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" 発生事実(不祥事/不正行為) " が発生しない上場会社の内部監査 Part. 09 - 組織の機能不全 -

 上場会社での発生事実(不祥事/不正行為)が跡を絶たない昨今、内部監査はその責務を果たすため、どのようにしたら良いでしょうか。
 直近事例を参考に、内部監査の本分について考えてみたいと思います。



 今回ご紹介する直近事例は、社内の組織が機能不全に陥ったことで発生事実(不祥事/不正行為)が外部の通報によって明るみになった内容です。状況としては売上高の不正な会計処理が、監査等委員が以前指摘していたにもかかわらず内部の自浄作用が働かず改善しなかったこと。そのうえ、その不正行為は金融庁の公益通報窓口に通報されたことで公となった、芳しくない経緯です。

 今回の直近事例のポイントは、

  • 監査等委員が指摘した不正行為を、会社はどの程度重要視したのか?

  • 会社は不正行為の改善を、どのようなスキームで対処するはずだったのか?

  • 内部監査はその不正行為の状況を、どのように把握し、適切な対応をしたのか?

  • 不正行為への監視とその改善を行う部署・機関は、本当に機能しているのか?

 これらを、内部監査の目線で考えていきます。



直近事例から - 概要説明 -

 今回の直近事例は、売上の先行計上を行っていたことによる不正な会計処理があったという事案です。
 事案の内容を確認してみましょう。

【事案の概要】

 金融庁から当該会社の会計監査人に対し、「当該会社の子会社が売上の先行計上の不正を行っているとの公益通報があった」との連絡があった。

 この会計監査人はただちに監査等委員会に対して、金融庁から共有された通報内容を伝達し、これに関して公表済みの決算について不適切な会計処理(売上の先行計上等)をしている疑義(以下「本件疑義」という。)が生じていることを指摘した。
 その不正行為とは、未だ納品していない納品物について売上計上をしている。業務フロー上では、この納品実績の有無に関するエビデンスを経理部が確認するはずだが、その経理部もその未だ納品していない納品物について売上計上をしているを知っているのではないか、というものである。

 なお、社内においては監査等委員が各販売店に対して実施した実査(現地監査)で、この点について問題点であるとの指摘を行ったが、当該指摘を受けた販売店においてこれに対する改善を行なった形跡は無い。(また、当該調査報告書上に監査等委員がフォローアップ監査を行なっていたとの報告もない。)

 上記の経緯ののち、会計監査人は当該会社において公正性を確保した調査が必要との強い要請を行い、当該会社において第三者調査委員会が設置された。

(出典:TDNETに掲載の某社リリース・調査報告書より要約)


 この直近事例で大変興味深い点があります。それは以下の点です。

  • すでに社内にて不正行為が発覚しているにもかかわらず、公益通報窓口に通報されるに至ったのかという点

  • 監査等委員(会)と内部監査の監査機能が不全に陥っている点

  • 会社の不正行為の検出・改善機能が不全に陥っている点

  • 会社の不正行為への監視とその改善を行う部署・機関の機能が不全に陥っている点

 この4点です。
 上場会社の当該某社は、会社の組織上のコンプライアンスとガバナンスの機能が不全に陥っているという大変不名誉な状況、状態が明らかになってしまいました。

 さて本題に入ります。



指摘を真摯に受けて、改善する意志を育てる

 社内の各業務において、改善すべきとされる指摘はいくらでも出てきます。それは、どんなに素晴らしい、しっかりとした会社にもあります。例えば、ガバナンス、コンプライアンスの観点で問題があるとされることや、アドバイザリーの観点で業務効率の向上のためにとされることなどがあります。しかし、その指摘を受ける側、つまり被監査部門にとってはその指摘すべてがマイナスなイメージで受け止めてしまうことが多いでしょう。
 このような場合、内部監査の皆さんは被監査部門がそのようなマイナスなイメージに受け止められないような説明等を行い、その指摘の大きな目的である「改善してほしい」旨を正しく理解してもらえるようにしなければならない責任があるかと考えます。

