最初の記憶
私の最も幼い頃の記憶は鶴瀬の団地に住んでいた頃のものだ。
私の両親はまだ兄弟姉妹が大勢いるのが普通だった最後の世代。
山梨県出身の三男と埼玉県育ちの三女のふたりは東京の勤め先で出会い、職場恋愛を経て結婚した。
勤め先は丸の内とかではなく、町田市の自動車関連の製造会社だった。
おそらく独身の頃父が住んでいたのは会社近くのアパートなのか会社の寮だったのだろう。
結婚するにあたり、当時若い夫婦が住むのに大人気だった公団住宅を抽選2回目で当てたのは凄く運が良かったと後に母から聞いたものだ。
そんなことで、私が生まれた時に住んでいたのは東武東上線の鶴瀬駅が最寄りの団地の3階か4階だったと思う。
私の最初の記憶はかなり鮮明だ。
私は仰向けに寝ていた。
目が覚めたところで、大人の女性が私の顔を覗き込んだ。
「あら起きたのね」と微笑みかけると、また別の女性が「おとなしくていい子ね」と最初の女性より少し若くて目鼻立ちのはっきりした女性が私を抱きあげた。
実はセリフまでは覚えていない。
でも、雰囲気としてはそんな感じ。
私を抱きあげた女性は私のママ。
そうだ、私が眠る前に母の姉たちが我が家に遊びに来たのだった。
私は自分ではちゃんとお話ししているつもりだったが、どうも相手にはうまく伝わっていない様な気がしていた。
私が少し噛み合わない会話をママとママの姉としていると、誰かが「ただいま〜」と家に入って来た。
ママとママの姉は「あら、いいじゃない?」なんて、その女性の髪型を褒めたりしている。
美容院に行ってきたと思われる女性は「ケーキ買ってきたから食べましょう」と白い取手のついた箱を出した。
今思えば駅前の不二家で買ったと思われる苺ショートとモンブラン(さつまいものペーストに栗の甘露煮が乗ってる黄色っぽいの)が入っていた。
モンブランはそのケーキを買って来た女性が食べていた。
和やかにケーキを食べたあと「もうこんな時間だから帰るわね」と女性2人は帰って行った。
なぜか一番上の叔母とママが部屋を出て、道の方へ歩いて行くのを団地の上層階から見下ろして「バイバイ👋」をした。
あれ?なんで髪の毛切った人が残ってママがどこかに行っちゃったの?
そんな思いをずっと質問をしたけど、私のおしゃべりが髪を切ってきた人に伝わることはなかった。
何日も何週間も何カ月も何年も「この女の人は、なんで私のママじゃないのにママだっていうのかな?」と思っていた。
幼稚園に通う年になる前だったと思うが、自分のアルバムを見た。
生まれたばかりの頃から私を抱っこしているところをみると、この人が私のママなのか?
あの日、私を置いていったひとは三姉妹の二女のおばさんだったってこと??とそれまでの自分の人生の中で、相当長い間勘違いしていたことを認めざるを得なかった。
だから、まだ一歳になるかならないかの幼児の頃の記憶がはっきり残っている。
大人になってから、母親とその話をしたが「そんなこと(美容院に行くために、姉たちに私をみてもらったことや、モンブランを買ってきたこと)もあったかも」くらいの認識だった。
多分ホントの母親よりニ女のほうが、私的に好みの顔だったんだろうなと推測。