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[ショートショート]ちょっと不思議な課長さん

いつもと何も変わらないはずだった。

「昨日までと変わらない手順でよろしく。」

「了解しました。」

元気いいな〜と入社まもない新入社員を見送る。
自分の業務に戻るかとパソコンに目を向けたところで向こうから呼びかけられた。

「課長。人事の方がお呼びです。」

わかったと返事をして人事部へ向かう。何かやんらかしたのか分からないが全く心あたりがない。もしかしてパワハラとか?

恐る恐るノックして人事部に入る。すぐに人事部長に通される。
この人いい人なんだよな〜とつくづく感じる。20年来の付き合いだから顔を見ればどんな要件が察しがつく。

これは…困っているな。なにか言いにくそうなことがあるに違いない。

「要件とは言いにくいことですか?」

「ん?何か誤解してるみたいだね。今度の会議で君を部長に推薦しようと思って連絡したのさ。」

部長?推薦?この自分が?

「君は部下の育て方が上手みたい。人事部では結構有名人だよ。」

そんなこと今まで一言も言わなかったのに。
思い返せば二人の会話はお酒だけだった。それ以外、主に仕事のことはほとんど話さなかった。

「本当に自分なんかでよろしいのですか?」

仕事中は課長と部長だ。

「結果は追って連絡するよ。」

失礼しますと言ったとこまでは覚えているがそこからどうやって家に帰ったか覚えていない。気がついたらお風呂に入っていた。

「やった!部長になれる!!!」

今までやってきたことが正しかったのだろう。
愚直に毎日自分に向き合ってきたからここまでこれた。

「俺部長になったよ。これからも頑張るね!」

そう言って妻に向かって笑いかけた。
ニコッと笑ったように見えたが返事が聞こえることはなかった。
おそらくこれからも…

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