 今回の直近事例のケースでは、売上の先行計上という不正会計処理ですので、コンプライアンス違反を含めた指摘です。このとき内部監査の皆さんは、被監査部門に対してどのように説明しますか?「改善してほしい」ということより「コンプライアンス違反であること」が意図的に強く出てしまうのではないでしょうか。もちろんコンプライアンス違反であり、改善しなければ当該会社が大損害を被ることが確かな事案ですので、ただちに改善すべき事案です。しかし、このときその不正行為を行なっている当該部門としては、すでにその行為は不正であり、とんでもないことをしているということを知っているはずです。内部監査の皆さんが、その不正行為と知ってて行なっている相手に対して「不正行為をしている」と説明しても、その相手は当該指摘を真摯に受けて改善しようと考えるかどうか、あまり期待をすることができないかと思います。


 以前の記事「J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと Part.06 - 従業員にとっての内部統制 - 」で説明しましたが、その指摘を真摯に受けている被監査部門の従業員の皆さんは、そもそも「内部監査・内部統制の大きな目的」を十分に理解していないことが多いです。つまり、誰でも子供の頃から「悪いことをしてはいけない」と親から教えられていても、悪いことをしてしまうのと同じように、悪いことと知っていても、または悪いことと知っているうえで悪いことをしてしまいます。この「悪いことをしてはいけない」と教えられた際に「なぜ悪いことをしてはいけないのか」という目的が十分に理解されていれば、今後その悪いことをしなくなるでしょう。
 今回の直近事例のケースでも、その不正行為を行なっている部門、従業員は、それが悪いことと知っていて、そのうえでこの不正行為を行なっています。ただし、その部門、従業員は、その不正行為がなぜ悪いのか。その不正行為が発覚したらどのような結果になるかを十分に理解していないためにその悪いことを行い、続けているのです。さらに最悪なケースは、従業員はその不正行為を行いたくないのにもかかわらず業務命令として上長等からその不正行為をするように指示があることです。

 このように考えると、内部監査担当が行うべき業務は、不正行為を検出する/探すだけでなく、内部監査、内部統制の大きな目的を日頃から、または社内研修等で十分に説明し、理解してもらうことも重要であると考えます。なぜなら内部監査の大目的は、「その会社の事業が、リスクに従って合理的・効果的な業務遂行ができるかを助言・助成していくこと」だからです。部門、従業員の全員がこの大目的を十分に理解していれば、不正行為を改善すべきと指摘しても部門、従業員はこの指摘を真摯に受けてこれを改善する意志を持つことになるのです。(*以前の記事「-「内部監査」の重要性 -」参照)


 繰り返しますが、内部監査が行うべき業務は、内部監査、内部統制の大きな目的を日頃から、または社内研修等で十分に説明し、理解してもらうこと。そしていざ指摘事項があったら部門、従業員はその指摘を真摯に受けて、改善する意志を育てることなのです。



会社の組織が " 機能不全 " に陥ると・・・

 今回の直近事例で最も注目する点は、会社の組織が機能不全に陥っていることです。
 ここで当該会社が機能不全に陥っている点を挙げてみましょう。


  • 業務フロー上、チェック機能を有している上長、部門長、経理部門がそのチェック作業を怠った点

  • 経理部門は売上計上する際に確認すべき帳票を確認せずに経理処理を行なっている点

  • 監査等委員の指摘に対して当該被監査部門が改善することを怠った点

  • 不正行為が検出されているにもかかわらず、リスク・コンプライアンス委員会がその調査と対応等を行っていない点

  • 監査等委員がフォローアップ監査を行なっていない点

  • 監査等委員の監査報告に対して取締役会が改善指示を行わず、問題視すらしていない点

  • 内部監査はその不正行為の事実を認識していたにもかかわらず指摘をせず、その事実を代表取締役社長に報告すらしていない点(*当該会社の内部監査のレポートラインは代表取締役社長)


