感想|『愛なのに』
古本屋の店主の多田浩司(30歳)は常連客の女子高生の岬にいきなり求婚される(『街の上で』の主人公のアオも古本屋の店主だ)。多田は、憧れの人だった一花の結婚を知って動揺する。一方、一花は婚約者が自分を裏切っていることを知るが・・・
城定秀夫監督作品『愛なのに』(https://lr15-movie.com/)を池袋で見た。脚本は会話劇の傑作『街の上で』の監督・今泉力哉氏である。ちなみに『街の上で』には、城定イハという女の子が主人公アオに対して「わたし、城定イハです。城定秀夫監督の城定です。」と自己紹介するシーンがある。
アオも一花の婚約者の亮介も岬の同級生の正雄も、本人はいたって真剣なのに失敗してしまうその姿が愛おしく、観客の笑いを誘う。こうした愛すべき不器用な登場人物たちに対する僕らの眼差しは「キャンプ」(camp)である。
「それは「失敗した真面目さ」の感覚であり、経験を演劇化する感覚である。」「キャンプ趣味は、よいか悪いかを軸とした通常の審美的判断に背を向ける」「キャンプの純粋な例は意図的ではない。それらは大真面目なものなのである」「キャンプの趣旨は、要するに、真面目なものを玉座から引きずりおこすことだ。」「キャンプ趣味がやるのは、ある種の、情熱のこもった失敗の中に、成功を見出すことなのである」「究極のキャンプ的言葉―ひどいからいい。」「キャンプには、どう間違っても悲劇性はない。」――「キャンプについてのノート」(『反解釈』(スーザン・ソンタグ 著)所収)
「視線が交わる場所」や「森のような微熱の町」(『崩壊を加速させよ』(宮台真司 著))を疑似体験させる作品の域までは到達していないけれども、見た人同士で話したくなる映画で、思い出すと笑いがこみ上げてくる作品だった。
3月18日には脚本:城定秀夫×監督:今泉力哉の『猫は逃げた』が公開される。