雑踏
深夜0時。
混雑したビル街で後ろからクラクションが響く。
「調子崩すなあ」
気怠げに言う彼の顔に微笑が漂う。
「今日は」
「うん」
「仕方がないね」
「いつも言う」
変化しない視界が私を蝕んで行く
すがりを求めて窓の外を見たら
数多の光に酔ってしまった。
「酔った。コーヒー欲しい」
「わかった。とりあえず目瞑って」
「それだけは嫌なの」
やけに輝いた東京のビル街は
互いが牽制しあって協調のかけらもない競争。
其の癖、闇を庇った光は暖かくて
離れるには心地が良すぎる。
「何処にもいかないよ」
手が触れる
「本当」
「本当」
「ありがとう」
微かな温もりをそっとなぞる
冷たい肌がそれを吸い取る
都会の雑踏に呑み込まれ ただ身を任せたら
気付いた時には深く落ちて
抜け出せない?
それでも過ぎていった街の
その煌きが恋しくなるの
引用写真 : 中野正貴
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