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2022年新作映画レビュー

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2022年に見た新作映画のレビューです。
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2022年8月の記事一覧

「NOPEノープ」こういう形の映画がエンタメとして成立する時代なのか?と、色々考える

ネットを観ると、結構「好きだ」と言っている人が多い。とはいえ、予告編を見ても、何の映画かよくわからない。でも、IMAXでの上映だ。監督のジョーダン・ピールという人の映画も見たことがなかったので、色々情報0の中で見てきた。 正直、鑑賞後の印象は「変な映画」ということでいいのだろう。作った人が、映画というものを「こう作り上げたら新しい?」という感じで構築した世界であることはわかる。そう、作った人がそれなりに映画が好きなこともわかる。かなりの量をIMAXで撮ったらしく、IMAXフ

「SABAKAN サバカン」夏休みの映画として、語り継がれるものになった感じですね

鑑賞後の余韻がなかなか心地よい映画だ。一昔前は、こういう映画が毎年のように作られていたような気がする。昨今は、上映時期と描いている季節に乖離があるのは当たり前という時代。この、夏休みの終わりに、子どもたちの夏の記憶の映画が上映されるのは、とても喜ばしいこと。土曜日の映画館は、箱が小さいこともあるが、満員であった。しかし、その中に子どもたちの姿がないのは勿体無い気がした。そう、家族で見て夏休みを友達というものを語れる映画である。 監督は、これが劇場用映画デビューの金沢知樹。舞

「ストーリー・オブ・マイ・ワイフ」恋愛、嫉妬、浮気、基本的な愛の心理劇

昨年のカンヌに出品された、ハンガリー、ドイツ、イタリア、フランスの合作映画。そんなに大きなドラマチックな話でもないが、169分という長尺の作品。そんなに、長さは感じさせないのは、映画として作りが整っていて、美しい画面も多かったりするからだろう。そして主演の2人の演技がなかなか印象的なのはあったりもした。 まずは、あまり基本的なことを何も入れずに、ポスターの雰囲気だけで観たため、いつの時代かよくわからなかった。後で確認すると1920年という100年前の設定らしいが、私的には、

「こちらあみ子」社会性とは何か?無垢とは何か?そして、生きるとは何か?あみ子に答えを提示できるのは誰?

上映が終わってしまう前にやっと観れた。新人監督、尾野真千子が出ていること、子供の視線みたいな要素だけで、観たわけだが、かなり予想とは違ったものが出てきた。 ネット上では、結構勧めてる方が多い印象。確かに映画として、子供の視線が中心になっていて、それも、いろんな社会構造にハマらない女の子が主役なため、なんか無垢の空気感が出ているのは新しいと思う。色々と、てんとう虫や、山椒魚やカエルなどの生き物が挿入されるのは、子供は、そんなものと大して変わらない心象風景の中で生きているんだよ

「L.A.コールドケース」解決していない実話を通して、現代の法治国家の虚しさを問う?

HIPHOP界の大スター“2パック”と“ノトーリアス・B.I.G.”の射殺事件、という実話を元にした映画、1990年代に起こったという事件だが、私は全然知らなかった。人種差別、警察内部との癒着、それに伴う利権みたいなものが混沌と混じるなか、その真実を追う、元刑事(ジョニー・デップ)と、記者(フォレスト・ウィテカー)の二人の懐古と現実の捜査の中、さまざまに浮かび上がる事実。そして、最後には、元刑事は命を落とし、記者がその真実を追い続けるという話。 こういうのを見ると、アメリカ

「アウシュヴィッツのチャンピオン」現代にいて、リアルに戦争の傷を体現させる秀作

一昨日「長崎の郵便配達」という映画の寸評で、日本映画はもっと反戦の強い意志を持って、その題材の映画を作り続けるべきだと私は感じた。そしてその2日後にこの映画を観る。2020年のポーランド映画。映像の中にアウシュヴィッツの地獄絵が、かなりリアルに(本当のそれは知らないが、そう見えるということだ)凄惨に再現されている。その中で、ボクサーとして、ドイツ人の娯楽として見せ物になることで、その中を生き延びた囚人の実話に基づく話だ。 そう、昔は、日本でも、こういう映画は撮ることができた

「長崎の郵便配達」ヨーロッパの軍人の視点から考える長崎の被曝の現実。静かに、重厚に…。

この映画のモチーフになった小説「POSTMAN OF NAGASAKI」の著者はピーター・タウンゼンド氏。戦時中、英空軍のパイロットとして英雄となり、退官後はイギリス王室に仕え、マーガレット王女と恋に落ちるも周囲の猛反対で破局。この話は、映画『ローマの休日』のモチーフになったともいわれる。そう、聞いただけで、すごく興味が湧いて見にいったわけだ。 映画は、その娘が、父がたどった長崎の道を、残念ながら亡くなってしまった、被爆者で郵便局員だった、谷口スミテルさんとの交流の地を訪問

「WANDAワンダ」人は何故に生きているのか?と言う根源的な考察?

1970年制作のアメリカ映画である。冒頭に、16mmのフィルムからの修復された云々の説明がある。修復に協力したのがGUCCIだと言うのも興味深い。1970年、1970年ヴェネツィア国際映画祭最優秀外国映画賞を受賞という肩書きだけが今も輝く隠れた作品ということだろう。 映画を見て、ティファニーブルーを基調とした、映画全体の色使いがまずはなかなか濃厚に観客に迫る。低予算の中でも、こういう基本的な映像へのスタンスが映画をとても作品として重厚にしているのは確かだ。だが、主人公の女W