記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

メイクアガール感想 メモリースティックの正体について語りたい

劇場公開中の映画「メイク ア ガール」のネタバレを大量に含みます



「あなたへの想いを証明するためなら死んでもいい!!」
「よう言うたお嬢ちゃん!!!! ほな、」

悪魔か???

ネタバレあらすじ

天才明くん、母の残した資料の研究に行き詰まる

研究の壁を突破するために彼女を作る→0号生まれる

でも思ったより研究のためにならない

だから手放す

明への想いを「作り物だから」と言われたことに0号反発

でも作られた制約に抗えず離別する

明くん、稲葉さんの記憶に触れて、残されたメモリースティックは研究資料じゃないと知る

0号拐われる→0号を助ける

0号、明に想いの丈をぶつける

0号自壊、意識不明

再び目覚めた0号は別人のよう

エンドロールでなんかハッピーエンドみたいにされてやがる

 失礼、自我が出ました。
 大筋こんな感じの話でしたね。もちろん間に大事なシーンがもっとたくさんありましたけど、それはぜひ劇場で。
 1回通しただけの感情で書いているので記憶違いがあったらごめんなさい……。


稲葉さんのメモリースティック

早速ですがメモリースティックの中身について。
稲葉さんは「私の記憶だ」とだけ明に伝えます。
中盤明かされますが、0号を作るために使ったと聞いてそれでいい! と稲葉さんは肯定しますね。

明くん一瞬自分に宛てられたものじゃないことに狼狽します。そうではなく、0号の存在そのものが託されたものなんだと気づき、もういっちょ慌てます。
そして仲直りするために走り出すことになるわけですが、さて。

稲葉さんは科学者としては言えなかったと思いますが、
メモリースティックに込められたものは「愛」だと私は思います。

だから0号ちゃんだけあっさり完成したわけです。
稲葉さんの愛を中核にして作られた、明を愛するための存在として。
そして0号は自身の愛が本物だと明に証明するため、世界の理に抗ったわけですね。

明あいつなんなん?

明の話を深めましょう。
序盤、絵里さんの「何の研究してるの?」に答えられなかった明。
彼の研究は全てメモリースティックを読み解くことに注がれていました。寄り道の研究はすべて失敗しています。

母の研究を引き継ぎたいけどその通りにやっても再現できない、と嘆いています。

明が研究する目的は、母の研究を引き継ぐため。
なぜか? それが母から自分に残されたものだから。

つまり明は最初からずっと、母の愛を感じるために研究をしてきたわけですね。

実際、劇中で描かれています。

「それともお母さんのほうがよかった?」

この直後の叫びがよりによって「どうして0号は邪魔ばかりするんだ!」というグロさですよ。

明くん、最初から言ってましたよね。
0号を生み出したのは研究のためです。
0号は母の愛を感じるための手段でしかなかったんですよ。
ここにシナリオ構造のヤバさの極限があります。

なんやかんやあって意識不明になった0号は、稲葉さんの人格になって目を覚まします(推定)。
稲葉さんの野望でも遠大な策略でも何でもなく。明くんが欲したものを明くんが作っただけです。

(思い直して追記:とはいえ確かに、クラゲのモチーフがああもデカデカと描かれた以上、蘇りはどっかにあるはず。なので、↑込みで描かれたシナリオって可能性ももちろんありますね……)
(思い直して追記:死にかけて蘇るベニクラゲは、「生き続けるため」の稲葉さんから引き継がれて、「生き返らせるため」の明のモチーフになったと考えれば、まあまあ筋が通るかもしれませんね。)

母に残されたメモリースティック。その正体は研究成果なんかじゃありませんでした。

人生を寄り添うパートナーを作るための材料であり、つまりは生涯を幸せに生きてほしいと願う愛そのもの。

最後、記憶の世界で明に下された命令はたったひとつ。いきなさい。

これは生きなさいなのか、自分の道を行きなさいなのか、二人で共に行きなさいなのか分かりません。が、同じことです。

明は0号とともに生きると決め、取り戻すべく走り出しました。

0号ちゃんはきっと二度と戻ることはないでしょう。

明を愛しているからこそ、明が求めている愛がなんなのかわかってしまう。己の中核をなす稲葉さんの愛であり、0号の中に生まれた愛ではないと。

でもだからこそ証明せずにいられなかったのでしょう。

この想いも本当なんだって。


きっと明は最初からずっと天才でした。

しかし、母の研究をまだ引き継げていない……母の愛を受け取れていない、という認識が「自分は研究者として不完全である」という思い込み=色眼鏡として顔に張り付いていたのです(物理)。

愛されていた確信を得た明はその才能を存分に開花させ、自身の色眼鏡を壊すことになります。

そして最後には希求していた母の愛を取り戻すことにも成功して、物語はハッピーエンドで幕を閉じるのです。

………………
…………
……

はぁ?? ふざけんなよ0号ちゃんはどうなったんだよ!!!!

あんな子がいなくなっちゃいましたオシマイなんて納得できない!! この俺たちの想いはどうすればいいんだよ!!!!!!!


この映画のいちばんヤバいとこ

ところで、お気づきでしょうか。

この映画は随所で好感度調整がされていることに。

あの献身的なソルトたちの扱いがずっと雑ですし、チェイスシーンは無関係な人を巻き込む身勝手さで繰り広げられます。

茜は一度たりとも本音を言うことはなく。
邦人はもちろんフラれた後の当たりがきつい。
明に至っては徹頭徹尾ああですしね。
他の人物たちも痛し痒し。

好きだなーって感じる部分と、嫌だなーって感じる部分が綿密に配置されています。

0号ちゃんだけがスムーズに感情移入できる。

この映画は、0号ちゃんを好きになるように作られているんです。


おや。どこかで聞いたことがありますね。

0号を好きになるように作られた映画から生まれたこの感情は作り物ですか?

0号ちゃんの存在を突き放したような映画の結末に「納得できない」なら、私たちの0号ちゃんへの想いは本物でしょうか?

私たちはすでに完成した映画に歯向かうことはできません。それなら、どうやってこの想いを証明すればいいのでしょうか──?


稲葉さんから明へメモリースティックが与えられたように。
私たちにも与えられたものがありますね。

そう。入場特典の0号イラストです笑

この、預けられた「愛」をどう扱うかは……ま、第4人類たち次第ってことですね。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集