【上山晃語録2】ゲームメーカーとしてのヨーロッパ
さて、今日はお話ししたいのは、欧州のゲームメーカーとしてのパワー。欧州はそのパワーを歴史的な背景から蓄積してきて、今なお世界に影響与える能力を持ってるからね。
欧州の歴史的パワー:大航海時代からEU設立まで
まず欧州は、大航海時代に始まる巨大なarbitrage貿易を通じて、富を蓄積してきた。そのピークが何かと言えば、間違いなく産業革命だった。この時、驚異的な生産性により、資本の蓄積が飛躍的に進んだわけよ。
さらに、神という絶対的な存在を宗教だけに限定し、世俗の世界と政治に対しては新たなルールを採用するようになったんだよね。その新たなルールこそが、科学と啓蒙主義。神の代わりに、これら普遍的な原理が世俗世界の重要な価値観を決定するようになった。
こういった流れの中で、ナポレオン戦争後のフランス革命によって、帝国主義から国民国家へのルール変更が進んだ。この「国民国家」というゲームのルールを作り出したのは、欧州自身だよね。
国民国家という政治体制を科学と啓蒙主義という価値観で作り上げた。かつての帝国主義が重視していなかった、宗教、民族、人種などを中心的なアイデンティティとすることで政治体制をまとめていった。
この変革のきっかけとなったのが、ナポレオン戦争後の国民国家というモデルだったんだよね。さらには、第一次世界大戦を経て、帝国主義の終焉と国民国家の台頭が進んだわけ。ドイツ、ロシア、オスマン、ハンガリー・オーストリアといった帝国群が終わり、国民国家という新たなゲームが開始されることになる。
その後、特に1970年代からは、植民地の独立を認めたイギリスやフランスなどの国々が、新たな国家を形成するベースとなった「国民国家」の概念を展開させ、そのルールに基づいて世界は変わっていくわけ。ヨーロッパがこの新たなゲームのメイカー的な役割を果たしたんだよね。
ところが現代になるとヨーロッパは自らの作った「国民国家」を一部否定し、EUを設立した。なぜなら、国民国家の設立が第一次、第二次世界大戦を引き起こし、排他主義が強まることを経験したからね。特に、ヒトラーの時代には、愛国主義が行き過ぎて簡単に戦争を引き起こす可能性があった。そのため、ヨーロッパは戦争を回避するために、国民国家というルールを一部否定し、新たな概念であるEUに置き換える努力を始めたんだ。
1957年、戦場で3回も対立したフランスとドイツが、共に経済共同体を創るために手を組んだ。それがヨーロッパ共同体の始まりね。その時点では、鉄鋼産業と、それを支える石炭が主要な産業だったね。これらを基盤に、共同で事業を進めるという話になった。
それから数年後の1962年には、フランスの大統領ドゴールとドイツの首相アデナウアーが会談を持った。100年以上世界をリードしてきたヨーロッパが、冷戦の影響でソビエト連邦とアメリカの影響下にある中で、彼らの地位が相対的に弱くなっているという認識を持ってたんだ。だからこそ、ヨーロッパが一体化し、より統合されるべきだという結論に達したわけ。
そうしてECは次第にEUに移行していった。外交や軍事なども共有するべきだという考えが広がり、これまでの国民国家モデルや主権国家という概念を、EUという上位の概念に置き換えるようになった。これって、まるでアメリカの州政府と連邦政府の関係みたいなものだよね。
新たな覇権を狙うEU
この新しいEUというシステム、どうなるかはまだ分からないけど、確かにチャレンジングだよね。今EUでの課題は、財政権が国家主権の下にあること。つまり、金融政策や軍事政策、予算権など、財政に関する最も重要な権限はEUではなく個別国家が持っているわけ。
予算配分権を持たないEUは、民主主義としての弱点を露呈している。そのため、欧州議会の影響力は相対的に弱いわけ。一方で、高級官僚たちは強力な力を持ち、規制を徹底的に行う役割を担っている。
EUがゲームメーカーとして役割を果たす中で、特に環境問題に注目が集まってるよね。環境問題については、欧州委員会が強い影響力を持っている。欧州委員会とはなんぞやというと、高級官僚なんだよ。約2万5000人の高級官僚。アメリカの公務員数と比べたら100分の1以下よ。
彼ら高級官僚は世界に影響を及ぼすために、EUのルールをグローバルのルールにすることを目指している。彼らは自分たちのエリートネットワークを駆使し、影響力を拡大しようとしている。特にブリュッセル周辺のNGOは500以上もあり、彼らと協力してルール作りに取り組んでいる。これがいわゆる「ブリュッセル効果」ってやつだよ。
