IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.16 - 規程と業務マニュアル② -
IPO準備会社と上場会社。それぞれ立場は違いますが、意外にもその悩みどころや解決策に共通点があります。ここではその " ひと工夫 " をご紹介します。
今回は、規程と業務マニュアルのひと工夫・その2です。
規程・業務マニュアルと内部統制・概要②
前回の記事「IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.15 - 規程と業務マニュアル -」で規程・業務マニュアルと内部統制の概要について考えてみましたが、今回ももう少し考えてみたいと思います。
会社の内部統制は、社内規程等(*ここに業務マニュアルも含まれます)に示されることによって具体化されるものであり、その具体化こそが会社及び経営者の責任なのですが、「会社の内部統制を具体化したもの=規程」であるといっても、規程に業務の具体的な内容を定めなければならないとか、事細かに定める必要があるというものではありません。
IPO準備期の会社では、経理規程及びその周辺マニュアルの準備にご苦労があったのでしょう。例えばIPO準備期のタイミングで会社の機関設計の変更(例:監査役設置会社から監査役会設置会社又は監査等委員会設置会社への変更)があった場合、定款変更だけでなく取締役会規程、監査役会規程(又は監査等委員会規程)、監査役監査基準(又は監査等委員会基準)など関連する周辺の規程とマニュアルや手続書の制定・改定が必要となります。これについてはどの会社でもご苦労があったのではないでしょうか。ただし、よく考えてみるとそのご苦労というのは、規程というドキュメントを作成する/加筆修正することや加筆修正が必要な条文を探すというご苦労だと思います。実はそのようなご苦労は、規程を体系的に管理することで新規に制定すべき/条文の加筆修正が必要な規程はすぐに判明しますし、条文の加筆修正な規程でもその加筆修正が必要な条文はすぐにわかります。もちろん、機関設計のような法令に定められている内容であれば具体的な修正条文もほぼ定型です。つまり、上の例であるIPO準備期のタイミングで会社の機関設計の変更に伴う規程等の制定・改定をスムーズに行うためには、機関設計の変更(会社・経営者の意志)からいきなり規程制定・改定に業務を進めることは避ける方が良いのです。おそらく制定・改定の抜け漏れが発生しやすいですし、機関設計ともなれば株主総会の決議や商業登記が必要となりますので、そのときどきでいちいち抜け漏れを発見してもスケジュールの関係でやり直しが不可能になることもあります。特にIPO準備はスケジュールとの戦いですので、やり直しのためにスケジュールを延ばすことはできません。臨時株主総会を何度も開催することは不可能です。そのようなことがないように、規程等の制定・改定をスムーズに行う手順として以下のものがおすすめです。
【機関設計の変更の場合】
あらかじめ規程・業務マニュアルの体系的な管理を行う。(体系図と各規程等の条文ごとに他の規程等の条文との相関関係をPick upしたリストの作成)
会社・経営者の意志決定がある。(機関設計の変更を決定)
規程等の体系図と条文相関関係リストから、改定又は新規条文を確認する。
規程の制定、条文の加筆修正・新規条文の文言等の検討を行う。
ドキュメントにして取締役会に上程する。(*事前に経営会議で検討することをお勧めします。)
上記は機関設計の変更の場合の手順をご紹介していますが、その他の経営判断に伴う規程制定・改定の場合でも同じ手順です。また、規程等の体系図と条文相関関係表に業務マニュアルも加えて管理していただくと、さらに細かい点まで抜け漏れがなくなります。ただし、ここで申しあげたいのは「抜け漏れが怖い」のではありません。「その抜け漏れが原因で会社のリスクが増加し経営・事業の負担増加になることが怖い」のです。これについてよくある例は、人事就労関係の規程で労働関連法令上就業規則に定めておくべき条文が抜けていたというものです。皆さんもご存知のとおり、就業規則は取締役会の決議の前に従業員代表(又は労働組合代表)の意見書が必要です。その意見書を従業員代表から頂戴するための日数が必要でしょう。抜け漏れのために意見書の受領が遅れて会社の人事制度の制定・改定が遅れてしまったり、労働基準監督署への提出が遅れてしまったりしては一大事です。さらには労働問題リスクが生じる/増加することにも繋がりかねません。
規程の制定・改定(=内部統制の具体化)は会社及び経営者の責任です。また、法務部門等規程を管理する部門もその責任を会社・経営者から任されて担っています。その責任を全うするためにも、規程・業務マニュアルの体系的な管理とその管理方法にこだわってみることをお勧めします。
作成する手順は「規程から業務マニュアル」で良いか?