 当該会社では、業務フローを整備し、規程等ルールについても整備していますので、業務管理体制の整備はされているようですが、上に挙げたとおり運用をしていなかったのです。IPO準備前/準備中の会社では、業務管理体制の整備段階で規程等ルールの成熟度が上がっていないなど整備状況が50-60%であることや、その業務フローと業務記述内容が十分機能するために必要な人員配置ができていないことが多いですが、それらは規程等ルールの成熟度を上げたり人員採用を行なって補充することで十分な業務管理体制の構築と運用が可能です。しかし今回の直近事例のように、会社の組織全体が機能不全に陥り、その不正行為を「悪いこと」と知ってて行なっていることや、その不正行為を放置しているという状況は、規程等ルールの見直しや周知徹底のような対応では、改善することは非常に難しいでしょう。その大きな理由は、そのような悪しき " 社風 " があることです。先般不正行為の発覚で大きなニュースとなった某自動車販売会社も、代表取締役社長が交代し、前経営者からの経営に関する影響を遮断したりしたにもかかわらず、完全復活する状況に無いのは、そもそもその会社の社風が一掃されていないためと考えます。

 もうひとつ気になる点は、不正行為に関する情報がリスク・コンプライアンス委員会に上げられておらず、調査、対応等を行っていない点です。当該会社のリスク・コンプライアンス委員会のメンバーに当該不正行為当事者部門が入っていることも原因として考えられますが、このリスク・コンプライアンス委員会が機能していないことは、組織上の欠陥と指摘されても言い訳できないでしょうし、ここにも悪しき社風が影響しているのであれば、メンバー構成として社外取締役(監査等委員を含む)や外部有識者等に限定したものにする必要があるかもしれません。


 会社の組織が機能不全に陥ると、その会社がガバナンス・コンプライアンスの点で信用・信頼を回復することは非常に困難です。特に会社の組織が機能不全のケースは、その行末は当該会社単体だけでの立ち直り不可能、他社への事業譲渡、吸収合併、他社からの資本参入など、当該会社自体の存在が消滅してしまう結果になりかねません。そうなると、不幸になるのは当該会社の従業員です。近江商人の経営哲学に「三方よし」がありますが、 " 売り手よし、買い手よし、世間よし " を成立させることが経営者の本分(義務)です。



内部監査の本分

 それでは、内部監査の本分はどうでしょうか。
 内部監査を実施して不正行為を検出したとき、内部監査はもちろんその不正行為に関する情報をレポートライン(一般的には代表取締役社長)と監査等委員会(または監査役会)に報告する義務があります。そして代表取締役社長が交付する改善指示書に基づき当該部門の改善状況を監査(フォローアップ監査)する義務があります。そして最終的に改善されたかどうかを評価してこれを会社に報告する義務があります。これらの義務が内部監査の本分です。もし、この内部監査の本分も機能不全に陥ったら・・・目も当てられない状況になります。例えば、業務フロー上で上長等が、確認すべき帳票を確認せずに稟議等を承認したという状況は悪質なものですが、内部監査で収集すべき証憑を収集しなかったり、証憑上で確認すべきポイントを確認しなかったりすることは、内部監査の職務怠慢と指摘されても言い訳できないでしょう。
 また、今回の直近事例のように、最終的には金融庁の公益通報窓口に通報されるようなケースは、おそらく社内の内部通報窓口にも通報されているものと想像します。社内の内部通報窓口にも通報されるということは、社内から「改善してほしい」という悲痛な声が上がっていることなのです。その声が上がっているにもかかわらず社内の声を知らぬふりしてしまう内部監査だったら、内部監査の存在価値が失われることになってしまいます。このことは、その内部監査を行う従業員だけでなく、その会社、従業員全員が不幸になりかねません。

 内部監査の業務は、内部監査のためだけではありません。その会社、従業員のためにある仕事です。その仕事を完遂することが内部監査の本分であり、責任なのです。私もこのことを毎日心に思い起こし、その本分、責任を十分に噛み締めて内部監査の業務にあたること、これを少しでも多くの内部監査の皆さんと共有したいと考えています。


 今回の記事では、会社の組織が機能不全に陥らないようにするのが経営者の本分であり、内部監査の本分であることをご紹介しました。規程等ルールの整備や業務の経験が十分でないことで発生事実が発生することはリカバリ(取り戻す)可能なことですが、会社の組織の機能不全はリカバリの可能性が非常に低いと考えます。そのようなことが無いように、一緒に内部監査の技術と力量を研鑽していきましょう。



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