今のEUは、財政や軍事力を持たない新しいシステムの中で、規制を通じてゲームメーカーとして君臨しようとしている。これは本当に新しい試みだよね。アメリカや中国と比べて見ると、欧州は経済や軍事の面では多少劣るかもしれないけど、環境問題、ビッグデータ、消費者保護なんかの領域では手堅く立ち回ってる。
EUって、消費者保護に関してはすごく厳しく、その規制は欧州内だけにとどまらずに、グローバルに広げていこうとしてる。欧州委員会では約2万5千人の官僚が働いていて、そのうちの80%は大学院卒だよ。これだけのエリートと知識を持つ人間が、高級官僚として仕事をし、議会の中でも政策を作り出していく。それに、欧州委員会の人々はNGOやコンサルティングファームなどとも連携を持ち、自分たちの意見を世界に広げていく。これが、現在のEUの一面だね。
今のEUを考えるとき、欧州委員会や高級官僚は、世論やメディアなどを駆使して、多くの人に自分たちの価値観を伝えていくような手段を取っている。欧州、アメリカ、中国、これらの地域はこれからの世界の主導者として考えなきゃいけないんだよ。ただ、その指導者としての立ち位置や方向性は、アメリカや中国、欧州それぞれが微妙に異なるところがあるんだよね。
欧州の特徴は、元々キリスト教を前提にしていて、ユニバーサルな視点で、常に普遍的なものを追求する文化と歴史があるということ。啓蒙主義や科学という普遍的な価値観が国家を形成してきたけど、その国家主義が限界に達したときに、より大きな視野であるEUを形成したんだよね。それが、今のEUの特徴と言えるかもしれない。
こういう視点から見ると、国家主義だけで世界を見るのは少し短絡的になりつつあるというのが、今の欧州の現状だね。アメリカと中国はそれぞれ大国としての立場から互いに競い合っているけど、EUは全く違う視点を持っている。EUは自分たちの規制を通じてグローバリゼーションを推進していくんだという、この特徴は恐らく今後も変わらないだろうね。
EUとアメリカの立場は、一見して一致しているかもしれない。例えば足元のロシアへの制裁についてとかね。しかし、価値観や経済の面では、EUは中国やロシア、中東と一定の妥協をしながらも、自身の価値観を広めるような行動をとるだろうね。
EUの動きは世界のルール作りに大きな影響を及ぼすだろうから、それを詳しく見ていく必要がある。これが、今日の基本的なテーマというわけ。
ユーロ誕生の背景とEUの経済的挑戦:危機を乗り越えて
さてさて、ちょっとユーロという通貨のことについて話してみようか。覚えてるかな、1985年のプラザ合意の話。あれがアメリカドルをドル高に導く原因になったんだよ。当時、アメリカの輸出産業がつらい状況になってしまってね。で、その結果、アメリカは「おい、日本やヨーロッパ、ちょっとお前らの通貨を上げてくれない?」と頼むわけ。それでG5という五大経済国がそれぞれに為替市場で介入を行った。
為替介入しながらドイツは、「ああ、オレ達はアメリカを軍事的にも経済的にも助けなきゃならないんだな」っていう課題に直面し、それが嫌で、ドルに対抗できる通貨を作ろうとしたのが、ユーロの誕生の始まりだったんだ。1999年のこと。
その後、ユーロが登場してからは、ドイツが経済的に圧倒的な力を持つようになったんだよね。日本と同じで、生産力や産業力が強い国は通貨が強くなる。だから日本の円も高くなり、競争力のない国内製造業はASEANや中国に進出していくしかなかった。一方でドイツはユーロを使って通貨を自国の実力値よりも約30-40%も割安にすることができたんだ。
ユーロを導入した結果、ドイツが圧勝。でも、EU全体としては何も対抗できなかった。EU事態は財政権が弱いからね。2010年から2015年にかけてEUでは財政金融危機が起きたけど、各国が自分の財政をコントロールしていたから、EUとしては予防策を出来なかったんだよ。
ギリシャのように働かない人が多いと、ドイツはギリシャに自己改革を求めることになって、状況はますます困難になってしまったんだよ。結局、欧州中央銀行(ECB)が各国の債権を大量に買うことで、危機を乗り越えることになったんだ。この一連の動きで、EUの金融システムが救われた。
