[連載]私の好きな人
「会いたいないな今すぐ会いたいな〜」
気がつくといつも口ずさんでいる。一人でいるときは常に頭の中でリピートされている。お気に入りの歌を見つけたらずっと聞いていてしまう。小さい頃からの私の癖だ。好きなものができたらとことん一つに集中してしまって、周りのことは全く見えなくなってしまう。それが私の、よくも悪くも周りからの評価だった。
だから小学生の頃はよく先生に、「周りを見なさい!」と何度も注意された。なんせ授業中でも放課でも給食の時間でだって好きなものにはまり込んでいたのだ。しかもハマるものが普通と一味も二味も違ったから先生もかなり苦労しただろう。1年生のときは石にハマって一日中石を拾って観察してた。外に出歩けるときは常に下を向いて歩いていた。授業中も机の上に教科書が並ぶことは一切なく、常にカタコト音をさせながらせっせと石を仕分けていた。そんなことをしていたから周りからも注目を集めていたと思う。中にはからかってくる人もいたが意外とみんな友好的だった。綺麗な石を見つけて配るとみんな喜んでくれていた。ただそれも長くは続かなかった。
中学年に上がる頃にはみんなから変な目で見られることが多くなった。ただし、そんなことで私が変わるこは一切なかった。周りから冷めた目で見られることに一切気にすることがなかった。その後も、化石や苔など女の子に到底似つかわしくないものにどんどん取り憑かれていった。気が付いたら周りには誰もいなくなっていた。周りから見れば変なことをやっている奴だと認識されるには十分すぎるくらいの情報が揃っていたと思う。
そんな私にも転機が訪れるのは、この世界が平和だからなのでは無いかと思う。彼との出会いは私の世界を変えるには十分すぎる出来事だった。
長いサラサラな髪の毛にアーモンド型の綺麗な二重。透き通るように綺麗な肌は女の子を連想させた。そんな見た目だからか男子からも距離を置かれていた。そんなはぐれものの二人だったから出会うのは時間の問題だったのかもしれない。
いつものように河原を歩きながら一人で帰っていると後ろから声をかけられた。い今まで帰り道に人から声をかけられることなんてんかったからびっくりした。散歩に来てるおじいちゃんやおばあちゃん、学校を抜け出して河原で石拾いをしている時に声をかけてくる私服警官くらいしか経験のない私はその声の主が自分と同じくらい幼いことに気がついて、恐る恐る振り返った。なにを恐れていたのかわからなかったが、こんな自分に話しかけてくるのは相当な物好きか単にからかいにきた暇人の二択だと勝手に決め込んでいた。だから振り返った時目に映る人物がそのどちらにも当てはまらなそうだったから、余計に頭の中が混乱した。
「いつも何してるの?」
「石拾って集めてる。最近は苔とか化石を見るのが好きかな〜」
「それって楽しい?」
「めっちゃ面白いよ!だってまずこの石はさ…」
気がつけば太陽はとっくに傾いていた。なんで私が初対面の彼にこんなに話したのか理由はわからなかった。なぜだか彼を目の前にしたらなんでも話せるような気になってしまう。そんな雰囲気を身につけていた。それなのに、学校にいる最中彼が誰かと一緒にいるところは見なかった。それどころかお互いに学校では知らんぷりで目を合わせることさえしなかった。その一線を超えてしまったらお互い学校で標的になってしまうことをしっかりと感じ取っていて、暗黙の了解みたいになっていた。だから二人で話せるのは河原にいる時だけで二人だけの特別な秘密だった。そこではお互いにというか私が一方的に話してそれを彼が聞くというのがほとんどであったがとても居心地が良かった。なんで彼は私の話を聞いてくれるのかわからなかったが、私の話を聞いている時の彼は常に笑顔だった。それが私をさらに調子つかせてさらにしゃべらさせた。
そんな日々は長くは続かない。だってそれが世の中だから。私が彼に夢中になるのに時間はかからなかった。それが悲劇の始まりとも知らずに…
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