「母性」女には、母と娘の2種類があるというところで唸るものが欲しかったですね
2022年末、廣木隆一映画祭(私はそう思っている)の2本目。湊かなえ原作の映画化。と考えると、少しシュールな感じの話、そして映画かと思った。予告編はそんな感じで作ってある。が、舞台が昭和なこともあるが。(これ、全然、映画の中で説明がないが、家に置いてあるテレビや、携帯が一切出てこないのでそうなのだ)どちらかというば、古臭い話を湊かなえ的に料理した小説なのだろう。戸田恵梨香と高畑淳子の関係など、昭和の嫁いじめドラマですものね。そこんところを監督がどのように料理するかが映画を見る上で大事なところと言って良いだろう。
そういう見方をした結果は、あまりにも正攻法な演出で面白みが広がっていかないというところ。学生運動の話が出てくるところは、この間見た、「あちらにいる鬼」と同じだが、廣木監督は1954年生まれで、そこの年代より少し下なんですよね。そういう意味では、そこに思いいれがないことはよくわかる。永野芽郁が父のその過去を追って、彼の不倫を見つけるところに、その話がうまくシンクロしていない。
全体の話は、子を思う母親と、母親や家族を思う娘の話で、そのギアが芝居みたいに噛み合っていたのに、いつの間にか崩壊していく、これはサスペンスなのだが、そういう、サスペンスタッチが映画としては作れていない。そういう意味で、今ひとつ話に乗れなかったのは事実だ。
とはいえ、戸田恵梨香の芝居は、なかなかすごかった。お嬢様として結婚して、母親の大地真央と絡むところは、いかにも体裁を整えた、芝居じみた会話に拍車がかかる。見ていて、わざとなのはわかるのだが、もう少しこのあたりがおどろおどろしく見えてもいいかなと思った。でも、鉄工所に勤める男と結婚する件は理解できなかった。キーになるのは、彼が描いた絵なのだが、それも今ひとつピンとこなかった。この時に、戸田の友人の中村ゆりと付き合っているのも、わかりにくい。中村ゆりの使い方は無駄な感じがした。
そして、娘が成長して、永野芽郁になったところでは、化粧も少し疲れた感じにしてあり、まあ、別人のような演技を求められたのだろう。そこのところは、うまく化けているし、この人はこれから怖いものなしに、汚れの演技もする人なのだろうなと思ったりした。ちょっと、乙羽信子を思い出した。そんな感じになっていけば、面白い。
そして、永野芽郁は、最近は、安心して見ていられる女優さんなので、及第点。予告編を見たときに、戸田との絡みが楽しみだったのだが、そういう部分での見どころはあまりなかった。戸田が、抱きしめないで、首を絞めるところなど、もっとスリリングにねちっこく撮っても良いのでは?廣木監督、今ひとつ、昔に比べ演出がスタイリッシュさに欠ける気がする。
芝居の過激さでは、高畑淳子のいじわるばばあが全て持っていってしまった感じ。最近は、朝ドラ「舞いあがれ」で、なかなか格好いいお婆さんを演じていたが、こういう正反対の婆さんもできるということは、これからこのラインでモテモテでしょうね。
女優さんたちを見るにはそれなりに面白かったが、作品の本質である、「母と娘」の生き方みたいな部分は、今ひとつソウルフルにはできていなかったのが残念。これ、女性監督が撮ったら全く違う作品になりそうですね。廣木監督は卒なく作品を作り上げているのだが、今ひとつ女性心理的な部分が撮りきれてないという感じでありました。
映画館を出るときに、原作を読んでいたであろう人が話していたのを聞いたのだが、「原作を端折りすぎでは?」ということだった。つまり、原作よりコクがなかったというご意見なのでしょうね。ちょっと、原作を読んでみたくなりました。