「碁盤斬り」浪人として逃げた武士が、自分のアイデンティティを守り、そして旅立つまでの物語
これもAmazonプライムでの視聴。白石和彌作品をビデオで見るもは辛いかなとは思ったが、思ったよりも軽い仕上がりで、まとまりはいい作品だった。映画館で集中力上げてみれば、結構高評価していた気はする。だが、ラスト、父親を疑い、自分を娼婦にしようとした、中川大志と結婚する清原果耶には納得いかず。だいたい、武士の娘を、こんなへなちょこ商人に嫁にいかす主人公の草彅剛の気持ちが全くわからん。
白石監督、初の時代劇である。その緊張感は感じないが、「狐狼の血」のような反社映画に比べたらおとなし過ぎる気はした。塩尻までいって、敵の斎藤工に会い、碁から始まり、最後の斬り合いになるわけだが、殺陣がが下手なのと、それをカメラに収める構成能力がすこぶる悪い。慣れていないのもあるが、監督にイメージができていないと私は感じた。だから、最後に、齋藤の手を斬るカットが下手くそすぎる。ここで、手を飛ぶシーンをどう表現できるかだとは思うが、草彅の剣が斎藤のしかるべきところにあたっていないのだ。(ビデオで何度も見返してしまった)。で、その後に斎藤が自決するシーンでは、首が飛ぶが、これも下手くそ。もっと、映画的に飛ばせなかったのは、監督のやはりイメージ不足。
この話、まずはこの故郷での仇討ち話があり、その仇討ちに旅立つ際に、500両を盗んだという言いがかりが重なる。サスペンス的には、草薙の娘である清原を吉原にカタに置いて、仇討ちも成功させたいという思いはわかるが、もう一つ話としてバランスが取れていない気もした。
草薙のおつきの男が奥野瑛太。いつものチンピラ役とは違って、なかなか姿勢から武士になっていた。彼、こういう振り幅があるのだから、もっとヒーロー寄りに使ってあげればいいのにと思った次第である。
あと、敵役の斎藤はもう一つワルを感じさせないので、その空気感もうまく作れていなかった。そして、囲碁の名手というのもよくわからなかった。そう、この映画、タイトルにもあるように、囲碁が大事な道具なのだが、私がそれをよくわかっていないせいもあるが、出てくる囲碁のシーンに緊迫感がないし、面白くない。これは、監督もよくわかってないなと思ってしまった。囲碁とか将棋をちゃんと映像として緊張感を出すのって難しいですよね。ある意味、打ち手の心のありかを映像化しないといけないのだろうね。そういう意味では、伊藤大輔監督の「王将」なんか、阪妻の演技もあるのだが、うまくできてますよね。まあ、とにかく、この映画、そういう演出の隙みたいのが多過ぎるのは、ダメでしょうな。
ただ、女優陣はなかなか良かったです。キョンキョンの吉原の主人役、かなり板についてたし、それなりのエロさを彼女に感じられたのも良かった。江戸時代の吉原ってある意味、どういうところだったかよくわからないので、いろいろ話をフィクションとして仕込めるからいいですよね。そういう意味では、来年の大河ドラマ「べらぼう」はここが舞台なので楽しみなのだ。キョンキョン、同じような役で配役して欲しいくらい。
あと、清原はやはりソツのない芝居をする。まだ、生娘的な空気感も持ってるが、若い時から色っぽさは持ってるんだよね。こういう芯の強い役にはピッタリ。で、この映画、大晦日がクライマックスなのだが、そこで、今井正監督「にごりえ」の中の「大つごもり」を思い出した。久我美子主演でやはり貧乏な娘がお金をちょろまかす話なのだが、すごいサスペンスとして面白い一編。是非、清原でリメイクして欲しい。絶対にいい芝居をすると思うのだ。
まあ、そんなことも想起させてくれた作品であり、見る人によりいろんな感想は出てくる一作だと思う。そして、脚本と演出の緩いところを、草彅剛の演技が十分埋めていたのは確かで、そういう意味では彼、主演男優賞候補でしょうな。