見出し画像

kono星noHIKARI 第31話

DETONATOR I              2022.04.18


   鼻先と前脚でこじ開けて入ろうとドアをカリカリするロジーにやっと追いついた。
ノア「なんでそんなに急ぐんだよ。いつもの散歩だよ?ほら、ドアがちゃんとロジーを確認できないよ」

   ノアの言葉に、ハッとしたロジーがドアの前でスンとお座りする。ドアが開くやいなや、無理やり身体を滑り込ませる。

   ロジーが向かった先は、オフィスの窓辺で、どんよりと霞む朝のビル群を眺め佇む白いTシャツにグレーのスゥエットの高梨だ。
   人の出入りが少ないオフィスに、知らない人がいる気配にロジーは興奮している。ここに来る人は、善良な人だと思っているからだ。

ノア「ロジーッ!」
   既にロジーは尻尾をぶんぶん振り短い手を延ばし、異常に発達した脚力で振り向いた高梨目掛け飛びつく。

高梨「お前がロジーか!」
   常に上から目線な印象の高梨が相好を崩して飛んできたロジーを両手で受け止める。ロジーは高梨の顔を舐め回す。

ノア「ロジー!だめだ。戻れ!」
   低い声のノアは機嫌が良くない。これは悪い人なのか?取り敢えず、ロジーは匂いを記憶してから高梨の胸を蹴飛ばして降りノアの横にピタリと座った。

   
高梨「グフッ!ロジー、随分……利口じゃないか。ノア、おはよう」
   胸を押さえている。
   

ノア「早いですね」

高梨「随分早く目覚めてしまったよ。君たちに興味がありすぎて、ワクワクしてる。そして、僕は今、MUGENの上に立っているのだろ?」
 と、その場で足踏みをする。

   ノアはそれには答えず、キッチンに向かい、冷蔵庫からペットポトルを抜き、足元に置いた器に半分入れる。ロジーがぴちゃぴちゃと飲み始める。ボトルの残り半分はノアがゴクゴクと飲みほす。

   ノアは薄手の黒のパーカーとセットの膝丈のショートパンツ、白いスニーカーを履いている。
ノア「何でひとりでここにいるの?」
 

   高梨はオフィスの草木を指先で触ったり、花の匂いを嗅いだりしてる。
高梨「ニコが来て、この部屋だけは自由にしていいって開けてくれた。まあ、全てのカメラやセンサーが僕にロックオンしてるとは思うけどね」
   柔和な眼差しのまま、部屋の四隅を見る。
高梨「カメラもセンサーもない。でもあるんだろ?どんな技術?多分私の想像では追いつけない。ねぇ、君たちって何者?」

ノア「何者って何?人だよ」

高梨「触れちゃいけない部分を覗くのが好きでね。それで、昨日の騒動にもなっちゃったと思うんだけど」

ノア「にしてはあんたは無防備すぎるよ!」

高梨「心配してくれるんだ?」

ノア「オレらは小さい頃から鍛えられているから、咄嗟の事も回避できるんだけど、あんたは無理だろ?」

高梨「オレら?ふ~ん」

   ノアは言ってからまずかったかと思ったが、高梨は続けた。

高梨「普通の人間だからだよ。特殊な君たちとは違ってね。無理ではないよ。護ってと頼めば人が来る。まあ、おかげで今まで無事に生きてこれたし」

ノア「お金で雇ったヤツらが、昨日みたいな状況で助けると思う?」

高梨「もう少し高いサービスなら助けてくれるかな。ああ、そうだ。お礼を言ってなかったね。助けてくれて、どうもありがとう」
   言いいながら真っ直ぐに柔和な笑みを向ける。

ノア「ルカを助けたついでだよ」
   ──なんだろう。好奇心の塊の子供が大きくなったみたいだ。
ノア「あんた、11歳の時にお金を儲けるマニュアルを作って売り捌いたって?」

高梨「それは間違いだ。10歳と11ヶ月だ」

ノア「1ヶ月違うだけじゃん。なんてことしてんだよ」

高梨「不自由はしてなかったけど、欲しいものは自分のお金で買いたいと思ってね。自分でも出来そうな儲かるものが何か調べて…」
   オフィスを歩き回った高梨がノアの目の前のキッチンカウンターの椅子に座る。
高梨「1冊30万で売れたよ。一般に売られていたものは酷くてね。それを完璧なものにして増刷した。それで旧ソ連軍の機関銃が買えた」

