写真集「連師子」ができるまで ー #4 茹でたカニのように
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写真集「連師子」ができるまで ー #1 穴の空いた写真
写真集「連師子」ができるまで ー #2 どう撮るのが正解なのか
写真集「連師子」ができるまで ー #3 ラジオの音に
2018年、とある依頼撮影で兵庫県の城崎を尋ねた。そこは、日本全国はもちろん各国からも観光客が足を運ぶ温泉街だ。
この町の試みの一つに「本と温泉プロジェクト」がある。
著名作家がこの土地を舞台にした小説を書き下ろし、実際に現地に足を運ばないと手に入らない特別な本として販売している。その装丁も面白い。
茹でたカニの足を模していたり、耐水性に優れた材質を使って入湯しながら読める温泉本になっていたりするのだ。
なんて自由なんだろう!
湊かなえ「城崎へかえる」。可愛くて、つい買ってしまった。
これは、自分のストレートなドキュメンタリー作品に限界を感じていた30代の写真家が、様々な出会いや挑戦、試行錯誤を経て、写真集を国内外で販売するまでのお話です。
本を作り始めて劇的に変わったのは、何か興味のある本を手にする時に
「なぜこの大きさ、形なんだろう。」
「この紙はきっと〇〇かな。厚さは...〇〇kgぐらい?裏透けしないだろうか?」
「巻末のレイアウトとか謝辞の入れ方はどうしてるんだろう。」
という具合に、想定や細かい設計を先に確認する癖がついてしまった。
実際の写真のレイアウトなどには、adobe社のIndesignというソフトを使った。プリントして、「ダミーブック」と言われる試作本を自分の手で作成。実際にページをめくりながら修正点を探した。
僕は、この編集全般が苦手だった。
毎回、ダミーブックに山のように自分で要修正の付箋をつけてやり直す。
もう、どうにも終わらない。
「手製本って、温もりがあって良いですねぇ。」
「へへへー、そうなんです。奥が深いです。」
周囲には微笑みつつ、家に帰ると夜な夜な頭をフル回転させてホクホク編集する日々。
普段お仕事をご一緒しているライター、デザイナー、編集者、装丁家、その道のプロの方々は、やっぱり、本当にすごいことを痛感した。
本の制作では、2枚〜6枚くらいの紙を重ねて折った、折丁(おりちょう)と呼ばれる最小単位のパーツを作る。8ページとか16ページみたいに4の倍数のページ数になるものだ。それらをパイのように重ねて、折り目のある背中部分を縫い合わせることで一冊の本が出来上がる。
昔、誰かが被写体ごとに折丁を変えたと話していたなぁ。僕の本で物語がズルズル進んだり、急にジャンプしたりするのを、例えば折丁ごとに章立てて、物語を区切ってみようか。
また、オーストラリアの写真家で、写真集「PERMISSION TO BELONG」の著者であるTammy Lawさんにテキストの大きさについて意見を求めたとき、「被写体の肉声はどんな感じなの?」と尋ねてくれたな。
テキストを”声”だと捉えるって面白いし納得できる。声量だけじゃなくて、トーンはどうか。フォントはどうする?本人が一番本を読んでいた少女時代に使われていたフォントなら、年代的にも意味合い的にも、もっと被写体に近づくことが出来るかもしれない。
この編集という大海を前に、経験や発想に乏しい僕は、周囲からヒントを必死でかき集めて、自分のケースに置き換えながら進むしかなかった。
ただ、たくさん失敗した分、どんな細部にも理由がある本に近づいていく実感はあった。
「ちょっと、今晩出かけてくる。」
そういって、一番空いている深夜のコンビニで印刷をした。急いで確認したい時は、少々色味が崩れていてもレーザープリンターが早くて助かった。編集が進むと、一冊の本の中で使用する紙もつられるように全部で9種類と決まった。印刷はレーザープリンターとインクジェットプリンターの併用。熱量と自身の変革を具現化させたダミーブックたちは、すでに20冊をゆうに超えていた。
暗く、出口の見えない闇の中。
進んでいるのか?戻っているのか?
まさか突然ある日、9000km以上離れた世界から光が差し込み、この身が照らされる日が来るとはまだ知る由もなかった。
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