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渥美半島の最果てへ
「最果てを目指そうか」
彼とは2週間以上、連絡すら取っていなかった。
会ったのは1ヶ月ぶりだった。
示し合わせてないのに、2人とも離島を目指していた。
渥美半島の先端・伊良湖岬に向かうことにした。
車で遠出しよう、と彼がゆったり構えるのを、久しぶりに見た。
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「るりちゃんは距離を取るために一歩引いたのに、
逆に俺が近付いちゃったんだよね」
私が苦しい理由を、シンプルに言語化された時、
肩からスッと力が抜けた。
「俺もどんどん外に出なきゃ。
また友人も作らなきゃ」
長年止まっていた時が動き始めたような、
避けてきた問題にぶち当たったような、そんな気持ちがした。
彼が孤立した原因は私にある。
私は元々、独占欲を拗らせている。母譲りで、強烈だ。
傷を抱えた者たちが集まるのか、彼の一番の友達も、風変わりだった。
彼らに巻き込まれ、私もボロボロになった。
私がカウンセリングに駆け込む、決め手となった。
数年前、あの人達とは縁を切ってくれ、と泣きながら懇願した。
私が悪いのか、特殊な状況が悪いのか、両方なのか未だにわからない。
彼が前に進むのは喜ばしいのに、まだ考えたくない。
「ごめん、この話はよそうかね」
「本当に日間賀島じゃなくていい?」
「いつにしようか」
こうして伊良湖岬観光は、翌日に決まった。
最高気温34度。
昔の8月に匹敵する暑さだ。
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伊良湖岬には高級旅館、砂浜、灯台、離島と山がある。
岬自体は1時間半で1周できるほど
コンパクトなのに、
どれもうっとりする絶景だ。
浜に波が押し寄せ、砂を巻き上げる時の感触を、私は初めて知った。
はしゃいだら、シャツまでずぶ濡れになった。
水の温度がちょうどいい。
時間が過ぎるのを忘れていた。
渥美半島の先端から、愛知の離島に上陸できる。
日間賀島行きのフェリーも見つけた。
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半島の果ては、新しい世界の始まりだった。
片道15分1400円。
私が憧れる、タコの島が手中にあるのだ。
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きれいな海をバックに読書できるし、
離島も満喫し放題だ。
欲しい物がなんでも手に入るねえ。
夜は星も美しいだろうねえ。
一日中、波を見ていたいねえ。
帰りは暗くなったけど、
全てがキラキラして素敵だねえ。
子供に戻ったみたい。
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離島の1つである神島は、
三島由紀夫の小説『潮騒』の舞台だと知った。
幸せな妄想が、どこまでも広がった。
自宅で、7月に作ったドリームボードを見たら、
「彼がイキイキと生活できるようになる。カウンセラーや周りの人のおかげ」
と書いてあった。
もうすぐ達成しそうだ。
「時間が伸び縮みする感じ。
知らない町を訪れるのは、もう怖くない」
彼が嬉しそうに噛み締めているのを見て、
私は安心した。
私も余分な力が抜け、
夜のベランダで風に当たってぼんやりしていた。
彼自身が行きたいライブや名所を回って、
仲間を作ってほしい。
私も素直に願うことができた。
言葉を超越した絶景に、
世界に溢れる楽しさに、
私たちの心を洗ってもらおう。
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