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IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.06 - 「取締役会の実効性」のひと工夫 -

 IPO準備会社と上場会社。それぞれ立場は違いますが、意外にもその悩みどころや解決策に共通点があります。ここではその " ひと工夫 " をご紹介します。
 今回は、「取締役会の実効性」についてのひと工夫です。




「取締役会の実効性」の評価はお済みですか?

 上場会社が年1回実施するもののうち、「取締役会の実効性に関する評価」があります。質問票(アンケート)形式の書面が事務局(管理部門)から配布され、期日までに提出されこれを集計して適時開示する、となっています。多くの上場会社では、これを事業年度期末またはこの直前に実施します。この実施の根拠は「コーポレート・ガバナンス・コード(以下「CGコード」と言います)」(株式会社東京証券取引所、以下「東証」と言います)の「第4章 取締役会等の責務」にある基本原則4及び補充原則にあります。法令ではありませんが、上場会社として必ず遵守しなければならないルールです。皆さんの会社でもそろそろこの評価を実施するタイミングではないかと考え、今回は取締役会の実効性のひと工夫をご紹介します。

 先のとおり、この取締役会の実効性に関する評価を実施する際は、多くの上場会社で質問票形式で、質問事項にいくつかの選択肢があり、回答者である取締役、監査役はその選択肢の一つに丸印を付ける。そのような質問事項が4〜5つありこれに回答する、というものかと思います。その質問事項の内容や質問事項の数は、CGコードにある内容に基づいていればどのようなものでも良いかと考えます。


【取締役会の実効性に関する評価・質問事項の要素】

  • 取締役会の構成

  • 取締役会の運営

  • 取締役会の実効性

  • 社外役員に対する情報提供


 それでは、これらの質問事項の要素について、どのような考え方(意図)を踏まえているかご存知でしょうか。CGコードに示されている考え方を十分に理解しこれを踏まえた質問事項であることが重要です。CGコードにある考え方を引用します(長文のため、途中省略等をしますことご了承ください)。


基本事項4

【考え方】
(省略)
上記の3種類の機関設計のいずれを採用する場合でも、重要なことは、創意工夫を施すことによりそれぞれの機関の機能を実質的かつ十分に発揮させることである。 また、本コードを策定する大きな目的の一つは、上場会社による透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促すことにあるが、上場会社の意思決定のうちには、外部環境の変化その他の事情により、結果として会社に損害を生じさせることとなるものが無いとは言い切れない。その場合、経営陣・取締役が損害賠償責任を負うか否かの判断に際しては、一般的に、その意思決定の時点における意思決定過程の合理性が重要な考慮要素の一つとなるものと考えられるが、本コードには、ここでいう意思決定過程の合理性を担保することに寄与すると考えられる内容が含まれており、本コードは、上場会社の透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促す効果を持つこととなるものと期待している。 そして、支配株主は、会社及び株主共同の利益を尊重し、少数株主を不公正に取り扱ってはならないのであって、支配株主を有する上場会社には、少数株主の利益を保護するためのガバナンス体制の整備が求められる。

(出典:CGコード14〜15ページ)

  CGコードの大きな目的のうちのひとつに「上場会社による透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促すことにある」とあります。これは法令遵守等によって " ルールに縛られたうえでの経営 " を求めておらず、むしろ迅速・果断な意思決定を促すためにこのCGコードがあるとしており、上場会社にはそのための体制(機関設計、組織、ルール等)についてその自主性を求めています。これは見方によれば、皆さんの会社の個性、独自性などを大いに発揮できるもので、それ如何によっては支配株主を含むステークホルダーは好意・好感をもってその会社を応援・支援し、ひいては皆さんの会社の企業価値が向上することにつながるものではないでしょうか。上場会社としては、これを大いに活用し、経営方針への反映やCSR(Corporate Social Responsibility /会社の社会的責任)活動等でアピールしていくことで企業価値の向上につながるものと考えます。

 では、今回の取締役会の実効性を、いつ、どのように構築して実効性を持てば良いでしょうか。そのひと工夫をご紹介します。



【取締役会の実効性のひと工夫・1】体制は上場前に構築する

 この記事の冒頭で、「取締役会の実効性の評価はお済みですか?」とお尋ねしました。実効性は精神論ではないので、気分/雰囲気で証明できるものではありません。実効性があることを証明できるルールと証拠(証跡)が必要です。皆さんご存知のとおり、取締役会には規則(規程)があります。そのルールに則って開催され、議事進行・協議され、決議に至ります。決議があればそれを記録することが必要です。とても単純なことですが、IPO準備中の会社では、このルールを踏まなかったり、証拠を残さなかったために、のちに無効となるケースがかなり存在します。特に見逃すポイントとしては、会中で質疑や協議のときに誰が何を言ったのか?も記録するようにしてください。これは先にご紹介しましたCGコードに定められているルールです。IPO準備会社では、その記録(議事録)を残すことに重点を置くため、インターネット上で紹介されている議事録雛形を使用されることが多いと思います。ただし、その記載例に質疑・協議等の例文が無いことが多く、大抵は「満場一致で・・・」とします。決議の結果として満場一致でも、それに至る過程で質疑・協議は必ずあります。これを省略したために資金調達のとき後続の投資家が取締役会議事録を閲覧したところ、決議状況がすべて「満場一致」と記録されていたら、どう思うでしょう。他に意見を言わせない会社なのか? 本当に取締役会を開催しているのか? と疑問をもたれてしまいかねません。またスタートアップの会社では資金調達の時点で海外投資家やいわゆる " モノ言う投資家 " と接点を持ったり、実際に資金調達先となることがあるでしょう。このとき、会中で質疑や協議のときに誰が何を言ったかを記録するように要望してくるケースがあります。議事録は単なる記録文書ではなく、その会社が歩んでいる足跡・形跡のエビデンス(evidence /証拠)という位置付けなのです。

