異国の文化と共に生きるファンタジー。「姫騎士は蛮族の嫁 (ひめきしはバルバロイのよめ)」1巻感想
忙しい人向けのコーナー
異国の地でその土地の文化と共に”生きる”ことを描く物語!
近年では珍しい、転生でも、転移でもない純粋なファンタジー!
重厚な背景設定から繰り出される、奥行き感のある描写の数々!
力強いタッチで描かれる戦闘!、狩猟!、ラブコメ(?)!
いつの間にかこの世界の虜になっている、そんな作品、おすすめです!
じっくり語るコーナー
こんにちは。今回の感想は、コトバノリアキ先生の「姫騎士は蛮族の嫁」(ひめきしはバルバロイのよめ)について話していきたいと思います!
この作品は元々、コトバノリアキ先生が自身のTwitter上で少しずつ構築してきた世界観をベースに、色々な要素を足した結果生まれた作品とのことです。5巻発売時点で累計発行部数もすでに25万部とのことで、すでに有名作品と言ってよいかもしれませんね。
さて、この作品はファンタジー作品です。近年の流れですとファンタジー作品は転生要素などとセットになっている場合が多いですが、この作品は珍しいことに純粋なファンタジー作品で、転生も、転移の要素もありません。
物語冒頭は殺伐とした戦争のシーンから始まります。この戦争は二つの勢力が争っているもので、それぞれの勢力のトップ同士がこのお話の主人公です。この勢力、片方は土地を欲する王国、片方は蛮族と呼ばれる未開の地の戦士たちで、お互いに命を削りあいます。そんな中、トップ同士の一騎打ちに敗れた王国の大将は蛮族の大将に連れ去られ、未開の地への連れ去られる・・・ここまでがプロローグでした。
この戦争、実は侵略している側は王国で、蛮族達の暮らす肥沃な土地を奪うために何度も戦争を仕掛けています。このあたりで世界観の殺伐さに私はおぉ・・・となりましたね。
連れ去られた王国の大将である女騎士は何をされるのかと色々想像するのですが、このシーンがいわゆる「くっころ」(とらえられた女騎士が、辱めを受けるのを嫌い、相手兵士に対して自身の命を絶つように言う様子)ヒロインとよばれる理由です。彼女の想定はすこしズレており、これに加えて蛮族への偏見が混ざって斜め上の方向の勘違いが度々起こります。この勘違いが本作品のコミカルな雰囲気を生んでおり、戦争の結果未開の地に連れ去られるというかなりヘビーな話を、ゆったりとしたファンタジーにしている気がします。
私は、この作品の重要なテーマは "生きるとは何か?" だと感じています。蛮族の長のセリフ「西方はそうでも儂らにはそうでは無いのでな」(P38)からわかるように、この世界観には唯一の常識や信仰のようなものはありません。個々の部族、種族それぞれが自分たちの価値観や信仰をもっており、それ故にぶつかり合ったり、助け合ったりしながら生活しています。
食料や風習、会話、旅の端々から、そういった個々の部族の違いのようなものが感じ取れ、マンガという媒体であるにもかかわらずそういった背景の重厚さが感じられ、異国の地の草の香りがするかのような気分になれるのがこの作品の魅力ではないかと感じます。
ちょっと真面目になってしまいましたが、この作品は世界観こそ甘えのない世界観ですが、お話自体はコミカルになっています。王国で蛮族の悪評ばかり聞いて育ってきた騎士が、実際にその豊かな大地を見て日々価値観が(無理矢理)書き換えられる様子は、コロコロと変わる表情も相まって見ていて飽きません。蛮族の長が王国の騎士を妻にしようとするという流れもあり、思ったよりもしっかりと地に足の着いたラブコメを見せてくれます。(早く結婚しろ!と叫びたくなりますよ!)
最後に、この作品の魅力は人間だけではないことを紹介したいと思います。普段私は作品中の固有名詞をあまり出さないのですが、ここではあえて作中の生物の名前「ツケビケシ」を挙げたいと思います。この生物は人間の家屋を襲うのですが、その理由が「森で火を焚くと煙の出元を襲う」ために「つけ火消し」と紹介されています。私はこの作品以外に、登場する生物の名前までここまで気を遣って命名している作品を知りませんでした。このように個々の生物の修正と、人々とのかかわりまでを意識している作者なので、物語の設定がしっかりとしているのもうなずけます。
イチオシページ紹介
最後に、(ネタバレは避けつつ)イチオシのページをまとめてこの記事は終了とします。全てKindle換算のページ番号です。
P12 ・・・くっ殺せ!! ここまで明確に「くっころ」を表現しているシーンを久しぶりに見てテンションが上がります笑
P70 「腹が鳴るなら身体はまだ生きたいと言っておる」このページ、特に大ゴマや重要な事実が明らかになったようなページではないのですが、蛮族の族長が語る食への姿勢がとても自然で、すきなページです。
P115 完璧なお姫様だっこに骨抜きにされる騎士、というのは良い画ですね。とある事情で蛮族族長の正体がばれていない分、素直な反応がかわいらしいです!
P158 ツケビケシ、登場!扱い的にはボスでもなく、ただ少し手ごわい野生生物なのですが、それだけに「自分より大きい生物はそれだけで強い」という当たり前のことを思い出させてくれます。そして一連の生物的描写がいい。存在感がしっかりとあります。
P98 このキャラのギャップ全開な表情、ここで出す大盤振る舞い、太っ腹ですね!
P187 王国で闘いの日々を生きてきたヒロインが初めて安心し、弱さを見せるコマです。何より、その姿をさらしたのも、さらす理由になったのも彼女を連れてきた蛮族の長という点が感慨深い、エモいですね。
あとがき もみというネコチャンがいるそうです。かわいいですね。