太平記 現代語訳 9-3 足利軍、戦線離脱
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この現代語訳は、原文に忠実なものではありません。様々な脚色等が施されています。
太平記に記述されている事は、史実であるのかどうか、よく分かりません。太平記に書かれていることを、綿密な検証を経ることなく、史実であると考えるのは、危険な行為であろうと思われます。
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大手方面の戦場においては、朝の8時から戦闘に突入している。馬の蹄がかきたてる土煙は東西にたなびき、トキの声を天地に響かせながら、両軍激突を繰り返している。
なのに、からめ手方面軍大将・足利高氏(あしかがたかうじ)はといえば、桂川(かつらがわ:西京区)西岸にどっかと腰を落ち着けてしまい、悠々と酒盛りをしているではないか。
数時間の後、「大手方面の幕府軍、大敗北、大将・名越高家(なごやたかいえ)殿、すでに討死!」との報が、高氏のもとへもたらされた。
足利高氏 フーン・・・。
足利軍リーダー一同 ・・・。
足利高氏 さてと・・・じゃぁ・・・山を越えるとしようか。
足利軍リーダー一同 オゥッ!
からめ手方面軍は、当初の目的地・山崎(やまざき:京都府・乙訓郡・大山崎町)とはまったく別の方角、丹波路を西に、篠村(しのむら:京都府・亀岡市)を指して馬を進め始めた。
備前国(びぜんこく:岡山県東部)の住人・中吉十郎(なかぎりじゅうろう)と、摂津国(せっつこく:大阪府北部+兵庫県南東部)の住人・奴可四郎(ぬかのしろう)は、大手とからめ手の両軍の打ち合わせの結果、からめ手方面軍に配属となっていた。
二人は、この予想外の展開に驚いてしまった。
大枝山(おおえやま:京都市・西京区と京都府・亀岡市)の麓に軍がさしかかった時、中吉十郎は、街道から少し離れた所に馬を走らせ、奴可四郎に声をかけた。
中吉十郎 奴可殿、ちょっとちょっと!
隊列を離れてやってきた奴可四郎に対して、中吉十郎はヒソヒソ声でいわく、
中吉十郎 (ヒソヒソ声で)なぁ、どうもおかしいと思わんか? 大手方面では今朝の8時から合戦始めて、火花散らして闘ぉとったっちゅうに・・・こっちでは、芝の上に腰を下ろして、長々と酒盛りじゃ。
奴可四郎 ・・・。
中吉十郎 ほいでもって、「名越殿、討たれてしもぉた」と聞いたとたんに、今度は丹波路めざして馬を進める・・・。どうもなぁ、この足利殿っちゅうお人、ナンか分からんけんど、幕府に対してよからぬ事、企てとるような気がするわいの。
奴可四郎 ・・・。
中吉十郎 げに(本当に)そがぁな事じゃったら(そのような事であったとしたら)、わしらぁ足利殿にゃぁついちゃぁいけんよ。どうじゃ、ここから引き返して、六波羅庁(ろくはらちょう)にお知らせしようや。
奴可四郎 よぉ言うたわ。実はわいもなあ、足利殿、なんやおかしな行動取らはるなぁて、思ぉとったんや。けど、これもナン(何)かの作戦なんかいなぁ、とか、色々と考えとる間にな、ついに合戦に参加できんとからに、こないな事になってしもうたわ。ほんま、オモロないでぇ。
中吉十郎 うん。
奴可四郎 あんなぁ、足利が敵に寝返りうちよるん、目(ま)の当たりに見ながら、ナァ(何)もせんと逃げ出すっちゅうのんも、あまりにダラシナイ事やんか。せめて矢の一本でも、あいつらに射てコマシテから、逃げ出そうなぁ。
言うやいなや、奴可四郎は、矢を一本取り出して弓につがえ、馬をスタートさせようとする。中吉十郎は、あわてて制止した。
中吉十郎 こらこら、どこ行くんじゃ?
奴可四郎 隊列の前の方へ先回りしてな、足利を待ち伏せしたるんじゃい。
中吉十郎 おい、待て! いったい何考えてるんじゃ! あんた、気でも狂ったかの。わしらの手勢、わずか2、30騎じゃぞぉ。あんな大軍に立ち向かって、犬死にしたところで、いったい何になるっちゅうんじゃね?
奴可四郎 ・・・。
中吉十郎 空しい功名狙いなんか、やめとくに限るでぇ。ここはナァ(何)もせんとな、そぉっと、この軍から抜け出しとくんじゃ。そいでもって、後日の合戦に備えて命を全うしてこそ、「忠義の心を持った立派な者よ」と、後世までもほめたたえられるっちゅうもんじゃぁないか。
再三にわたる中吉の制止に、奴可も納得、二人は大枝山から馬を引き返し、六波羅庁へ帰還。直ちに、六波羅庁長官の下へ馳せ参じ、事の次第を報告した。
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彼こそは、六波羅庁の盾(たて)であり、鉾(ほこ)でありと、頼りにしていた名越高家は、はや討ち取られてしまった。もう一方の大将、「北条家とは骨肉の間柄、よもや、二心抱くことなど決してあるまい」と、絶対の信頼を置いていた足利高氏までもが、敵側にまわってしまった。六波羅庁南北両長官の心中おして知るべし・・・雨宿りに入った木の下にも、雨がじゃぁじゃぁ降ってくる、とでも例えるべきか・・・とにかく心細い限りである。
北条仲時(ほうじょうなかとき) まったくもう・・・いったい、誰を信じていいのか・・・サッパリ分からなくなってきた。
北条時益(ほうじょうときます) 今まで着き従ってきた連中らだって、アブナイもんだなぁ。どんな拍子にころっと、心変りしてしまうか、分かったもんじゃない。
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