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社会全体で「ひみつ道具」を生み出す未来─知財図鑑の5周年を迎えて

知財をもっとオープンに。

5年前の2020年1月、「国内外のすごい技術やユニークな研究を、もっと大勢の人が自由に使えたら何が生まれるだろう?」というクリエーターたちの好奇心から立ち上げたのが、webメディア「知財図鑑」です。

「誰でもアクセスできる知財のデータベースをつくり、そこから思いがけない出会いによるイノベーションが生まれたら」──そんな思いで、私たちはこれまでに1,000本以上の特許や新しい素材やサービスなどをわかりやすく翻訳し、研究者や起業家へのインタビューやイベントレポート、コラム、Podcastなど様々な形で発信してきました。立ち上げ当時の記事では、こんな思いを綴っていました。

わたしたちが目指すのは、「必要なディフェンスは施しつつ、活用のイメージを大きく膨らませて、より多くの非研究者が業界の壁を超えて、知財の情報にアクセスできる未来」です。

世界の進化のスピードは、まだまだ上げられるはずです。

知財図鑑公式note「知財図鑑、はじまる。」より

「知財をもっとオープンに」することを目指し、自分たちが知財の専門家や研究者ではなく、クリエイターやデザイナーであることをひとつの強みとして、知財の利用シーンをビジュアルで描き、物語として表現してきました。その結果、グッドデザイン賞も頂き、イノベーションのメソッドについての書籍『妄想と具現』も刊行させていただきました。8名でスタートした「知財ハンター」も、今では258名の参加者がいる「知財ハンター協会」というコミュニティに育ちました。

知財ハンター協会webサイト

SNSやコミュニティで反響を集めるなかで、「こんな面白い技術があったなんて知らなかった」「うちの素材と組み合わせられそう」「こんな困りごとに役立つのでは」などのリアクションが多く寄せられるようになりました。この5年間で感じたのは、「世の中に埋もれている知財がとにかく多い」という事実。そして、「その可能性を見える化すれば、もっと多くの人がイノベーションの当事者になれるのでは」という期待です。

日本の知財が抱える実情と、未来への期待

とはいえ、日本の知財を取り巻く状況は、決して楽観視できるものではありません。立ち上げ時の記事にも書いたように、国内の特許出願件数は約30万件で世界第3位の発明大国。しかし、2000年頃の約44万件からは大分減少しており、第1位の中国はここ数年で増加の一途を辿っています。

日本の特許出願件数はほぼ横ばい(特許行政年次報告書 2024年度)

日本の研究開発費や基礎技術力は依然として高水準ですが、WIPO(世界知的所有権機関)の「Global Innovation Index(グローバルイノベーション指数)」では13位に甘んじており、事業化や社会実装のスピードが遅い点、未活用特許の多さなどの課題が指摘されています。つまり、素晴らしい技術はあるのに、社会へつなげるアイデアや仕組みが不足している──そこが日本の知財における最大のジレンマだと感じます。

立ち上げから、私たちが直面した課題は「面白い知財は見つかるけれど、それをどうビジネスに活かすのか?」でした。実際に大企業の新規事業部や知財部の方に取材すると、社内承認や制度面で頓挫する、事業計画や資金調達などの壁に直面する、そもそもいいアイデアが生まれないなど、事業化にたどり着けずに終わるケースを多く見かけました。

しかし、この5年間で社会は大きく変化し、R&Dへの投資やオープンイノベーションに積極的な企業が増えてきました。とくにコロナ禍でDXの重要性が広く認識され、「研究開発と事業をつなぐ役割」への期待感が高まっているのを肌で感じています。その中で、AIと知財を掛け合わせた新たなプラットフォームを生み出すことで、企業や大学の中で埋もれた知財を活性化させるチャンスが生まれるのではないかと考えました。

AI×知財×クリエイティブ─「ideaflow」の試み

そこで、知財図鑑の次のステージとして開発したのが 「ideaflow」 というSaaS型のAIサービスです。公開されている特許情報を元に、その技術を活かした事業アイデアをAIが瞬時に生成し、さらにユーザーがAIエージェントとのブレストや壁打ちを重ねてブラッシュアップできる仕組みを整えました。

  • 知財をだれでもわかりやすく要約

  • 事業アイデアを瞬時に大量に創出

  • AIエージェントと対話して発展

  • 共創のためのコミュニティ

  • ビッグデータを分析して発掘

こうした機能によって、研究者や企業の知財部門はもちろん、知財に詳しくない人でも「すごい技術」をどう使えるかを素早く検討できるようになっています。これは、国内外の豊富な技術アセットを再編集し、眠れる特許を「アイデアの宝庫」として大量に変換する試みです。

