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食えない夫婦喧嘩

“夫婦喧嘩は犬も食わぬ”ということわざがある。

犬もどころか最近のワンコは良いものを与えられているので、人間なんかよりよっぽど舌がこえていそうだ。

私が子供の頃、我が家では両親の夫婦喧嘩のせいで“飯が食えない”ことがよくあった。

私の今までの記事を読んでくださった方ならお察し頂けると思うが、我が家の夫婦喧嘩が勃発する理由なんて、お母さんのムシの居所が悪い時か、お父さんが悪いか、お父さんが悪いか、お父さんが悪い時である。

「そもそも子供たちの前で喧嘩なんて…。」
と令和最先端優しい育児クルーからバッシングが来そうだが、この場合の良し悪しはそちら様に委ねるとして、当事者だった子供の視点から言えば親の夫婦喧嘩など“慣れてしまえば生活音”。

バトルが始まってもテレビの音量を上げればドラえもんは観られるし、お母さんが家を飛び出しても真面目なので絶対数時間で帰ってくるし、お父さんに至っては出ていったとしても家に居ないのが日常なので全く支障がない。

しかし冒頭の“飯が食えない”といったような、娘たちが唯一実害をこうむるのがご飯の時間に始まる夫婦喧嘩なのだ。

我が両親はブチ切れると手元にあるモノをとにかく一発ぶん投げるという厄介な習性があった。
しかも娘の私たちには決して当たらないという謎のコントロールの良さも持ち合わせており、極めれば阪神の育成でドラフト下位指名くらいなら来ていたかもしれない。 

…今ものすごい嘘をついた。

話を戻すが、この投球スタイルがご飯中に発動となると私たちの晩御飯が餌食になるのだ。

シチューなどの日はまだ良い。せいぜいお母さんかお父さんの分のシチューが吹っ飛び、皿が割れるくらいのものである。
これがみんなでシェアするタイプのものだった場合、私たちの分のおかずまで消え去るのだ。急にくるおかずの大ピンチ。是が非でもおかず難民だけは避けたいものである。

ある日の夕食中、お父さんが「今日のきんぴら辛い。」と言い出した。
その日はお母さんのムシの居所が悪い日だった。そこへさらに追い打ちをかけるように、ヘラヘラ笑いながら先程の地雷ワードを述べたのだ。

ヤバいっ!
そう思ってきんぴらの皿に手を伸ばそうとしたが手遅れだった。

「そんなに私の作ったものが気に入らんなら、食わんで結構じゃぁぁぁー!!」
お母さんの振りかぶったきんぴら皿がシンクの中へダイブした。
この日お父さんのせいで我々は貴重な副菜を失った。
そのまま2人は開戦となり、私と妹は「せめて主菜が残ったから良しとしよう。」という事で荒ぶる両親を横目にモソモソと晩ご飯を食べた。

こんな調子でキレたお父さんがカレーをフリスビーのように横スラしたり、ムシの居所が悪いお母さんがサラダをオジャンにしたりしていた。

もうこの辺りで引きまくっている人がいるかもしれない。
しかしこちらとしては、クスッと笑ってほしい我が家の日常紹介なので、深刻にとらえて引いて頂くのは何とも忍びない。そして舞台はとうとうコロッケ事変へと移る。

「今日のコロッケ、デカくない?」
この日もお父さんのバッドタイミングコメントが冴え渡っていた。
「そう?いらんかったら置いとき。」
お母さんは娘たちの手前大人の対応で乗り切った。私たちがほっとしたのも束の間、無表情なお母さんからひと笑いとるためにMr.減らず口が追い打ちをかけた。

「こんなデカいコロッケあるか?満州事変の手榴弾じゃあるまいし。笑」

…やりやがった。
おい親父、ヘラヘラしている場合ではない。お前のせいで私たちの今日のコロッケは多分おしまいだ。
せめて味噌汁と飯だけは死守しようと椀を両手に持とうとしたその瞬間、

「ぉぉおまえ満州事変行ったことあるんかぁぁぁああぁーー!!!!」

箸をテーブルにめり込みそうなほど叩きつけ、お母さんはお父さんにブチギレた。

えぇー!!そこー!?

日常的にお父さんにキレまくっていたお母さんについにバグが発生し、角度を変えてキレ始めたのだ。

私の中の鈴木雅之が”違う、そうじゃない”をすかさずフェードイン。
私と妹は慣れた手つきでコロッケをマッハで飯碗に乗せ、今日のメインを死守した。

残念ながらその後のことはよく覚えていないのだが、手榴弾やコロッケというワードを耳にする度に私たち姉妹はあのコロッケ事変を思い出し、笑いを噛み殺すのだ。

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