 このような位置付けと理解したうえで、これを意識して記録しようとするときは、やはり取締役会の開催・議事進行・その記録方法のルールと場数を踏んでいく慣れが必要となります。そのように考えると、取締役会の実効性はIPO前にその体制を構築して運用する必要があるでしょう。そこには、一般的な型通りの形式ではない、その会社の社風・雰囲気・個性が込められたルールと記録になれば、最高・最良でしょう。



【取締役会の実効性のひと工夫・2】社外役員の出席状況に留意を

 皆さんの会社では、社外役員(取締役、監査役・監査等委員)の出席状況はいかがでしょうか?上場会社では社外取締役/監査役(監査等委員)を選任する必要があります。これは会社法に定められており、上場会社はこれを遵守しなければなりません(*会社の機関設計によって選任する必要員数が違いますので、法令を参照してください)。また、東証の上場規程や「上場管理等に関するガイドライン」にある「独立性基準」には、独立社外取締役を選任することとその基準があり、これを遵守するよう求められています。

 皆さんの会社では、この社外役員の選任までは十分な注意を払っていると思います。それでは、この社外役員の出席状況はいかがでしょうか。社外役員の選任にばかり注意しすぎていると、後日大変な事態になることがあります。社外役員の多くは他の会社の役員として兼任していると思います。上場会社の取締役会で重要な決議事項を決議するタイミングは、決算期が03月、06月、09月、12月であれば、それらの会社はほとんど同時期(02月、05月、08月、011月)、つまり年次・四半期決算報告を行うタイミングで重要な決議事項を決議を行います。これを踏まえたら、上場会社の役員が他の会社の役員を兼務することは難しいでしょう。よほど時間調整が上手くいかなければ、取締役会への出席は困難です。

 社外役員の取締役会への出席状況(回数・出席率)は、ステークホルダーにとって重要な情報であり、重要な要素です。株主総会招集通知にある事業報告で「役員の状況」項にその出席状況・発言状況が記述されていますが、例えばその会社の株主総会で役員の選任が決議事項となっているとき、役員候補者のお名前の横にも出席状況を記載している会社があります。もしその出席状況が芳しくない場合は得票率も芳しくないことが多いです。これは株主がそれら役員候補者に一票を投じる際の重要な判断材料となっている証拠と考えられます。 

 上場会社は、社外役員の出席状況を考慮する必要がありますが、これは社外役員の選任する前、つまり候補者の選定のときから注意しなければならないこととなります。また、その社外役員の任期を考慮するなら、事前にその候補者となる方との協議と協力が必要です。その候補者となる方もある程度将来的な状況が予想できたとしても、実際にはいろいろな事象があって出席状況が芳しくないことになるかもしれませんが、株主はその出席状況が芳しくない社外役員の背景にどのような事象があったのか?知る由もありません。株主はその出席状況の結果のみを見て選任投票をすることとなりますし、その上場会社の取締役会開催状況を想像することになるのです。出席率100%またはこれに近い出席率であるほうが良いでしょう。また、これも出来ればになりますが、事業報告にその社外役員の発言状況によってその会社の取締役会の実効性が高い品質であることを証明でき、記載できるようになれれば最高・最良でしょう。



取締役会の実効性は「数」ではなく「質」です

 この記事の冒頭部分でご紹介した【取締役会の実効性に関する評価・質問事項の要素】ですでに理解している方がいらっしゃると思います。それは、取締役会の実効性の評価は「数」では表現できません。また、定型的な回答でも表現できません。なぜなら取締役会の構成員はそれぞれ多種多様多彩な知識・経験・能力を持ち、その会社から求められている期待・要素もさまざまです。そうであれば、その会社の取締役会の実効性を評価する際に、出てくる回答は数や定型的な回答で評価することが難しいでしょう。その社外役員の心が言葉として表現されるものと考えます。そうなると、取締役会は実質(本当の内容)が必要で、その実質が込められた取締役会でなくてはならないでしょう。その実質が幾重にも重なって「取締役会の実効性」が評価できるものと考えます。


 上場会社がそのような実質が込められた取締役会を毎回重ねるご苦労をされていると想像すると、本当に頭が下がります。そのご苦労があるからこそ、株式証券市場が成立するのですから。このような多くの上場会社の「取締役会の実効性」をお手本に、IPO準備、上場後の経営体制構築・維持を進められたら、とても素晴らしいですね。



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