語学の散歩道#10 駄洒落でシャレる
デンマークの至宝、マッツ・ミケルセンを初めて知ったのは、007のカジノ・ロワイヤルだった。
Le chiffre ル・シッフル(フランス語で「数字」の意)という役で登場し、その氷のような瞳に射抜かれた。目で語るというのは、こういうことを言うのだろう。役が役なので、魅せられたというより、恐怖に貫かれたと言うべきかもしれない。
そしてその後、同じ瞳をベネディクト・カンバーバッチ主演のBBCドラマ『シャーロック』でも見つけた。ところが、チャールズ・アウグストゥス・マグヌセン役を演じているのはマッツではない。しかし、この瞳は紛れもなくマッツである。と思っていたら、役者の名前はラース・ミケルセン。そう、マッツの兄だったのだ。
デンマークの俳優などそれまでお目にかかったこともなく、北欧の名前にもまるで馴染みがなかったから、こうしてアンテナがオンになってみると、その時まで何気なく聞き流していた名前が急に気になりはじめた。
その名前とは…。
Eテレのマスコットボーイ、ミッツ・カールくんである。
デンマーク人かスウェーデン人のような名前を持つミッツ・カールくん。駄洒落感いっぱいの見た目も彼の大きな魅力だ。
ミッツ・カールくん。いい…。
そこで今回は、駄洒落で洒落込むことにしたい。
「駄」という漢字は、一般につまらないものや、くだらないものを指して使われる。つまり、駄菓子、駄馬、駄作、駄弁などのように、値打ちのないものに付られける「文字飾り」である。
しかし、駄洒落にはなかなか洒落た話もたくさんあるのだ。
まずは、友人から教えてもらった英語の駄洒落で準備体操。
Hey(やあ)とhay(干し草)が駄洒落になっている。どちらも発音は同じだが、綴りも意味も異なる。この駄洒落に日本語訳が付けてあった。
馬をネタにした上手い駄洒落だ。
こちらも馬ネタ。
neighは馬がヒヒーンといななくことである。
おそらくマヨネーズと掛けてあるのだが、日本語に訳すとなると、難しい。
駄洒落のセンスがある方は、ぜひ名訳を!
英語で駄洒落のことはpunという。フランス語だとJeu de mots 。日本語と同じで音に引っ掛けたものが多い。もちろん、駄洒落とは本来そういうものだが、発音や同音異義語を知らないと、外国語の場合はハードルが高くなる。
今度は、野菜ネタのフランス語の駄洒落。
日本語にすると何のこっちゃという感じである。
つまり、carrot râpée キャロットラペをcarrot raper ニンジンがラップを歌う、に掛けているのである。
次のダジャレは、フランス語が分からない方でもオチに察しが付くかもしれない。
もちろん、最後の3つの単語が「ハーレーダビッドソン」になっている。
駄洒落は、漫画や絵本のキャラクターの名前にもよく使われる。
フランスで国民的人気を誇る『Astélix(アステリックス)』は、駄洒落名の宝庫だ。この漫画は、ガリア時代のフランスを舞台にしたBDである。
『Le Papyrus de César(カエサルの文書)』という本を借りた時に書きつけておいたメモで恐縮だが、手元に本がないためご容赦いただきたい。絵本と同じで、BD は高価格帯に属する本なので、なかなか手が出せないのだ。なお、イラスト中にあるカッコ内の名前は英語名である。
この際、面白そうなのでいくつか日本名をつけてみた。
こういうものは、かえって子供の方が発想力が豊かかもしれない。
漫画だけでなくドラマでも駄洒落は健在だ。
私の記事でたびたび登場する英国ドラマ『ニュー・トリックス』に今回も登場してもらう。
ちなみに、故エリザベス2世もこのドラマの大ファンだったとか。
(↓簡単なあらすじはこちらに)
30年前の伝説のロックバンド、Bad Faithのギタリストのアンディーが拳銃自殺したという過去の事件で、当時現場に居合わせたという女性ファンが自分の死に際にあたり、「あれは他殺だった」とジェリーに告白したことからUCOS(未解決事件捜査班)が事件を再捜査することになった。
サンドラとジェリーは、バンドの元メンバーDave DalstonとマネージャーClive Evansに話を聞きに行く。二人の話の中で、通称ドクターと呼ばれる人物がアンディーに薬物を渡していた売人であることがわかる。いつも医療カバンを持っていたことからついたあだ名で、本名は誰も知らない。ジャックが持ち帰ったアンディーの遺留品についてサンドラたちが話をしているところへ、外出先から手がかりをつかんだブライアンが戻ってくる。ファンクラブのリストを手に入れて、もう一人の目撃者であるSamを探すというブライアン。サンドラはジェリーに、翌朝行方のわからないバンドの元メンバーCharlie を探すよう指示を出す。
この場面で笑えるかどうかは分かれると思うが、イギリス人やイギリス文化に詳しい人にはウケるのではないかと思う。
『Doctor Who(ドクター・フー)』というのは、BBCの人気ドラマで、世界最長のSFテレビドラマシリーズである。アメリカCBSの超人気ご長寿ドラマ『NCIS:ネイビー犯罪捜査班』でもネタに使われたほどの人気ぶりだ。私は見たことがないが、タイトルだけは知っていたので、ウケた。
同じドラマからもう一つエピソードをご紹介。
インド系イギリス女性が被害者になった事件がUCOSに回ってくるのだが、被害者の家族からインド系の警察官が担当でないことを非難され、急遽、インド系の制服警官が臨時配属されることになった。(シーズン2 第2話『Family Business』)
サンドラから名前を聞かれた制服警官が、
「プシュカです。ヒンディー語ではシュコダと」と答える場面がある。
これに続く日本語字幕は、たしか「ヒンディー語で『色男』の意味です」と訳されていたと思う。
なんとなく腑に落ちず、インターネットで検索したところ、面白い記事を見つけた。
日本でシュコダを知っている人は少ないと思うが、タトラとともにチェコの国産車である。120年の歴史を持つシュコダだが、共産主義体制下で一時期経済破綻に陥った。記事の内容はここからで、こうした事情からおそらくエンコなども多かったとみえ、車を押してエンジンを再始動させる必要があったらしい。そこからPush Car プッシュ・カー(プシュカ)、すなわち洒落になっているというわけである。「色男」よりもこちらの方がありそうな話である。
なお、シュコダは現在VWの傘下に入って品質も向上し、欧州では人気車種となっている。
このあたりのネタになってくると、「駄洒落」が一皮剥けて「洒落」になる。言葉以外の情報も必要になってくるので、一筋縄ではいかない。
しかし、こういうものが分かりだすと、言葉というものは格段に面白くなる。
考えてみれば、和歌の修辞法の一つである掛詞も言葉遊びの洒落である。
古典の時間に誰もが習っであろうこの歌。
どの部分が掛詞なのか探してみるのも楽しい。
最後に注意事項を一つ。
面白い駄洒落は、1人で電車の中や図書館にいる時に決して思い出してはいけない。
サイレントな場所で、声は出されんので。
さては、滑ったか…。
↓最後はフランス語の駄洒落でお別れbye!
(英語×博多弁)
<語学の散歩道>シリーズ(10)
※このシリーズの過去記事はこちら↓
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