ジョン・カーペンター監督「ゼイリブ」

 脚本はフランク・アーミテイジ。ジョン・カーペンターの別名義だそうだ。一瞬誰だこいつってなった。
 
「工場を潰して上の奴らはどうしたと思う? 昇給さ」

 テレビがある種の洗脳装置的に描かれている。ディックの作品でもよく見られた、ゲームで言えばMOTHER3もそうだったか。SFを扱う作品群の中で80年台から果ては00年台まで、幅広い世代に於いてテレビは批判モチーフとして頻出する。ただ、この作品の凄味はそんなモチーフの対象が幅広く、またどれも観る側が日常の中で感じる息苦しさを痛快に皮肉っている点にある。
「俺は今の職を失いたくねえ。いつも道路の白線に沿って歩くし、自分に関係ねえ事に関わる気はねえ。おめえもそうした方がいいぞ」
「白線は道路の真ん中だ」
 主人公の仲間・フランクの台詞に現れている現状追認的思考回路、この空気は作品社会全体に蔓延している。不思議なサングラスをかける事で見えてきた、テレビ、ラジオ、広告から流れる「考えるな」「従え」の洗脳メッセージと宇宙人の存在。ここで敵が宇宙人のなのも「話の通じない奴」のオマージュだろう。
「良心を売る奴は多い。すると急に昇進する。預金高は増えるし、新しいウチや車を買い始める」
 資本主義……拝金主義者を生む構造への痛烈な批判だ。
 中盤から流れるように駆け抜けるラストまでのシークエンスは時間を感じさせない。特にラストはあまりにもあっけなく、あまりにもあっさりと、そしてその先にある混沌を予感させる。好きなSF一編に数えようと思う、時代風俗からメッセージまで、私好みな一本であった。

 ただ、カーペンターの趣味らしいが、プロレスシーンは長すぎる。

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