規程・業務マニュアルの整備を入念に行うことについては前回の記事で考えてみましたが、その整備にあたって、もし新規に規程・業務マニュアルを制定しなければならないときや各所の条文を改定する必要があるとき、皆さんはどのように作業をしていますか?おそらくは新規規程を用意・準備し、又は既存の規程の条文を修正してから業務マニュアルの制定/条文の修正に着手されていると思います。多くの場合はこの手順でも良いかと思いますが、皆さんはその逆、つまり業務マニュアルの制定/条文の修正に着手してから新規規程を用意・準備し、又は既存の規程の条文を修正するという手順(以下「逆パターン」といいます)を行ったことがありますか?
この逆パターンは、例えば販売管理規程や印章管理規程など業務の流れや業務管理方法などによって業務マニュアルが決まり、そのうえで規程は業務マニュアルの内容に従って各条の構成や条文の書き振りが決まってくるケースのときに有効です。販売管理規程の場合、管理すべき/押さえるべきポイントは会計基準や会社の会計方針によって決まりますが、それらのポイントを経由/到達する経路は会社によって千差万別です。その押さえるポイントや経路までも規程に定めるのか、又は業務マニュアルに定めるのか。これについてはテクニックも必要ですが、そのテクニックに頼り過ぎるのも考えものです。まして、先のとおり「規程の制定・改定(=内部統制の具体化)は会社及び経営者の責任」ということを念頭においたとき、「詳細は別途(業務マニュアル等に)定める」と簡単に規程に記す前に一度十分に検討する必要があるかもしれません。
また印章管理規程の場合、電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)の制定に伴い紙媒体の契約書への押印に替えて電子署名による契約締結の契約書も契約成立の証としてみなされることとなりました。ただしこの電子署名法は数回改定を行なっている状況(2000年(平成12年)05月31日公布。現在は2024(令和4)年06月17日施行のもの)であり今後も改定される可能性があります。また以前の記事「IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.11 - 印章管理 -」でご紹介しましたが、契約書の電子契約サービスは現在大いに進化しており、例えば以前は契約書最下段に契約締結日を記していましたが、最近ではこの契約締結日を記載せず電子契約サービスが発行する「タイムスタンプ」によって契約締結日を証明する会社もあります。そのため、会社によっては電子署名後の契約書を保存する場合はこのタイムスタンプも合わせて保存する必要があります。これも印章管理上は押印記録の証拠になりますので、これを印章管理規程や印章管理マニュアルの条文に加える必要があるかもしれません。
いずれにしても、業務の流れや業務管理方法などによって業務マニュアルが決まり、規程もそれによって条文の書き振りが決まってくるケース、つまり逆パターンの手順で規程・業務マニュアルの整備を行うほうが合理的・効果的な場合があります。この手順はケース・バイ・ケース、業務の実態等によって有効又は効果無しの場合もありますが、一度逆パターンをやってみることをお勧めします。
今回の記事では規程・業務マニュアルの体系的な管理を行うことをお勧めすることと、規程・業務マニュアルの制定・改定の際の具体的なテクニックについて、皆さんと一緒に考えてみました。少し回り道をしましたが、次回以降で特に全社統制(CLC)、決算・財務報告プロセス(FCRP)、業務プロセス(PLC)に大きく影響する規程・業務マニュアルのいくつかをPickn up してみたいと考えております。(*IT統制については、以前の記事「- IT統制とISMS認証 -」をご参照ください。)
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