見出し画像

読めない妹

2つ下の妹と私は何もかも正反対だ。
彼女は人見知りで、内弁慶。周りに流されやすいのにマイペース。

小さい頃からボーイッシュなものを好む姉の私とは違い、女子ど真ん中ストレートなものを通過していく妹は、小学生でピチレモンとなかよしを購読し、サンリオ柄のデカいペンケースの中に可愛い数種類のカラーペンやその他可愛い文房具の数々を所有し、高校生でeggとPopteenのダブル読みのおかげでいつのまにか当時流行の黒ギャルに変貌していた。
ちなみに小麦肌だったのは日サロではなく(そんなものうちの田舎にあるはずもない。)、田舎の高校生あるあるの長距離自転車通学によるナチュラルな日焼けのせいである。

「友達なんて絶対広く浅くだろ。」
全て剃り落とされ、ツルツルになったかつて眉毛があった辺りの肌部分に、アイブロウペンシルで鋭い角度の眉毛を上手に描きながら妹は言った。

「いや絶対深く狭くの方がいいって。」隣で熱く語るボサボサ眉毛の姉の反論を意にも介さず、「はいはい。もう行くわ。」と言って夜ふけにいそいそとデートに出かけて行く妹。

今日デートする彼氏はどの人だろう…。
お母さんに何て言えばこんな時間の外出を許されるんだろう…。
どうせ描くのに何で一回眉毛全部剃るんだろう…。

何もかもが正反対の私には、妹の心は一向に読めない。

勉強などしているところはほぼ見た事がなく、妹は毎晩遊び呆け、たまにブチ切れたお母さんからビンタをくらったりしていた。

そんな妹が大学を卒業し、ギャルの要素はそのままに、いつの間にか介護福祉士になっていた。お母さん曰く、小さい頃からおばあちゃんのお供で村の会合などに参加したり、近所のお年寄り達とも仲良くしていたらしい。
ガングロ(不可抗力)・厚底ブーツ・セシルマクビーのギャルが、村の年寄りの会合にいただなんてなかなかシュールな画である。
妹がお年寄り好きだったことを、私はこの時初めて知った。ほんと何をするか読めないやつ。

すこぶる明るい色のロングヘア、小鼻にあけられたピアス穴、グレーのカラコンの上部は相変わらずのノー眉毛からのドローイング眉毛。その甲斐あってか勤務先の施設利用者のおじいちゃんから「ハロー。」と外国人に間違われる始末。

若気の至りとしか言いようのないそこそこのサイズのタトゥーを腰に忍ばせ、チームリーダーとなった現在も、見た目のギャル感そのままに、彼女は今日も小気味よく働いている。

ある日、私は妹の一人暮らしのアパートに泊まった際にふと思ったことを聞いた。

「アンタんち漫画ないよね。」
妹は何だそんなことかとばかりに答えた。

「ない。私漫画読めんもん。」
30年以上彼女の姉をやっていて、初めて知った妹の事実。
彼女は漫画のコマ割りをどの順番で読んでいいか未だにわからないらしい。

漫画の読めない妹…。

子供の頃、毎月妹に貸してもらっていた”なかよし”が、彼女にとっては付録を剥ぎ取ったあとの屍だったことを知り、姉はあの漫画雑誌たちを不憫に思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?