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応援≠見返り

はじめまして。こんにちは。田中亮と申します。
僕は音楽・芸能のマネジメントを生業の一つとしています。

突然ですがこの二つの違いが分かりますか?

①サービスを受けたから相応のお金を払う。
②お金を払ったから相応のサービス(見返り)がほしい。

「こんなん誰だって分かるよ」と怒られそうですが、応援という要素が絡むと、意外と混同してる人が多いなと思ったのでこの記事を書き始めています。

仕事柄、夢を追いかける人と一緒になる機会が多いのですが、そんな夢追い人の話を一つ。

(流し見をしたい方は太字だけお読みください)

とある男の話

彼は僕と同い年のアーティストでした。
自分が感じたことを詞にして曲に乗せて伝える、いわゆるシンガーソングライターと呼ばれるお仕事です。

そんな彼の音楽活動は武道館という大きなステージを夢見て町田という街から始まりました。
ライブハウスが多く、横浜や新宿へと電車1本で通える決して悪くない環境でした。

彼の努力のおかげもあって音楽活動は順調でした。
(彼の努力の内容を細かく書くとキリがないので割愛します。)

集客も1人増えて、また1人増えてとライブを重ねるごとにどんどん増えていきました。
そして彼の夢が僕たちスタッフやファンの夢でもありました。

彼は寒い日でも常に笑顔で路上ライブやライブ活動を続けていき、より良い曲や詞を書く為に毎日勉強していました。
僕が今まで会った中で一番ファンを大切にするアーティストでした。
ファンの人の誕生日ぐらい覚えていて当然。物販で話していればどんな趣味嗜好があるかも、どこに住んでいるかも把握しているぐらいファンを大切にしていましたね。
共演者やスタッフの悪口を言っている所も見たことがありません。
今思うと仏のような男ですね。

そんな彼の活動を路上やSNSで見たり、良い噂を聞きつけた方たちが自然と集まり、着々とファンを増やしていきました。
初めてのワンマンライブも150人のキャパがパンパンに埋まっていたのを今でも覚えています。

(→僕は契約満了で他事務所との関係があり、このワンマンライブをきっかけにスタッフを辞めています)

それからも彼は活動を続け、順調にファンも増えていったのですが、人数が増えるにつれてファンの中に格差を感じる人が出てきました。

それぞれが少なからず「あの人の方が私より対応がよかった」と不満を持ち始めたわけです。
隣の芝生は青いというのでしょうか。

もちろん彼はライブに来ても在宅でも、お金を使っても使わなくてもファンに優劣をつけることなんてないですし、本当にみんなの事が等しく好きでした。

彼はお客さんが1人でも150人でも500人でもやってることは変わりません。
自分の伝えたいことを詞にして曲に乗せて届けているのです。
そしてライブに来る方は皆共通して彼を応援したいという気持ちを持っているはずです。

「私が育てた」と責任感を持っているファンもいたでしょうし、彼の音楽というよりも彼自体が好きだというファンもいたと思います。
それぞれが自分の生活環境や置かれている立場など違います。
当然彼に対する気持ちもファン一人一人が少しずつズレています。
つまり人が増えるにつれて少しのズレが重なって大きなズレになってしまったのです。

いつしか「あそこのファンはクレーマー気質な人が多くて怖い」というような悪い噂が回るようになりました。
彼は持ち前の優しさもあってか、なるべく多くのファンの意見を取り入れようとしました。
その結果、彼が音楽を通して伝えたかったメッセージも薄れていき、生活の為、今いるファンを満足させる為だけの音楽活動へとシフトせざるを得ませんでした。
もちろん路上ライブをしても身内ノリが強くて新規のファンは付きませんし、対バン(同じ日に同じ会場でライブをするバンド)からもNGを食らうようになってしまいました。

応援≠見返り

「あなたの為にこんなに頑張っているんだから見返りがほしい」という気持ちは当然誰しも持っています。
もっと言えばお金を払っているんですから当然といえば当然です。
僕だって、1000円のコーヒーを頼んだのに家で作るインスタントコーヒーと同じ味だったらイラッとします(それでもクレームは言いませんが)

今回は「彼の夢が私の夢」というスタート地点から徐々に歪みが生じてしまいました。
(大きくなるとどこか寂しいという気持ちの方もいたとは思いますが)

もし何気なく入ったお店で不満があっても「私が意見を言ってこのお店を良くしよう!」と思う人は少ないと思います。
むしろ多くの方が「もうこのお店に行くのはやめよう」という選択をすると思います。
ですがそこに親友が経営するお店という条件が加わった場合応援という要素が追加されたことにより、急に「この店を良くしてあげよう!」という考えが働き、味や接客にアドバイスをするはずです。


さて、今までの話を読んだ上で冒頭に尋ねた2つがどう違うか考えてみましょう。

①サービスを受けたから相応のお金を払う。
②お金を払ったから相応のサービス(見返り)がほしい。

これを今回の彼の話に当てはめると
①ファンサービスが良いから応援をする
②応援をしているからファンサービスがほしい

今回は人が増えるに連れて自分でも気付かないぐらい徐々に①から②に変わってしまった。ということですね。
彼の場合は目指しているステージが大きかったからこそ②のケースで失敗しましたが、もし「ファンは少なくてもいいから本当に好きでいてくれる人だけを大切にしたい」という地点を目指していたら②のケースは大成功だったと思います。ビジネス的にも厚利少売で成功していたでしょう。


もし今あなたが応援している人がいるのなら
あなたの応援は①と②どちらに当たりますか??

最後に

アーティストを先程のコーヒーに例えると
1000円のコーヒーを頼まれたら1000円以上の価値があるコーヒーを提供する必要があります。

我々スタッフがどんなに頑張っても豆の質をあげることはできません。そこはアーティストや演者自身の努力です。
ですが我々スタッフが豆にあった水を使い、美味しい淹れ方をすることで豆の味や香りが引き立ち、より美味しいコーヒーが提供出来ます。
そしてそのお店にお客様が来ることで初めてお店が成り立ちます。

その三者の関係を胸に刻みながら頑張っていきたいと思います。

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