怖すぎる妹
久しぶりに実家に帰省した20歳の夏休みのある日、一人自分の部屋でゴロゴロしていると知らない電話番号から私の携帯に電話がかかってきた。
私「もしもし?」
相手「あ、A子(妹の名前)のお姉さんですか?すいません突然。僕はA子と付き合ってる者なんですが…」
私「あぁ!どうも。はじめましてA子の姉でーす!」
妹には最近付き合い始めたB君という彼氏がおり、一緒に撮ったプリクラを見せられたことを私は思い出した。
相手「すみません突然。お姉さんの番号はA子から聞いて知ってて、ちょっと相談というか…聞きたいことがあって…」
私「何ですか?」
相手「最近A子とあまり連絡が取れなくて…それでちょっとすれ違いになってるというか…何か聞いてないですか?」
うふふふふふ。
私は知っていた。
妹が今、車の免許を最速で取ると宣言し、毎日教習所に通い詰めていることを。
そしてそれが”デートの時に彼氏を車で迎えに行ってビックリさせてやるんだ!”という何とも可愛らしいサプライズのためであったことも。
可愛い二人のすれ違いがもどかしくなり、よせばいいのに私はつい口をすべらせた。
私「ここだけの話だけどね、A子は今B君をびっくりさせたくて、教習所に通ってるんだよね。だから忙しくてちょっと返信とか遅いのかも。だから心配しないで!B君のことは大好きみたいだよ!」
相手「…B君て誰ですか?」
…よせばよかった。
やってしまった。やっちまった。
あーあーどーすんだコレ。はい終了。
はい私しばかれるぅ〜!はい終わりぃ〜!ジ、えんど〜!!!!!!
いやー!たしかに彼氏ができたとは聞いてたけどぉ、一人しかいないとは言ってなかったなー!いや普通一人なんだよ!何でアイツちょいちょい同時進行とかしてんの?てか何で私には彼氏いないの?何で私はモテないの?てゆーかこの人誰?何者?
この間約2秒。
私の脳は完全にショートした。
私「すいません。どちら様ですか?」
バグった私は、一番最初にするであろう質問をこのタイミングでした。
相手「僕C男と言います。あのB君て誰なんですか?そもそも…」
ブチっ!
指が勝手に切ボタンを押していた。
そこから私は流れるように妹に電話をかけ、彼女に先程のハプニングを不本意ながらも必死で詫びながら説明した。すると、
「フフッ、ウケる。お姉ちゃんに迷惑かけてごめん。後はこっちでやるから。そいつC男って言ってたんだよね?あ、ちなみに彼氏はB君で合ってるから。オッケー!じゃあ。」
何がオッケーなのだろう。さっきの話のどこにウケる要素が盛り込まれていたのだろう。後はやっとくって何をだろう。彼氏はB君で合ってるみたいだ。彼氏合ってるってなんだよ。その前になんであんなに冷静なんだよ。怖い。怖すぎるぜ我が妹よ。
そして帰宅した妹から聞いた話はこうだ。
電話をかけてきたC男は元彼で、B君と付き合うために別れを切り出したが受け入れてもらえず、ストーカー化して困っていた。だが今回のことが決定打となり、周囲の共通の友人らを交え、話し合いにより決着がついたということだった。
「でもお姉ちゃんの電話番号なんて教えてないんだよな。C男どーやって調べたんだろ。私の携帯勝手に見てたんだろうな。」
そして事件解決となった妹は、意気揚々と隣の自室へ引っ込んだ。
だが数分後、あわてて私を呼ぶ声がした。今度は何だよと思いながら彼女の部屋に行くと、妹は私に聞いた。
妹「お姉ちゃん私が前に使ってた携帯使った?」
私「使うわけないやん。アンタの前の携帯に用事なんかないもん。」
妹「見てコレ。」
それは妹が以前使っていた携帯電話だった。充電器に繋がれ、電源が入れられた状態で”おねーちゃん”と書かれた私の携帯番号の記された画面が映っていた。
「私今日一日中一人で家にいたけど、アンタの部屋なんて入ってないよ?」
…。
!!!!?????!!!
私はパニックと恐怖で震え上がり、警察を呼ぼう!とか探偵を呼ぶべきだ!とか一通り叫びながら騒ぎ立てた。すると妹が、
「ちょっと行ってくる。お母さんにはこのこと絶対に言うなよ。」
と言い捨て、家を出て行った。
そして数時間たった夕飯前に、「もう大丈夫!全部終わったけん!」と妹が意気揚々と帰ってきた。
こちとら全く大丈夫ではない。
夕飯の支度をするお母さんに言えるわけもなく、顔面蒼白で待っていたのだ。何をどうしたのかと聞いても、「もう大丈夫だから!ケリはついたから!」の一点張りで妹はついに詳細を教えてくれなかった。
数時間前のことなどなかったかのように、ご飯を美味しそうにモリモリ食べる妹が怖すぎて、私はもうそれ以上何も聞けなかった。
それ以来私は家にいる時も鍵を閉め、妹にあまりケンカをふっかけないようになった。
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