ノア「機関銃?」

高梨「とても重厚で気高く美しかったよ」

   ノアは呆気に取られながらも、高梨を随分しゃべる人だなと思う。思い当たる。気位が高くてシャイなくせに、心が開くと、とめどなく言葉が溢れる青森の山村の一人暮らしの老人だ。酪農の経験があって、動物についても色々教えてくれた。流石に青森の方言に慣れるまで時間は掛かったが。

高梨「バレた時は親にひどく叱られましたよ。すぐ海外に転校させられて、15歳で戻ってきた」

   親という言葉に、ノアがぴくりと反応する。ロジーがノアの手の平を優しく舐める。

ノア「オレ、ロジーと散歩行くから、大人しくしててよ」

   【ロジー】と名札のあるロッカーから、自分のキャップとハーネスを取り出す。

高梨「大人しく?勿論ですよ」

ノア「あ、冷蔵庫の中のもの、名前が書いてなかったら、食べたり飲んだりしていいから」

   ハーネスを装着されたロジーが尻尾をピンと立てて、颯爽と廊下に向かう。

   高梨はこのビルの住人が、不思議でならない。キツく尋問される訳でもなく、危害を加えられる訳でもない。

   カウンターから雲が低くまとわりつくビル群を眺める。
  未だかつて経験したことの無い場面に自分はいるのではないかと、嬉しくて胸が高鳴り口元が緩む。

   廊下の向こうから来たニコにロジーが尻尾を振り回す。

ニコ「おはよう。いる?」

ノア「おはよ。いたよ」

ニコ「どうだった?」

ノア「あれはねえ〜青森のじっちゃんだよ」
 と言って、吹き出す。

ニコ「ええ?」

   ニコの後ろからパタパタとリオが走ってきて、
リオ「おはよ!間に合ったぁ」
  と、散歩に合流する。

ノア「行ってくるね~」

ニコ「うん。あ、気を付けて……じっちゃん??」
   ノアの言葉に不思議がりながら、ハーネスをどっちが持つかで揉めながら歩くふたりとロジーを見送る。

   これからニコはオフィスで高梨から事情聴取をし、ダニーはルカの部屋で事情聴取をする。終了後、ニコとダニーで、ふたりの話を照らし合わせることにしている。

 オフィスのニコと高梨はソファーに向かい合って座っている。

高梨「ジェフくんの一件の翌年。しばらく後だ。6月18日に会った」

ニコ「間違いない?」

高梨「私だって、覚えてますよ。わざわざ釜山に来たものだからね」

 ふたりの会話をモニタリングしながら、シークレットルームのジェフが昨年の6月18日のルカの行動を調べている。

ニコ「このビルのことは知ってましたよね」

高梨「そう。噂があったからね。精密機器が大量に搬入されてるって。しばらくかかりましたよね。完成するまで」

ニコ「僕は当時のことは知らない」

高梨「何故、あなた達がここにいるのか、すごく興味を持っていた。ヘリも時折下りる。路上カメラにつきっきりで。何人か人を雇ったりもした。偶然なんだよ。ジェフくんを捕らえたのは。佐伯の妹から連絡が入ってね。利用させてもらった」

ニコ「無関係な人間を巻き込まないでくれ」

高梨「その後にルカくんだ。間違いなく、ルカだよ。巻き込まれたのは私ではないのか?記憶力はあるよ。異常に疲れていたルカに『私に会ってくれ』と懇願されたんだ。なのに、一向に来てくれないから。だから、サインを送ったりしたんだが」

ニコ「なぜ?無視しても良かったんじゃないか?」

高梨「無視したかったさ。でも、『みんな死ぬぞ』とも、ルカが言ってたんだ。あまりにも尋常じゃなかった。必死で.......」

ニコ「それは誰かに言った?」

高梨「いや、言ってない」

ニコ「そう。携帯返すよ。心配してる家族も居るでしょ?」
 と、手渡す。

高梨「え、いいの?」

ニコ「連絡していいけど、この場所と内容は伝えないでもらいたい」

高梨「分かってます。随分信用されてますね」

ニコ「何かあっても、どんな対処もできるので」

高梨「素晴らしいことだ。君たちはここで何をしてるか、教えてくれないか?」

ニコ「まだ、全部は話せない」

高梨「これ以上踏み込めば、私の身も危なくなるってことか。丸っきり、私だって君たちを信用してる訳でもないし。君たちは隠していることがたくさんある。そうだろ?」

 一旦、ニコは聴取を辞め、シークレットルームへ向かう。ジェフが昨年の6月18日前後のルカの行動を調べ終わっている。

ジェ「ルカ、このビルいる。韓国行けない。ビルの窓にbig birdぶつかた日」

ニコ「あの日か」
──確かに記憶がある。大きな鳥をタオルに包んでワタワタと走ってきたのはルカだ。ぶつかってきたのは羽が折れて飛べない状態だったフラミンゴで、泣きそうな顔で覗き込むノアとルカ、ジェフが見守っていた。覚えている。僕が治療した。

