採用面接で大切にする基準
「私のマネジメント教科書」その2
前回、32歳のときに台湾の事業所の運営を任され、マネジメントと向き合うことになったと書きました。あの台湾プロジェクトは、支社設立のための長期出張からスタートしました。事務所の場所探し、会社の登記、法人口座の開設、電話回線の開通、ITシステムの構築と、まるで無課金でゲーム開始したみたいに会社の後ろ盾もサポートあまり無く、全方位的に会社経営の基礎を学べた時期でした。
さて、いよいよ会社設立が完了し、社員の採用を進める段階に突入です。
「さて、困った。。。」
Hiring Manager(採用責任者)として面接に臨むと、何を聞いて何を基準に採用や不採用を決めるべきか、全く見当がつきません。これは、新任のマネージャーの方にも共通する悩みではないでしょうか。
そんな時に役立ったのが、現在「私のマネジメント教科書」にあるマネジメントメソッドです。
<採用面接で大切にする基準>
このメソッドでは、候補者を評価する際に2つの基準を用います。
この基準により、候補者同士を比較するのではなく、それぞれの能力と成長のポテンシャルを判断します。
1. 現在の社員の上位半分よりも優秀か?
まずは、候補者が現在同じ業務を行っている社員の半数より優れているかどうかを見極めます。海外支社の立ち上げ時には比較対象があまりないのですが、ここで重要なのは、単に経歴や資格を見るのではなく、実際のパフォーマンスと実績に焦点を当てることです。
まず、採用プロセスでは候補者のパフォーマンスを評価します。履歴書や面接で語られる経歴や資格ではなく、実際の成果に基づく評価が重要です。具体的には、候補者が現在のチームメンバーの中でどの程度優れているかを見極め、実績に基づいたパフォーマンス指標に焦点を当てます。
たとえば、ある製造業の企業では、リーダー候補として過去のプロジェクトマネジメント経験が豊富な候補者を採用しました。彼の過去の成果は、複雑なプロジェクトを期日通りに成功させたことにあります。このように、即戦力として実績を基に評価された人材が、企業の短期的な目標達成に貢献することがよくあります。
学術的な研究でも、パフォーマンスに基づいた採用は効果的であることが示されています。Schmidt & Hunter (1998)による研究では、パフォーマンス評価に基づいた採用が企業全体の成果を向上させることが実証されています。特に、過去の成功体験や結果に焦点を当てることで、未来の成果を予測する精度が高まるとされています。
Schmidt & Hunter (1998)による研究の主な発見
①一般知的能力の重要性
一般知的能力(一般知能)とは、広範囲の認知的課題に対処する能力を指します。これには、論理的思考力、問題解決能力、学習能力などが含まれます。Schmidt & Hunter 研究結果によると、一般知的能力を測定する筆記試験は、入職後のジョブ・パフォーマンスを予測する上で高い妥当性を示しました。多くの入社試験やアセスメントで論理的思考力、問題解決能力、学習能力を測る筆記試験が課されるので、ここでは割愛します。
次に、
②構造化面接の有効性
構造化面接は、非構造化面接と比較して高い選抜妥当性を示しました。一般知的能力を選抜基準に追加することで、構造化面接では24%、非構造化面接では8%の選抜妥当性が増加しました。面接において、Managerはスタンダードを学んでおかないと採用後の組織効果が低くなる、ということなんです。
例えば、Amazonでは、複数名が同じフレームで割り当てられたコンピテンシーをもとに候補者にインタビューをし内容を深堀ってゆきます。自社の環境でも面接で発見されたコンピテンシーを活かすことができるかという視点で採用面接がおこなわれるのです。
③パーソナリティ特性の影響
誠実性などのパーソナリティ特性も、面接選抜基準として高い妥当性を示すことが報告されました。パーソナリティ特性は、個人の行動や思考パターンを特徴づける持続的な傾向のことです。心理学では、以下の「ビッグファイブ」と呼ばれる5つの主要な特性が広く認められているとのことです。
外向性 (Extraversion)
社交性や積極性、活発さを表す特性
