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IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.17 - 規程と業務マニュアル③ -

 IPO準備会社と上場会社。それぞれ立場は違いますが、意外にもその悩みどころや解決策に共通点があります。ここではその " ひと工夫 " をご紹介します。
 今回は、規程と業務マニュアルのひと工夫・その3です。 



規程と業務マニュアル・テクニックの落とし穴①

 前々回の記事「IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.15 - 規程と業務マニュアル -」、前回の記事「IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.16 - 規程と業務マニュアル② -」で規程・業務マニュアルについていろいろ考えてみましたが、今回もさらにもう少し考えてみたいと思います。

 会社の内部統制は、社内規程等(*ここに業務マニュアルも含まれます)に示されることによって具体化されるものであり、その具体化こそが会社及び経営者の責任なのですが、会社の内部統制を具体化するためにはいろいろな工夫があると思います。その工夫(=テクニック)はその会社で長年培われたものや、規程の管理管轄部門・担当者の経験に基づいた技術などがあります。皆さんの会社でも、例えば規程の数がとても多い会社や極端に少ない会社、業務分野・テーマごとに整理して必要な所には手厚い規定を定めている会社など、様々あると思います。私はお陰さまで多くの会社とお繋がりをいただき規程類等を拝見しましたが、規程・業務マニュアルの数がとても多い会社が4〜5社ありました。その会社では業務をとてもスムーズに遂行し、不正行為が発生しにくく、業務の滞りが発生する余地の無い環境となっている印象が強く残っています。そのような環境ですから、従業員の皆さんは何の不安もなく働きやすいと感じているようでした。

 よく規程・業務マニュアルの数が多い会社はルールに縛られている会社なのだろうと思われるかもしれませんが、むしろそれらの会社は、規程・業務マニュアルが自分たちを縛るルールであるという感覚は薄く、むしろ必要なルールがあってこそ安心して業務が遂行でき、業務マニュアルも業務の流れをスムーズに流すためのモノであると考えておられるようでした。私はまったく同感です。この感覚は、皆さんの中でもPマーク(JIS Q 15001)ISMS(ISO 27001)の認証取得に携わった方々は共感していただけるかもしれません。ルールは認証を取得するためのハードルではなく、個人情報・情報資産をより安全に守るための手順を定めるモノです。要求事項はスキーム(枠組み)です。
 Pマーク/ISMSの認証を取得するにはその要求事項に対応する規程・手順書(業務マニュアル)を制定する必要があるのですが、要求事項はとても多いために規程・手順書も膨大になります。ですから、規程・手順書を体系的に管理しなければなりません。そのため規程・手順書にそれぞれ何を定め、何を記すかを区分けし整理することが必要となります。各認証の規程には定めなければならない事項があり、手順の具体的な内容だからといって「手順書に定める」とはできない事項もあります。つまり、規程には要求事項に対応した条項を規程に定め、手順書にはその会社に合った業務の流れを明記し使用する帳票類の雛形を添付するなどして体系的に管理し、会社のポリシー(基本方針)をもって規程・手順書を作成する必要があるのです。
 
これに対して社内規程はどうでしょうか?社内規程は関係法令に対応した条項を規程に定め、業務マニュアルはその会社に合った業務の流れを明記し使用する帳票類の雛形を添付するなどして体系的に管理することが必要となります。ここにテクニックはあまり必要ではありません。それよりは会社のポリシー(基本方針)を深く理解することの方が重要です。ポリシーが直接影響するのは業務マニュアルとなります。このように考えると、ネット検索で入手した規程・業務マニュアルの雛形に会社名を書き換えて気軽にそのまま流用する・・・おそらくそのようなことは怖くてできません。また受け売りのテクニックを用いて、規程には概要を簡単に定め、詳細はすべて業務にマニュアルに定めるという作り込んでしまうようなやり方も再考する必要があるかもしれません。



規程と業務マニュアル・テクニックの落とし穴②

 皆さんの中には、規程類管理に長年携わり経験を経たうえで会得したテクニックをお持ちの方が多くいらっしゃると思います。またはそのテクニックを経験者から受け継いだ方やこれから経験を積む方もいらっしゃるでしょう。そのテクニックですが、テクニックを経験者から受け継いだ方やこれから経験を積む方については、そのテクニックを駆使する前にいったん規程・業務マニュアルを体系的に又は俯瞰して見直すことをお勧めします。なぜなら、テクニックとはテクニック会得者の「クセ(癖)」です。職人が受け継ぐ「技」ではありません。クセはそのテクニック会得者のモノであり感性(物事に感じる能力、感受性)です。他人は真似できません。例えば契約書を見てみると、条項の趣旨が同じなのに言い回しが違うことがよくあります。また、難しい言い回し(例:得べかりし=本来得られるべきであるにもかかわらず得られなかった)を多用しているものもあります。このような「あるある」は、その契約書作成者のクセです。そのようなクセを部分的に当てはめたり、いろいろなテクニック会得者のクセを寄せ集めたりすると、作成した契約書の構成や内容がガタガタになってしまいます。規程・業務マニュアルも同じです。ですから、規程類管理のより良い経験をこれから積もうとしている皆さんには、テクニックを学ぶことをせず、まずは会社の規程・業務マニュアルを体系的に又は俯瞰して見直すことをお勧めします。
 
テクニックはとても大切なものです。会社の経験者から受け継ぐことは必要です。しかしそのテクニックはいったん傍に置き、ご自身なりに会社のポリシーに基づいたかたちで規程・業務マニュアルにそれぞれ何を定め、何を記すかを考え、必要に応じてテクニックを参照して作成・改定作業にあたることをお勧めします。そうして経験を積むたびに傍に置いたテクニックを参照し、ご自身のクセに合ったものはそのまま使ったり多少の修正を加えたり、または新しいテクニックを生み出すこともあるでしょう。テクニックに頼ることはお勧めしません。そのテクニックは、テクニック会得者にとっては大切なモノであっても、その他の皆さんにとっては参考書です。参考書であるテクニックを丸覚えはいらっしゃらないと思いますが、もし丸覚えしている方がいらっしゃったら、「落とし穴」にはまらぬよう十分注意することをお勧めします。


 これまで3回にわたり規程・業務マニュアルについて、皆さんと一緒に考えてみました。次回以降では特に全社統制(CLC)、決算・財務報告プロセス(FCRP)、業務プロセス(PLC)に大きく影響する規程・業務マニュアルのテクニックを「方法論」としていくつかご紹介します。ただし、前述のとおりテクニックは参考書です。「そのような方法もあるんだなぁ」程度でお読みいただけたら幸いです。



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