『生を祝う』感想
自分の考えが言語化される感覚がありながら、反出生主義に孕む危険性を鏡写しにしてくれた一冊。
舞台は、生まれる前の胎児に「この世に生まれたいかどうか」を問い、胎児から同意が得られた場合のみ出産できる『合意出生制度』が法整備された近未来。胎児の同意なしの出産は「生を押しつけた」として有罪になり、「死を押しつける」殺人と同等の倫理観で語られる。
反出生主義者には理想の世界に感じられ、子供に恵まれなかった方や子供を亡くした方には読むに絶えない一冊だろう。
「この世に生まれてきたいと自分はそもそも思ったか」と考えたことがある人はどのくらいいるだろうか。身体も、性別も、名前も、親も、私たちは何一つ自分の意志で選んでいない。見知らぬ他人同士の「産みたい」「子供はかわいい」「子孫を残したい」「労働力がほしい」「自分の親みたいな親になりたい」「見せたい景色がある」等とこちらは知ったことではない他人の勝手な都合で生まれさせられた。作中では、胎児の同意なしの出産は「生を押しつけた」として、「死を押しつける」殺人と同等の倫理観で語られる。主人公の語り口には、常日頃から感じている呪いがするすると適格な言葉にされていく感覚になる。
作中では合意出生制度施行前の世代と施行後の世代が混在している。合意なき出生の世代は不幸であるという認識がまかり通っている。施行後に合意のもと生まれた世代である主人公は「生まれることを自分で選んだ」ことに自信を持ち、制度に従順な妊婦だけど、彼女には無意識下で優生思想があるように思えた。
胎児から同意を得るにあたって、胎児には事前に先天的疾患の有無・両親の経済状況や社会的地位・生まれる国の治安など「生きづらさを感じる要素」が「生存難易度」として細かく数値化され、伝えられる。不安要素があれば胎児は出生を拒否できる。これにより、たとえ障害があっても貧しい家庭でも了承して生まれてきたことになる。
コンファーム(出生前の合意確認)を受けられる病院は限られているが、貧困者や学生が自力で病院にアクセスできずに出産してしまう事件とか、発生しないのだろうか… と思ったけど、そもそもそういった環境下の胎児は出生を拒否するから生まれないのかも。
そう思うと、この制度はうっすら優生思想や選民思想を孕んでいる気がする。今日わたしが頭を悩ませている環境の人は、そもそも生まれてこない未来かもしれない。
生まれさせられたと常日頃から感じる私はこの近未来を羨ましく感じたけど、反出生主義者の根底は優生思想や選民思想と繋がっているのかもしれない。
最後は主人公がきちん決断を下す。意外性のあるストーリーではないけど、曖昧な形で終わらない小説でよかった。決断を下すまでの苦悩と思考の移り変わりが一つも取りこぼさず描かれていて、見事だった。
この近未来では合意出生制度以外にも同性婚も認められていて、今日の社会問題がかなり解決されている。さらに科学技術が進んで卵子同士・精子同士でも子供が作れるようになっている。主人公が同性のパートナーと「子供を二人持つつもりで、交代で産もう」と言いあってるのがよかった。