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CES2025で感じた世界の熱気と、さらなる共創への必要性

そして今年、知財図鑑は世界最大級のテクノロジーイベントである CES2025に初出展し、「ideaflow」を海外の方々に紹介する機会を得ました。僕は残念ながら現地には行けなかったものの、参加したメンバーが送ってくれるレポート記事やSNSのハッシュタグを追ってみると、AIエージェントやロボティクスが大きなトレンドになっていました。より高度で複雑なタスクをこなすAIエージェントが自発的に提案をし、人間がそれをチェックする。そういったエージェントを搭載したフィジカルなロボットがリアルな日常にどんどん浸透していく。

このAIのトレンドは異次元のスピードであらゆる領域に進んでおり、知財×AIによる「ideaflow」へも国内外からたくさんの反響を頂きました。世界中の研究者や新規事業担当者との連携を深めたり、日本の知財をグローバル規模で流通させるには、まだまだ開発力もチーム力も資金面でも全く足りてなく、仲間やサポートを増やしていく必要があります。一方で、ここにこそ大きなチャンスがあるという手応えも得ました。

CES2025での知財図鑑「ideaflow」ブース

アイデアを発芽させるための共創コミュニティ

CES2025を通じて改めて感じたのは、AIの進化によって人の創造性が爆発的に拡張し、アイデアのビッグバン状態がさらに加速するということです。難解で理解しづらい特許情報を一部の専門家だけが扱うのではなく、あらゆる分野・視点を持った人々が利用できるようになる──そんな環境がすでに整いつつあります。

それらの大量のアイデアは、きちんと社会実装されてこそ価値を持ちます。研究者が発明した技術シーズを元に、誰がどの段階でアイデアに変換し、どのタイミングで仕組み化して実装し、花を咲かせて収益化するのか。この「アイデアを育てるプロセス」を可視化し、多様なステークホルダーが加わるしくみがこの先のポイントだと考えます。

知財図鑑では、ideaflowを軸に、研究開発者・ビジネスパーソン・クリエイター・行政関係者などを巻き込み、多角的な視点からアイデアを検証し、育てていく「知財とアイデアの共創コミュニティ」を広げていきたいと考えています。

「ひみつ道具」を育てる発展家の時代へ

空を自由に飛ぶための道具や、世界旅行に行くためのドアといった、ドラえもんの「ひみつ道具」。誰もが一度は「あんな道具があったらいいな」と夢見たことがあるはずです。ひみつ道具を「未来から来た魔法のような発明」と捉えるなら、空想の領域に思えますが、私たちはこう考えます。

世の中を変える「ひみつ道具」は、天才発明家だけが生み出すのではない。これからは、誰もがAIとともに技術の発展家としてバトンリレーに参加し、知財を「ひみつ道具」に育てていく時代。

知財図鑑が目指しているのは、まさに発展家があふれる世界です。すごい技術を見つけたら、「これは面白い!」と思った瞬間にAIを使ってユースケースを大量に想像してみる。もし自分一人では完結しなくても、別の誰かにバトンを渡すことで少しずつ形になる──そんなバトンリレーが世界中で起こるようになれば、ドラえもんのひみつ道具が本当に生まれるかも、と。

ドラえもん未来デパート
(©藤子プロ ©藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK ©BENELIC Co., Ltd )

これからの展望

5年間の歩みを経て、私たちは「知財×AI」こそが眠れる知財に光を当て、社会課題を解決するエンジンになると確信しています。知財図鑑としても、ざっくり次のような展望を描いています。

メディア機能の強化
:一方的に情報発信するだけでなく、知財をもっと身近に感じられるような瞬発力と柔軟なトランスフォーム力のあるメディアを目指す。

発展家コミュニティの育成
:ideaflowを通じて、知財のユースケースを自由に妄想し合える仕組みを拡張し、誰もが気軽に参加できるコミュニティを育てる。

知財の新しいエコシステムへの取り組み
:知財の研究者、知財をアイデアに転換する発展家、アイデアを社会実装する事業家、それらが循環する新しいエコシステムを整える。

イノベーションの種は、すでに世の中にたくさんあります。あとは、AIを活用して無数のアイデアに変え、社会実装まで結びつける仕組みとネットワークを育てていくこと。すごい技術をみつけ出し、発展家同士でワクワクしながらアイデアを育て、ひみつ道具に変える──知財図鑑の5年目から先の展開は、きっと多くの人とのコミュニティで創り上げるものになるはずです。

これまで応援いただいた方々、そしてこれから出会う方々にも、心から感謝を伝えたいです。共に、発展家としてバトンをつなぎながら、未来のひみつ道具を社会全体で生み出していきましょう。


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