音読が授業のかなめ
授業の中心を何に置くか。
それによって授業の進め方は大きく異なります。
昔であれば、中高ともに、教科書本文を文法的に分析、理解して意味を把握することが中心となっていました。
このような授業は中学ではほぼなくなってきていますが、高校ではいまだに中心であるように思えます。
それは大学入試がそのような問題で構成されているからです。
センター試験ではリスニングが導入され、「筆記」という名の文法・読解試験が200点、リスニングが50点の配分でした。
そして、大学独自で行う2次試験でリスニングを課す大学は数えるほどしかありませんでした。
こういう状況の中では、大学入試が及ぼす高校の英語授業への波及効果としてリスニングが軽視されるのは致し方ないと思います。
ましてや、スピーキング能力など全く試験で問われないわけですから授業の中で同様に全く行われていないのが現状です。
私は県の教育委員会が行う講習会によく参加するのですが、教育委員会の指導主事の人がスピーキングを含めた言語活動を一生懸命推奨するのですが、参加している人々のこころに響いていないことをいつも感じます。
そういう講習会に参加する人というのは、教育に対するモチベーションが高い人なのですが、そういう人たちに響かないのであれば、多くの教員に伝わるわけもありません。
しかし、状況は変わりました。今年度から行われる大学入試共通テストでは「読解」と「リスニング」が各100点になりました(大学が行う傾斜配点で、それをわざわざセンター試験と同じ比率にもどしている大学がありますが、そういう大学は行かない方がいいです)。
そうなると当然、波及効果として授業の中でリスニングに対する比重が高まります。
ただし、また「しかし」で始めなければならないのですが、リスニングが重要になったからといって、リスニングを多く取り入れればリスニングできるようになるかといえば、そうなりません。
リスニング能力を高めるにはスピーキング、具体的には音読をしていく必要があります。
私は昔から音読を授業の中心にしてきました。
どれだけ早く文法と意味の確認を終わらせて、音読活動に時間を費やせるか、そのことばかり考えてきました。
すべての活動は音読のための前座です。
もちろん私も大学入試を一番重要な目標にしていますが、リスニングの割合が入試のウエイトが低い中でも音読活動を中心にしてきたのは、それが読解能力の向上に大きく寄与すると思っていたからです。
しかし、私の周りを見ている限り、音読が授業の中心になってきたなぁというようには見えません。
なぜか?
正直よくわかりませんが、たぶん以下のようなことだろうと思います。
1.大学入試でリスニングの割合が高くなっているということをそもそも知らない(びっくりするかもしれませんが、残念ながらそういう人が存在することは事実です)。
2.うちには大学なんて受ける生徒はほとんどいないので、大学入試が変わろうが特に影響は受けない。
3.リスニングが重要であることはわかっているけど、リスニング能力を高めるにはリスニングを多く取り入れればいいと思っている。
4.音読はリーディングにもリスニングに大切だとわかっているが、それを授業で取り入れたとしても生徒は音読しないので、積極的にやる気にはならない。
5.音読を取り入れたいとは思っているが、どのような音読をやっていけばよいかよくわからない。
で、今回は、2~5に当てはまる人に、書籍を紹介しようと思います。
紹介する前に、私は英語教師をウン十年やってきて、教育、とくに英語教育にはかなりのお金をかけてきました(お金をかけてきたのは英語教育と西川純先生の「学び合い」の2つ)。
日本で出版していいる英語教育関係の本は購入したものもしてないものも含めてほとんど目を通してきましたし、洋書も読んできました(正直、洋書で役に立つ本ってあまりないんですが)。
そのなかで、音読に関して優れた書籍を紹介します。
1冊目は『英語音読指導ハンドブック】(大修館書店)
優れている点をいかに列挙します。
1.序章で「知っていること」から「できること」へ、と書いてあるように、教えるではなく「できる」ようにすることをちゃんと念頭に置いている。教員に教え方を伝える目的で書いている本は多いが、生徒ができるようにすることを目的に書いてある本はあまりない。その点で、この本はすでに他とは別格である。
2.第1章で「音読指導自己診断テスト」があり、これで音読に対する自分の意識や指導法が科学的に見て正しいかどうかを判断してくれる。
3.第2章「音読指導Q&A」では「音読指導はなぜ必要か」「音読指導の現状と問題点」「音読にはどんな効果があるか?」「音読は入試対策として効果があるか?」「いろいろな音読指導法をどのような順序でもちいればよいか?」など、が書かれている。音読を行う前に、生徒たちに音読の重要性を説明できないと徐々にやならい生徒が出てくるし、自分の音読の指導に対する科学的な根拠がないと自信をもって行えなくなるので、これらの内容はぜひ知っておかなければならない。他の音読指導書ではここまで述べられているものはない。
4.第3章は「各種音読指導法」である。どの音読の指導法を使うかは対象とする生徒によって違ってくるので、最低細かいバリエーションも含めて50種類ぐらいは持っていなければならないし、100種類ぐらいはほしいところである。この章では、その音読の中心となる重要な指導法について、ほぼ網羅されている。
5.その他、中学や高校での実践例やパソコンを活用した教材作成法などにも触れられている。
とにかくこれ一冊を買っておけば事足りるので、他を購入しなくて済みます。
ただし、欠点もあります。ひとつは最近のICT教育に対応できていないこと。まぁ、初版が2012年なので致し方ないですね。
もうひとつは分量が多いこと。かなり浩瀚な書物です。よほどやる気がないと読む気が失せるような分量ですわ。
なので、読みたいとことだけ必要に応じて読んでいくという使い方がよいでしょう。
しかし、忙しい勤務の中で、そこまで読んでいる時間はないから、手っ取り早く使える指導法を端的に書いてあるものがほしいという気持ちは十分理解できます。
そんな人のためにもう一冊紹介しておきます。
『英語力がぐんぐん身につく!驚異の音読指導法54』安木真一著(明治図書)
こちらはかなり薄くてコンパクトにまとまっているので、初めから終わりまで読み通すことができます。
ますは、この2冊のうちのどちらかをもとに、自分の学校に合った、そして自分の指導法に合った音読指導を作り上げていくことが効率的です。
新人の先生方など、コロナ騒動で授業が始まる前までに読んでおくことをお勧めします。