には1名を選定します。

その状況の中で、派遣先が、「複数の候補から選考したい」と考えると、複数の派遣会社に声をかけて、それぞれ「職場見学」を行うことになります。


※ 稀に、1枠に複数名の候補を提示して、複数名を時間をばらけさせて、「職場見学」を行う派遣会社がありますが、僕が派遣先なら、そういう行為を平然とする派遣会社とは絶対に付き合いません。後述しますが、責任を取る覚悟がある派遣会社は少ないと思うからです。(僕は、候補が2名いて、どちらも甲乙つけがたいときに、派遣先に相談することはあります。)



前置きが長くなりました。

「職場見学」の立てつけは、

①派遣会社は、適法に1名を選定して提案し、「職場見学」をしている

②派遣先は、違法なのに複数から選考したいと考えて、複数の派遣会社に声をかけて、ギリギリで1社以外をキャンセルしている(まるで、Amazonと楽天で同じ商品を買い、片方をキャンセルするように・・・)

③もちろん、派遣会社は知る由はない

となります。

ここで重要なのは③の「派遣会社は知る由はない」ということです。


これは、僕の偏見かもしれませんが、もしも、派遣労働者が、「特定目的行為があった」と訴えたとしたら、派遣会社は、

「自分たちは適法に人選したが、派遣先が複数の派遣会社に声をかけていた。それは、知らなかった。

と答えるに違いありません。(僕もそうします。)

なぜなら、そこで罪をかぶる覚悟があるなら、最初から複数の候補者を紹介するからです。

複数の候補者を紹介する派遣会社があるとしたら、それはそれで「派遣先からの希望があった」みたいな顔するだろうし、覚悟はないとは思いますが(これが後述すると言った内容です)、派遣先のした違法行為で、派遣会社としては知らないと答えるつもりだからこそ、複数社の候補者と会っているであろうことを咎めず、自分たちは枠の数だけ人選しているのです。(ちなみに、仮に他社と契約すると言われても、職場見学に連れて行ったスタッフには、「派遣先からキャンセルされました・・・(理由不明)」と報告&謝罪をします。派遣先のためにも。といいながら、自分たちのために。)


僕も、そういった形で派遣先の(強い)希望があれば、複数の派遣会社に声をかけ、複数の候補から選定していることは黙認しています。


これは、感覚としては、50キロ制限の道を60キロで走行する感じです。

1名枠に複数の候補を提案するのは50キロ制限の道で80キロ出すイメージでしょうか。(国籍とか宗教、出身地などで選考するのは200キロ出すイメージ)

もちろん常に順法であることは理想的ですが、常に50キロピッタリで自動車の運転ができないように、状況によって(たぶん)許容されている範囲があります。現実にあるだけで、必然とは僕は思ってませんが。


そのあたりを、派遣先としてどのように線を引くかは、信頼できる派遣会社の営業と情報交換して決めてみてください。



そして、その上で、僕は(特に)大手企業の派遣先(ド違法の)に言いたいことがあります。

ホントに、ド違法状態でいいのですか?自ら選んでいる形になっていますよ?

50キロ制限のも、個人としては65キロくらいまではスピード出したとしても、大手の運送会社さんは50キロを超えないように走行します。

この業界が長いので、派遣スタッフが、職場見学の様子を録音して訴えたというたぐいの話も、耳にします。


わざわざ、そのリスクを背負ってまで面接、選定行為を行うことがどの程度のメリットがあるのかは検討の余地があるのではないでしょうか。(あと、人様の会社のことを適当に話すのは差し控えますが、特定目的行為で行政指導などがあった場合、会社や上司が庇ってくれる可能性は低いと思いませんか?僕が知っている範囲では、現場が勝手にやったみたいな対応されてることもあります。)


例えば、匿名の職務経歴書(スキルシート、スキルカードなどと呼ばれる)で提案を受け、その上で、良さそうだと思う派遣会社1社の職場見学をし、その派遣会社とどうしても契約したくない場合は、次の派遣会社の候補の職場見学を行うことで、順番に候補者に会うこともできます。(もちろん、できる限り派遣先の人選を信頼する前提で)

この場合、多少、この派遣スタッフに来て欲しいか?という目線があったとしても、僕の偏見で言うと、50キロ制限の道を52キロで走行しているくらいと言えるのではないでしょうか。


もちろん、派遣会社に人選を一任するのが、最も順法であることは言うまでもありません。


「職場見学」については、様々な視点から、様々な考え方ができます。(例えば、紹介予定派遣というサービスであれば、入社を前提としているので、面接が可能です)

信頼できる派遣会社の営業としっかり話し合う機会を持つことをおススメします。(重ね重ね、しつこくて、すみません)


最後に

今日は、「派遣労働者の特定目的行為の禁止」について、解説しました。

特に後半はおよそ15年の僕の経験の中で、整理している内容をお話ししています。

いわゆるグレーゾーンでもあり、必ずしも僕の認識が正しいわけでもないでしょう。(仮定の話もしましたし)

「特定目的行為」については、思うところがあり、常に有料記事にさせていただいていましたので、今回のnoteはかなりのカロリーを消費しながら書いております・・・!(全力で書いたら2万字になりますw)


あくまで、(事務系の人材派遣を提供する)実務上で感じてきたこと、考えてきたことをお話ししている内容です。

異論反論や僕が誤認しているようなことがあれば、コメントや問合せフォームからご連絡いただけると嬉しいです。

次回は、「労働契約申し込みみなし制度」についてお話しします。

では、また!



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