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誕生日がわからないお母さん

6月といえば思い出すことがある。
お母さんの誕生月である。

お母さんは小さい頃に両親が離婚した。
幼いお母さんは父親に引き取られ、父方の祖母に育てられた。

そしてお母さんは高校生の時に父親を亡くし、早期に自立を迫られ、自立後も若くして私と妹をシングルマザーとして育てることになったり、わりと波瀾万丈な人生を送っていた。

そんな時、お母さんは心の拠り所を見つけた。
当時テレビで大流行していた鋭い口調でズバリ言ってのける、ジャケットの袖がいつも少しだけ長いメッシュヘアのご婦人が、六つの星から自分の運命を占ってくれるアレである。

お母さんは、あの六つの星系占い冊子がお手頃で丁度良かったのもあり、今後の参考に購入しようと考えた。

…だがしかしである。
あの占いには生年月日が必要で、これが事態をややこしくさせることになる。

お母さんはふと小さい頃に自分の母親から言われた何気ない一言を思い出した。

「あんたは戸籍上は6月21日生まれやけど、出生届が数日遅れてしまったから本当は6月18日生まれなんよ。」

…ウソやん。そんなことある?

そう思うだろう。私も聞いた当時食い気味に口からその言葉が漏れていた。
だがそうなのだから仕方ない。
ここで立ち止まるわけにはいかないので続けよう。

そして厄介なことに、18日だったか19日だったか…と肝心のお母さんの記憶も曖昧なのである。親子揃って信じられない。どれだけボンヤリしているのだろう。
だがここで責めたところで仕方ないので続けよう。

6月生まれは確かだとして、21日と18日と19日では運命の星が全く違う。これからの人生の活路を見出したいのだから、こればっかりは正確でなければいけない。

お母さんは勇気を振り絞って十数年ぶりに生き別れた母親にコンタクトをとることにした。

向こうには新しい家族も子供もいるので、気を使って家族がいないであろう平日の昼間に電話をした。

「はい。」
『あ、お母ちゃん?私。』
「久しぶり。どうしたん?」
『ちょっと聞きたいことあって。お母ちゃん前に私の誕生日は戸籍上は6月21日やけど本当は2、3日ズレてるって言ってたやん?あれ本当?』
「え…そんなん言うたかな。ちょっと今すぐ思い出せんな…ごめん。」

…ウソやん。

母親が我が子を産んだ日を思い出せないことがあろうか。だがそうなのだから仕方がない。続けよう。

「母子手帳あるかもしれんから、探して後で折り返すわ。何か大事なことに必要なんやろ?」

まさかメッシュ数子の占いがしたくて誕生日が知りたいなどとは、口が裂けても言えない。

『…うん、まぁ。じゃあよろしく。』

お母さんは少しの申し訳なさもあり、娘の誕生日がすぐに言えない自分の母親を責めることなく電話を切った。

しかし、これで誕生日が分かれば自分がどの運命星に属すのかがわかるのだ。
自分の運命が記されている冊子が手に入る!これからの活路も見出せるし、なによりずっと気になっていたことがわかるのでスッキリする。
少し勇気が必要だったけれど電話してみてよかった。

お母さんは期待と希望を胸に折り返しの連絡を待った。
そして数時間後運命のベルが鳴った。

「もしもし。やっぱり母子手帳探したけどなかったわ。ごめんな。」
『あ、そうなん。ええよ。大したことじゃないから気にしないで。』

まぁ50年近く前の母子手帳などそう簡単に見つかるわけもない。たかが占いのために食い下がるのもな。と諦めかけた矢先、

「でもな、あれからよく考えてみたんやけど、多分日にち…思い出したんよ。」

『えっ…!ほんと?』

「たしか7月の…」

『うん。ありがとう。もうええわ。』

…ガチャン。

お母さんは姓名判断を頼ることにした。

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