 行方不明のフラミンゴの情報を検索すると、ある動物園が探していると知った。
 フラミンゴは「大好きだよ」とノアに撫でられながら、大人しく抱えられていた。ビルまで迎えに来た、動物園の担当者にノアとルカが渡した。その後、外出したものはいない。

 出入りをチェックしても間違いはなかった。その前後の数日間も、ルカに不信な行動はない。

 高梨を調べたが、飛行機で韓国に渡り、港近くのホテルに泊まり、船の荷を確認し、3日間滞在後飛行機でイタリアへ向かっていた。

 ダニーもシークレットルームに入って来た。
ダニ「どうジェフ?」

 ジェフがある画像をモニタに映した。
 釜山の港の路上カメラだ。

 広い港を走るひとりの影が映る。画像を大きくする。
 既に背格好、走り方で誰かが分かる。画像を鮮明にする。高梨を探して走り回っている。
ニコ・ダニ「ルカだ......」

ジェ「高梨の言たこと正しい」

 暫く沈黙が続いた。

 ジェフが調べたが、ルカのGeminiがリクエストされた形跡はない。

ダニ「ルカの話も違和感のある部分は無い。考えられるのはひとつだ」

ニコ「………未来のルカが過去にTRANSした」

 ハッとしたジェフが大きい声でを出す。
ジェ「ダメ、それダメよ。最大の犯罪よ」

ニコ「そこまでして、高梨と僕らを繋げなくてはいけなかったって事だよね。『みんな死ぬぞ』って、言ってたって」

ジェ「地球の未来?」

ニコ「未来を目撃したんだ。皆死ぬくらいのことが、おこりうるんだ」

ジェ「ノアのGalaxy body clockが発動しなかたからみんな死んだ?」

 ダニーもジェフもニコも苦い表情のまま、押し黙る。しばらくしてダニーが口を開く。

ダニ「だろうね。KPnsだけだったら、高梨は巻き込まない......、何かのアクシデントがあったんだ。もっと、高梨を知る必要がある。自分の未来は今のルカは知らないだろうし」

ダニ「今の我々のこの状態は未来のルカが仕組んだ?」

ニコ「いや、ルカだけでなくノアのスペックを発動させようとするTopの目論みも混在してる。俺たちはみんな死ぬんだ。それを知っているのは未来を見た未来のルカだ。僕たちが巡り会って、全てが繋がるように、ルカは過去にも動いたんだ」

ダニ「死ぬ直前に未来のルカがルカ自信や俺たちに仕掛けたとしたら、かなりの手間だぞ」

ジェ「ずっと過去に戻らなきゃよね?」

ダニ「戻った時に何か俺たちに伝えてくれてもよかったのに」

ニコ「いや、ルカの性格上、それはできないよ。しかも、ダニーには辛い思いを2度もさせなければならない。無理強いをしないで、地球を救おうと思わせたかったんだ。それにルカの愛する人も守りたいだろうし」

ジェ「ルカの思い通りなの?今」

ニコ「わからない。でも、緻密なことは得意だからね」

ジェ「プログラミング見たことある?So beautifulよ!」

ダニ「ここで高梨と接触することも計算し尽くされてるんだ。もう俺たちはルカの計画に乗るしかない」

ジェ「ルカにこの可能性を伝えるか?」

ニコ「いや、あまりルカに意識させたくない。ルカも当然、気付いてると思う。思い詰めなければいいけど。自分でこの事実を受け止めるためにも、これから精神的に健康でいてもらいたい」

ジェ「個人の 時空移動は重大犯罪。だからノアのGalaxy body clockもTop隠す。本人戻らない。証拠ない」

ダニ「ルカの覚悟はわかった。高梨から、もっと情報を引き出してくれ」

ニコ「そうだね」

 また、皆はそれぞれの場所へ戻った。

kononoHIKARI *目次


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集