見出し画像

IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.19 - 規程と業務マニュアル⑤ -

 IPO準備会社と上場会社。それぞれ立場は違いますが、意外にもその悩みどころや解決策に共通点があります。ここではその " ひと工夫 " をご紹介します。
 今回は、規程と業務マニュアルのひと工夫・その5です。



業務マニュアル・きめ細かい内容は何のため?

 これまでの記事「IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.15 - 規程と業務マニュアル -」「Part.16 - 規程と業務マニュアル② -」「 Part.17 - 規程と業務マニュアル③ -」「Part.18 - 規程と業務マニュアル④」と4回にわたって規程・業務マニュアルについていろいろ考えてみましたが、今回も引き続き少しだけ規程と業務マニュアルの具体的な内容について考えてみたいと思います。

 会社の内部統制は、社内規程等(*ここに業務マニュアルも含まれます)に示されることによって具体化されるものであり、その具体化こそが会社及び経営者の責任です。その責任を果たすため規程管理にご苦労があると思いますが、経営者層の皆さんが業務マニュアルについてご苦労されているお話しを聞くことは少ないかもしれません。皆さんもご存知のとおり、規程は取締役会の決議事項としている会社がほとんどですから、規程の内容はともかくどのような規程があるかはご存知だと思います。しかし業務マニュアルになると、部門の担当役員でなければどのような業務マニュアルがあり、その内容のものなのかを知っている方は少ないでしょう。特にIPO準備期の代表取締役社長は、部門を担当することを避けるように主幹事証券会社から指導されることが多いので、IPO前後で業務内容が様変わりすることに伴う業務マニュアルの改定があってもその内容をご存知ないことが多いと思います。代表取締役社長が業務マニュアルの細部にわたって知っておく必要は無いかもしれませんが、先のとおり会社の内部統制の具現化の一端である業務マニュアルについてある程度は把握しておくことをお勧めします。

 業務マニュアルは会社によって様々なかたちがあります。量的にはA4用紙1枚のものや数十ページのもの、一挙一動(一つ一つの動作)細かく定めているものやザックリと業務の流れのみを書いているもの、システムを利用する場合はその使い方までを示しているものなど。本当にたくさんの種類のものがあり、私も学ばせていただいております。どれもが特徴的で優れた点があるのは事実ですが、私が一番優れていると感じた業務マニュアルは、内部統制・業務プロセス(PLC)の3点セット(業務記述・フローチャート・RCM)のうちフローチャートでコントロール(一般/キー)と連動して注意書き等説明文がきめ細やかに記されていた業務マニュアルです。コントロールに設定しているということは整備/運用評価時には業務書類を証憑として提出することとなりますが、その業務書類に不備・誤り等が無いように業務マニュアルに丁寧な説明、注意書きが記されていたのです。こうすることで証憑となる業務書類に不備・誤り等はありませんし、その業務書類を整えるために必要な他の書類もしっかりとした内容にしなければなりませんので当然不備・誤り等がなくなります。きめ細かい内容とは、業務全部について詳細を記すのではなくコントロールに設定している業務をメインに丁寧な説明、注意書き等を記して内部統制の具現化を目指している内容であることだと考えます。文字だけでなく図や画像を入れるのも良いアイデアだと思いますし、ドキュメント(紙、PDF等)や動画も良いかもしれません。皆さんの会社の経営方針、社風等を考慮したかたちの業務マニュアルを作成することをお勧めします。



単体では成立しない業務マニュアル

 業務マニュアルは単体では成立しないものです。これは業務マニュアルを作成したご経験のある皆さんからは、共感していただけるのではないでしょうか。例えば皆さんの会社の販売管理系の業務マニュアルを思い浮かべてください。

【販売管理系の業務マニュアルの例】

  • 見積管理マニュアル

  • 売上管理マニュアル

  • 受注管理マニュアル

  • 請求管理マニュアル

  • 入金管理マニュアル

  • 出荷管理マニュアル  など

 業種によっては上の例以外にも多くあると思います。
 各マニュアルを見ておわかりのように、上の例はフローチャートの業務の流れに沿っています。これら一連をひとつのマニュアルにするのは大変ですし、読む側の従業員にとっても把握し理解するのが大変になります。そのため各業務をパーツとして捉えてまとめています。しかし、ここで内部統制をよく理解されている皆さんはお気付きだと思いますが、これらの各業務は単に上流から下流に流れるわけではありません。フローチャートでは矢印が付けられて上流から下流に流れているように見えても、時系列で見ると部分的に業務が同時並行したり交互に連動したりしている場合が多いです。売上管理の業務が変わればそれに前後する見積・受注管理の業務にも影響があります。また会社で基幹システムを導入・入替するとなれば、もちろん販売管理系の全業務マニュアルに影響します。
 これだけではありません。販売管理系の業務マニュアルが改定されれば、さらに他の業務マニュアルにも影響するでしょう。例えば、受注管理の業務で電子署名による契約書締結を導入する場合、販売管理系の業務マニュアルだけでなく総務系の印章管理に関する業務マニュアルや組織系の決裁権限に関する業務マニュアルの制定・改定も必要です。
 これらの例を見ても、業務マニュアルは単体では成立しないことがおわかりになると思います。

 多くの場合、業務マニュアルは業務を所管する部門内で制定・改定され、その周知も当該部門内で済ませてしまうでしょう。これによって、会社内の各業務マニュアルに齟齬があっても気付かず、万が一業務に支障が出たときにはじめてその改定漏れに気付くということがあります。また、内部統制の整備/運用評価の際に発覚することもあります。このようなことがないようにするためには、業務マニュアルを制定・改定する際に業務を所管する部門が適宜連携するという方法がありますし、以前の記事「企業法務の在り方 Part.08 - 内部統制と法務 - 」「IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.16 - 規程と業務マニュアル② - 」でご紹介しましたが、規程と業務マニュアル全社分を体系的に管理する方法もあります。会社の内部統制の具現化するための規程・業務マニュアルですから、抜け漏れはもちろん業務が連携している部門間において齟齬等があってはキケンです。これらが内部統制の運用評価で発覚したら、目も当てられない状況になります。このようなことがないように、まずは業務マニュアルは単体では成立しないことをご理解いただき、合理的で効率的に内部統制の具現化を目指していただくことをお勧めします。


 今回も規程・業務マニュアルの工夫(テクニック)をいくつかご紹介しました。これらはあくまでもテクニックで参考程度でお読みいただき、部分的にでも皆さんのお働きの参考になりましたら幸いです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?