【連載小説】「すだち 第16章~最終章」
前回のお話はこちら(第14章~第15章)↓
第16章「令和世代」
娘からの電話後、さて困った。
我が家には令和世代の女の子が好むような玩具がない。
今どきの子はどのようなモノで遊ぶのだろうか…。
近所の百貨店へ急ぐ。
玩具売場には見たことのない玩具がたくさんあり、どれを買っていいものやら…。
店員に助言を求める。
「5歳くらいの女の子には魔法戦士ヒメカですよ!!」
…魔法戦士ヒメカ、とは!?
店員がオススメする人形は娘が好きだったセーラームーンのようなリカちゃん人形のような…。
今は魔法戦士ヒメカという人形が流行っているらしい。
店員に薦められるまま魔法戦士ヒメカ人形を買う。
他にもぬいぐるみやボードゲームなど、薦められるままに数点、爆買いしてしまった。
さて、孫娘は喜んでくれるだろうか…。
最終章「育ったヒナ」
娘夫婦に連れられてやって来た孫娘5歳。
娘の5歳当時とそっくりで笑ってしまった。
そんな私の姿に孫娘はキョトンとしている。
それがまた愛らしい。
5年ぶりの挨拶もそこそこに、娘夫婦は一通り孫娘との接し方(注意点)を述べ、さっさと海外へ旅立ってしまった。
初めて会うおじいちゃんの姿に戸惑っているような孫娘。
私はできるだけ優しい声を出し、まずは玩具を揃えた和室に案内した。
孫娘の荷物を部屋の隅に置き、一通りの玩具を並べたところで時計を見る。
もう12時。
そろそろ昼飯の準備だ。
さて、令和世代の女の子はどんなメニューが好きなのだろうか。
とはいえ、レパートリーの少ない私がササッと作れるものといえば…やはり
「そうめん」。
令和になっても夏は(特に昼は)そうめんに限る。
そうめんは料理下手でも簡単に作れるだけではなく、安上がりでもあるからだ。
そして、トッピング次第で味も雰囲気もガラリと変わる。
万能なメニューと言えるだろう。
孫娘に
「お昼はそうめんにするか」
と声を掛ける。
現代っ子はもっと洒落たものを好むかと思ったが、意外にも
「そうめん好きー!」
と嬉しそうな声が…。
どうやらそうめんは令和世代にも好まれるメニューのようだ。
そうめんを鍋でサッと茹でて冷水で冷やし、トッピングをササッと用意する。
孫娘はその間おとなしく魔法戦士ヒメカ人形と遊んでいたが…。
「すだちも入れてね!」
その瞬間、娘との思い出が蘇った。
あれは何年生の時だっただろうか。
「すだち酸っぱい!イヤ~!!」
と娘はそうめんにすだちを入れることを嫌がっていた…。
「酸っぱいけど食べられるの?」
孫娘に聞く。
「おうちでもママンが入れてるよ!すだち美味しいよ!!」
娘は嫌がっていたはずなのに、孫娘にはすだち入りのそうめんを出していたのか…。
すだち入りのそうめんを食卓に並べ
「いっただっきまーす!」
と元気な孫娘の声を聞きながら庭先を眺める。
ちりん。
涼やかな風鈴の音が聞こえた。
(了)
【著者からのこぼれ話】
タイトルは柑橘類の「スダチ」。
実は「(父娘の)巣立ち」にもかけていることに気づいた方はどれだけいらっしゃるのだろうか…。