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はぐれものの紫陽花

2020年
おうち時間で数を増した
ベランダの植木鉢

この年の7月
梅雨の季節に彩りを求め
駆け込みで手にした
売れ残りの紫陽花

これから花が咲くだろう

そう思いきや

実は既に花は終わっていた

勘違いでベランダの住人となった
茎と葉だけで根をはる紫陽花

ベランダには
四季を彩る一員が続々と姿を現した

母の月*のカーネーションに始まり
みはらしの丘**を切り取ったネモフィラ
細く長くぽつぽつと蕾をつけるミニバラ
夏から秋へと絶え間なく咲き誇ったトレニア
冬から春にかけては
マーガレットの素朴な可憐さが目を奪う

一方
目をくれるのは
時々水をやる時のみの
はぐれものはというと

ある時は
猛暑にうなだれ
またある時は
寒気に震え
体を薄茶に染めていった
葉はぽとぽと床に落ちる

2021年

このまま朽ち果てるのだろう

そう思いきや

春の陽ざしがそっと手を差し延べ
小さな緑が芽吹き始めた

はぐれものは
春を味方にして
みるみると
茎を伸ばし
葉を増やし

そして 6月
ベランダで初めて開いた
青く小さな二朶(だ)の花

庭園のような
大きな丸の競演はないけれど

根と茎と葉とが
しなやかに命を繋いできた
その証しが
ここに顕現した

先輩と肩を並べた
この紫陽花

時間と眼差しを肥料として
きっと来年も
梅雨のベランダを彩ることだろう


*母の月
例年であれば五月の第二日曜日が母の日になるが、2020年は花き業界の団体からの提案で、コロナの影響から生花店スタッフなどの安全を守るため、「母の日」ではなく5月いっぱいを「母の月」として考えて欲しいとの要望がなされていた。

**みはらしの丘
茨城県ひたちなか市の国営ひたち海浜公園にある丘。春にはネモフィラの花、秋には赤いコキアの茂みなどが見られる。

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