またね、2020年に始まったコロナ禍を見ても、EUが一体となって対策を取れなかったことが大きな問題になった。人と物と金の自由な移動を促進してきたEUだけど、コロナによって人々の移動が制限されたからさ。そんな中でも、裕福な国々はワクチンを確保できたけど、イタリアやスペイン、ギリシャなどはうまくいかなかったよね。
でも、批判を受けてEUは反応したんだ。それが7500億ユーロの共同財政危機対策。これはEUにとって、超大きなステップだった。これまで、金融に関しては各国中央銀行が、財政に関しては国家が行ってきたけど、ようやくEUがその役割を果たし始めたんだ。つまり、コロナ禍はEUが財政権を国家から奪い始めるきっかけになった可能性があるということ。
こうやってみると、危機が起きる度に、EUは少しずつまとまってきているよね。これがすごく重要なポイントで、今のEUは、ドイツの一人勝ちの状態から脱し、よりバランスの取れた形になりつつある。つまり、これまでドイツから圧力を受けていたEU官僚も、今ではドイツの影響をあまり受けず、EU全体の利益を考えることができるようになってきた。
だから、EUは一つの経済圏としてまとまる可能性もあると思うんだ。結局、EUは一歩ずつ前に進んでいるということを認識しておくべきだよ。
EUの野望:新たなヘゲモニーへの挑戦
EUは、その普遍的価値観を土台に、国々をまとめつつ、それらの価値観を世界中に広めようと考えているよね。大航海時代以降、世界をリードしてきた欧州のプライドに火をつけて、その力を再び現すんだ、と思っている。世界大戦以降、アメリカやロシアにパワーが移ったけど、民主主義、自由、平等といった普遍的な価値観を前面に押し出して、環境問題や個人データ保護など、今日的な問題解決を軸にしてグローバルなゲームを展開していこうとしている。
全部を欧州がゲームメイクするわけではなくて、あくまでも限定的な価値観の範囲で世界に影響を与えていこうという目論見だよね。価値観を普及・啓蒙することによって、自分たちのゲームのルールを広げていくってわけだよ。
エネルギーについては、石炭の時代を築いたイギリス、石油の時代を主導したアメリカと、ここ200年間、大量のGHG(温室効果ガス)を排出してきたわけだよね。一方、EUは、これからはエネルギー投資を一新して、再エネへとシフトしていこうと思ってる。これはライフスタイル、考え方、交通システムといった全体を一度壊して再構築する大プロジェクト。ここには経済成長の大きな可能性があるんだよ。EUはこれをしっかり狙っている。
再エネの基礎となる思想やイデオロギー、価値観をEUがリードすることによって、経済的にも有利な立場を確保できるんだってわけ。だから、再生可能エネルギーはEUにとって超重要な戦略だと理解しなきゃならない。
つまり、ヨーロッパはその価値観をベースに、新しいヘゲモニーを作ろうとしている可能性があるんだよね。
要約
・欧州は大航海時代の貿易と産業革命を通じて富を蓄積し、科学と啓蒙主義の価値観で「国民国家」モデルを構築した。しかし、二度の世界大戦後、排他主義が強まる「国民国家」の問題を認識し、自身はより統合される方向に進んでEUを設立。
・EUは強固な予算配分権を持たず、弱点を有する。しかし、規制・ルール作りを通じてゲームメーカーとしての役割を果たし、特に今は環境問題に注力している。欧州委員会の高級官僚はEUのルールをグローバルに広めようとし、「ブリュッセル効果」を通じて世界に影響を及ぼしている。EUは規制を通じてグローバリゼーションを推進し、世界のルール作りに大きな影響を与えると考えられる。
・1985年のプラザ合意が独自の通貨を導入する動きを促し、ユーロが誕生。その結果、ドイツは経済力を増し、ユーロの割安さによる利点を享受した。一方、EU全体では金融危機やコロナ禍に対する対策が取れず、各国の独自行動が目立った。しかし、金融危機対応やコロナ危機対応などを経て、EU全体が一つの経済圏としてまとまる可能性が見えてきている。
・EUは普遍的価値観を前面に出し、その価値観を世界に広めることで影響力を持とうとしている。特に、今後のエネルギー投資の再エネへのシフトは大きな経済成長の可能性を秘めており、EUがそのリーダーシップを握ることで新たなヘゲモニーを築く可能性がある。
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