協調性 (Agreeableness)
他者への思いやりや配慮、協力的な態度を表す特性
誠実性 (Conscientiousness)
責任感の強さや計画性、自己制御能力を表す特性
神経症傾向 (Neuroticism)
感情の不安定さやストレスへの敏感さを表す特性
(一部の文献では「情緒安定性」として逆の方向で表現されることもあります)
開放性 (Openness to Experience)
新しい経験や考えに対する受容性、創造性を表す特性
誠実性の重要性
Schmidt & Hunter (1998)研究結果によると、上記の5つの要素の中で、特に「誠実性」が職場でのパフォーマンスと正の相関を示すことが分かっています。誠実性の高い人は以下のような特徴を持つ傾向があります:
責任感が強い
計画性がある
規律を守る
目標達成に向けて粘り強く取り組む
パフォーマンスに基づいた採用においては、書類選考の他に、構造化面接でのコンピテンシーの発掘と、パーソナリティ面では誠実さにも注目することが大切であることがわかります。面接時の質問から誠実性を示す特徴を発掘する意義は大きいですね。
現状の候補者の評価に関して述べました。次に、未来時間軸での評価に関して記載します。
2. 成長のポテンシャルを持っているか?
次に重視するべきは、候補者の成長のポテンシャルです。候補者が今後どれだけ成長し、組織に貢献できるかを判断することは、組織の長期的な発展に不可欠です。この際、リーダーシップ能力やコアコンピテンシーに注目し、1〜2年の間に成長し続け、貢献できるかを判断します。
この評価方法での効果的な手法は、コアコンピテンシーの評価が挙げられます。
コアコンピテンシーとは、組織の競争優位性を支える中核的な能力のことです。以下の方法で評価できます:
1,コンピテンシー・モデルの作成
組織にとって重要なコアコンピテンシーを明確化し、それぞれの評価基準を設定します。
2,行動結果面接(BEI: Behavioral Event Interview)
過去の具体的な行動事例を詳細に聞き取り、コアコンピテンシーの発揮度を評価します。
3,360度評価
候補者の過去の上司、同僚、部下などから多面的に評価を得ることで、より客観的にコアコンピテンシーを評価します。リファラルチェックを取り入れている企業も増えていますが、日本においてはあまり定着していませんし、現時点では効果も限定的です。
上記3点のうち、1,コンピテンシー・モデルの作成し、2,行動結果面接(BEI: Behavioral Event Interview)を行うことが効果的です。
また、成長思考(Growth Mindset:キャロル・ドゥエック教授)の評価を組み合わせることも効果的です。
キャロル・ドゥエック教授の成長思考とは、自分の能力や知性は努力によって成長させることができるという信念です。これは「固定思考(Fixed Mindset)」と対比されます。固定思考は、能力や知性は生まれつきのもので変えられないと考える考え方です。
成長思考と固定思考の特徴
成長思考の特徴:
挑戦を成長の機会として歓迎する
努力を成功への道筋として重視する
失敗から学ぶ姿勢がある
批判を建設的なフィードバックとして受け止める
固定思考の特徴:
挑戦を避ける傾向がある
努力を無能さの証と考える
失敗を恐れる
批判を個人攻撃と受け止めやすい
成長思考理論に基づき面接の質問に反映すると、以下のような質問で候補者の成長への姿勢を評価ができます:
挑戦への態度:「難しい課題にどのように取り組みますか?」
努力の捉え方:「スキル向上のために、どのような努力をしていますか?」
失敗からの学び:「過去の失敗から学んだ最も重要なことは何ですか?」
これらの質問を通じて、候補者が成長思考を持っているかを評価できます。
この基準に基づく採用プロセスは、まるで未来の宝石を見つけるかのような感覚です。こういった効果の高いスタンダードを身に着け、成長し続ける可能性のある人材を採用することで、組織はさらに強固なものとなるのです。
「私のマネジメント教科書」その1はこちら
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?